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FUKUSHIMA with Béla Tarr /福島映画教室2024 山田洋次監督・犬童一心監督マスタークラス

© 福島映画教室2024

 2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う避難指示対象地域となった福島県内の12市町村を舞台に2023年2月6日(火)より開催中の、タル・ベーラ監督によるマスタークラス。
 マスタークラスの一環として、2月13日(火)15:00から、活動の拠点となる葛尾村のみどりの里せせらぎ荘にて、一般公開イベント「山田洋次監督・犬童一心監督マスタークラス」が行われた。

 2011年3月11日の東日本大震災直後に起きた東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、住民が避難を余儀なくされた福島県浜通りに位置する12市町村。この場所で芸術家やクリエーターの活動の機会を作る「ハマカルアートプロジェクト」の支援を受け、2月6日から〈FUKUSHIMA with Béla Tarr〉が開催中だ。2月13日には本プロジェクトに講師として参加しているハンガリー出身のタル・ベーラ監督を敬愛する山田洋次監督が、犬童一心監督と共に会場となっている福島県双葉郡葛尾村のみどりの里せせらぎ荘を訪ね、会談が実現。さらにタル・ベーラ監督の指導を受けて現在、作品を制作中の受講生に向けての公開マスタークラスが行われ、近隣住民を含む一般の参加者など約50名が参加した。

 非公開で行われた会談で、今回参加した受講生選抜の経緯やタル・ベーラ監督の作品作りについて熱心に言葉を交わしていた山田洋次監督。その後、監督作『たそがれ清兵衛』(2002)の上映に続き、5時30分からマスタークラスが始まった。会場には、屋外で撮影中の3人を除く4人の受講生が参加し、福永壮志さん、大浦美蘭さん、シュ・ジエンさん、ロヤ・エシュラギさんの順で自己紹介。地元・浪江出身で、震災当時16歳だった大浦さんは「福島のことをドキュメンタリーとしてどう扱ったらいいのか、年々、分からなくなってきていた。新しい表現が見つかるのではと応募した」と語った。また、今回が4度目の来日となるエシュラギさんはタル・ベーラ監督との縁を振り返り、会場に向けて制作中の映画への出演者を募る一幕もあった。

 続いて犬童一心監督が登壇し、イベント開催までの経緯を語った。「ハマカルアートプロジェクト」が芸術家の滞在型制作を支援する「アーティスト・イン・レジデンス」プログラムを開始し、その採択プロジェクトの中にかつて山田洋次監督からその作品のすばらしさを教えられた「タル・ベーラ」の名前を発見して驚いたこと、さらに、タル・ベーラ監督の訪日を知った山田監督の「映画魂に火がつき」今回の出会いが実現したと語った。
 そこからは山田洋次監督も加わり、本格的にマスタークラスが開始。まずは山田監督が「タル・ベーラ監督は謎めいた伝説の人物。こんな素敵な機会はないと思い、やって来ました。こういう人とは深い話をしなくても会うだけで意味がある」と、直前の会談を振り返った。さらに、タル・ベーラ監督の『ニーチェの馬』(2011)の印象を、学生時代に見たフェデリコ・フェリーニの『道』(1954)を見た際の驚きと感動に重ね「映画の技術を華麗に使うのではなく、モノクロームで描く地味な親子の話で、こんなにも深い感動を与えることができるのか、こんな映画ってあるんだ」と感じたと強調した。
 犬童監督は92歳の現役監督である山田洋次監督のキャリアを振り返るには時間が足りないとしながら、「若い監督たちのためのマスタークラスなので若い頃のお話を聞きたい」とトークをスタート。山田監督が松竹撮影所の助監督時代の思い出や、小津安二郎作品への思いの変化などを振り返った。自身、監督には向いてないのではと思った時期もあるというが、助監督としてついていた野村芳太郎監督が実力を認めてくれていることを知って力を得たこと、また、同じく野村監督の勧めで、黒澤 明作品などで知られる脚本家の橋本 忍と共同作業した際のエピソードも披露された。当時の撮影所ではすべての助監督が監督に昇進できたわけではなく、山田監督の同期8人のうち、監督になれたのは2人だったという。ようやく監督としてデビューが決まったものの、デビュー作のクランクインを前にどう撮ればよいか分からなくなってしまった際にも野村芳太郎監督を訪ね、「スタッフが寄ってたかって教えてくれる。スタッフを信頼できるかどうかが大事だ。映画監督にとって信頼というのは道徳ではなく、才能にかかわる」とアドバイスされたという。
 最後に犬童監督からこれまで数多く作ってきたコメディへの思いを尋ねられた山田監督は「絶望している人に対しては励ましの言葉というものがあるが、本当の絶望を感じている人はなかなか立ち上がれない。しかし、大笑いをすると、明日も生きていこうと思える。ただ、笑いは人間を勇気づけるけれど、とても難しく、演出家、俳優には才能がいる」と語った。

© 福島映画教室2024

 終了後の質疑応答では、受講生の福永壮志さんが「いつ自分が監督としてやっていけると思えたか」と質問。山田監督は第3作の『馬鹿まるだし』(1964)を例に挙げ、スタッフが集まった試写で誰も笑わず、自身も面白いと思えなかった作品を、劇場でお客さんが大笑いしながら観ていると知って自信を得たと振り返った。大浦美蘭さんから「もし、学生時代に自由に映画が撮れたらどんなものを撮りたかったか」と聞かれると、学生時代は観念にこだわりがちだったと回想し、「映画は映像だから形がないといけない」と語った。実は、タル・ベーラ監督も、日々のワークショップの中で受講生たちに「あなたがなにを撮りたいのか『見せて』ください」と繰り返し声をかけている。二人の巨匠の言葉が重なった瞬間だった。また、初めての長編作品のシナリオを執筆中というロヤ・エシュラギさんがアドバイスを求めると、黒澤 明の『生きる』(1952)を例に、構成の大切さを丁寧に説明した。
 まだ雪が残る山間の村に、山田洋次監督の映画に対する情熱が温かく伝わる貴重な機会となった。

 登壇者:山田洋次監督、犬童一心監督

FUKUSHIMA with Béla Tarr開催概要

 タル・ベーラは今日の映画界でもっとも尊敬を集めるアーティストの一人。
 彼は現代文明の崩壊と自然の復讐をセルロイドのフィルム上に描き出し、映画的な時空間を創り上げてきた。
 10年前の2013年にはサラエヴォに映画学校「film.factory」を創立し、多くの優秀な映画人を輩出した。
 その中には今回のマスタークラスの記録をする小田 香さんもいる。タル・ベーラ氏により2024年の2月6日から2週間マスタークラスを開催することになった。場所は2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う避難指示対象地域となった福島県内の以下の12市町村[田村市、南相馬市、川俣町、 広野町、楢葉町、富岡町、川内町、大熊町、双葉町、 浪江町、葛尾村、飯舘村]から選定される。

 実施期間:2024年2月6日(火)〜2月19日(月) 14日間
 対象地域:福島県12市町村
 招へい監督:タル・ベーラ
 記録監督:小田 香
 Xアカウント:@FFIR2024

 一般公開イベント:
  ・受講者および講師紹介・上映交流会
  日にち:2024年2月8日(木)
  場所:朝日座(南相馬市原町区大町1丁目)
  スケジュール:
  午前の部 10:00 開場
       10:30~12:00 受講者紹介
  午後の部 13:00 開場
       13:30 講師紹介および上映
       13:30 ◎『鉱ARAGANE』
            [2015年、68分、小田香監督作品]
       15:00 ◎『ニーチェの馬』
            [2011年、154分、タル・ベーラ監督作品]
       18:30 終了
 料金:
  午前の部 無料
  午後の部 3000円[ただし田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村の福島12市町村の住民の皆さまは1500円]
 チケット予約:https://fukushimawithblatarr-0208.peatix.com/(外部サイト)

 ・成果報告会・上映交流会
  日にち:2024年2月18日(日)
  場所:葛尾中学校(双葉郡葛尾村落合字菅ノ又14-2)
  スケジュール:13:00 開場 13:30 開始
  料金:無料
  チケット予約:詳細が確定し次第、Xアカウントにて告知予定

 この事業は令和5年度 地域経済政策推進事業費補助金[芸術家の中期滞在支援事業]の支援を受けています。

 主催:福島映画教室実行委員会
 協力:ドリームゲート、鈴木映画、ビターズエンド、スリーピン、コミュニティシネマセンター、南相馬市、葛力創造舎、葛尾村

マスタークラスの先生:招へい監督 タル・ベーラ氏について

 1955年ハンガリー、ペーチ生まれ。
 哲学者志望であったタル・ベーラは16歳の時、生活に貧窮したジプシーを描く8ミリの短編を撮り、反体制的であるとして大学の入試資格を失う。その後、不法占拠している労働者の家族を追い立てる警官を8ミリで撮影しようとして逮捕される。釈放後、デビュー作『ファミリー・ネスト』(77)を発表。この作品はハンガリー批評家賞の新人監督賞、さらにマンハイム国際映画祭でグランプリを獲得した。1994年に約4年の歳月を費やして完成させた7時間18分に及ぶ大作『サタンタンゴ』を発表。ベルリン国際映画祭フォーラム部門カリガリ賞を受賞、ヴィレッジ・ボイス紙が選ぶ90年代映画ベストテンに選出されるなど、世界中を驚嘆させた。続く『ヴェルクマイスター・ハーモニー』(2000)がベルリン国際映画祭でReader Jury of the “Berliner Zeitung”賞を受賞、ヴィレッジ・ボイス紙でデヴィッド・リンチ、ウォン・カーウァイに次いでベスト・ディレクターに選出される。2001年秋にはニューヨーク近代美術館(MOMA)で大規模な特集上映が開催され、ジム・ジャームッシュ、ガス・ヴァン・サントなどを驚嘆させると共に高い評価を受ける。
 多くの困難を乗り越えて完成させた、ジョルジュ・シムノン原作の『倫敦から来た男』(07)は見事、カンヌ国際映画祭コンペティション部門でプレミア上映された。2011年、タル・ベーラ自身が“最後の映画”と明言した『ニーチェの馬』を発表。ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)と国際批評家連盟賞をダブル受賞し、世界中で熱狂的に受け入れられた。
 90年以降はベルリン・フィルム・アカデミーの客員教授を務め、2012年にサラエボに映画学校film.factoryを創設。2016年に閉鎖した後も、現在に至るまで世界各地でワークショップ、マスタークラスを行い、後輩の育成に熱心に取り組んでいる。フー・ボー(『象は静かに座っている』)や小田 香(『セノーテ』)などの映画監督が彼に師事しており、2021年カンヌ国際映画祭でA24が北米配給権をピックアップして話題となった『Lamb』のヴァルディマー・ヨハンソンもfilm.factoryの出身。タル・ベーラは同作のエグゼクティブ・プロデューサーも務めている。ブダペスト、プラハ、カイロ、ケララなどでもマスタークラスやワークショップを精力的に行っている。
 インスタレーションや展示も積極的に手掛け、2017年にアムステルダムのEye Filmmuseumで“Till the End of the World”、2019年にはウィーンで“Missing People”を開催している。2003年エルサレム国際映画祭、2011年イスタンブール国際映画祭、エレヴァン国際映画祭、レイキャビク国際映画祭で栄誉賞、2023年12月にはヨーロピアン・フィルム・アワード栄誉賞など多数受賞している。

マスタークラスの記録監督:小田 香氏について

 1987年大阪府生まれ。フィルムメーカー/アーティスト。イメージと音を通して人間の記憶(声―私たちはどこから来て 、どこに向かっているのか―)を探究する。
 2011年、ホリンズ大学教養学部映画コースを修了。卒業制作である『ノイズが言うには』(38分/2010年)が、なら国際映画祭学生部門nara-waveにて観客賞を受賞。東京国際LGBT映画祭をはじめ国内外の映画祭で上映される。
 2013年、映画監督のタル・ベーラが陣頭指揮する若手映画作家育成プログラムであるfilm.factory (映画制作博士課程)に第1期生として参加し、拠点地であるサラエボで3年間暮らす。その間、『呼応』(19分/2014)、『フラッシュ』(25分/2015)などの短編他、film.factoryの作家陣と協働してオムニバス作品を多数制作。2014年にはポーラ美術振興財団在外研究員として助成を受け、2016年に同プログラムを修了し博士号取得。
 ボスニアの炭鉱を主題とした第一長編作品『鉱 ARAGANE』(68分/2015) が山形国際ドキュメンタリー映画祭・アジア千波万波部門にて特別賞を受賞。リスボン国際ドキュメンタリー映画際、マル・デル・プラタ国際映画祭、台湾国際ドキュメンタリー映画祭などを巡り、2017年に国内劇場公開に至る。
 サラエボでの映画制作の日々や、自身の映画制作の原点について綴ったエッセイ映画『あの優しさへ』(63分/2017)が完成し、ライプティヒ国際ドキュメンタリー&アニメーション映画祭ネクスト・マスターズ・コンペティション部門にてワールドプレミア上映。主たる舞台であるボスニア・ヘルツェゴビナやセルビアの映画祭でも上映される。
 2019年最新作長編『セノーテ』が完成。山形国際ドキュメンタリー映画祭、ロッテルダム国際映画祭などに招待され各国を巡回。メキシコ・FICUNAM映画祭、スペイン・ムルシア国際映画祭にて特別賞を受賞。
 2020年、第1回大島渚賞を受賞。(ぴあフィルムフェスティバルが新設した「映画の未来を拓き、世界へ羽ばたこうとする、若くて新しい才能に対して贈られる賞」)
 過去作の特集と共に『セノーテ』国内劇場公開。映画配信サイトMUBIで独占配信。(日本とメキシコを除く)
 2021年、『セノーテ』の成果により第71回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。
 長編映画制作と並行して短編映画や映像作品も制作しており、ほとんどの作品で撮影・サウンドデザイン・編集を自ら行っている。絵画の制作や展示にも取り組んでおり、近年では東根市まなびあテラス「小田香 光をうつしてー映画と絵画」(山形/2020)での個展開催や、3331アートフェア(東京/2019)に絵画作品で参加。市原湖畔美術館「メヒコの衝撃展」(千葉/2021)や、青森県立美術館と協働して行うアート・プロジェクト「美術館堆肥化計画」(青森/2021-2023)にも参加している。

クラウドファンディング概要

タイトル:タル・ベーラ監督による映画制作マスタークラス開催を応援してください!
 募集URL: https://motion-gallery.net/projects/Fukushima_BT_fmir (モーションギャラリーサイト内、外部サイト)
 募集期間:2024年2月5日(月)12:00~5月7日(火)23:59 ※ 日本時間
 目標額:150万円
 ※ 支援者へのリターンとして、ステッカーやトートバッグ、小田香監督が監督する本マスタークラスの記録映像のラッシュ映像もしくはラフ編集映像の視聴権を想定。

<福島映画教室受講者8名>

 飯塚陽美(日本)
 ロヤ・エシュラギ(イラン/コスタリカ)
 大浦美蘭(日本)
 清水俊平(日本)
 シュ・ジエン(中国)
 ツァイ・カイチェン(中国)
 福永壮志(日本)
 リン・ポーユー(台湾)

 この事業は令和5年度 地域経済政策推進事業費補助金[芸術家の中期滞在支援事業]の支援を受けています。

 主催:福島映画教室実行委員会
 協力:ドリームゲート、鈴木映画、ビターズエンド、スリーピン、コミュニティシネマセンター、南相馬市、葛尾村、富岡町、Katsurao Collective

(オフィシャル素材提供)

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