インタビュー

「タル・ベーラ 伝説前夜」タル・ベーラ監督 オンライン・インタビュー

©Marton Perlaki

 いまなお世界中に熱狂的な支持者を生み出している巨匠タル・ベーラ監督が初期に手がけた日本初公開となる3作品を4Kデジタル・レストア版で、いよいよ今週1月29日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにて一挙上映される。この度、オンラインで行われたタル・ベーラ監督のインタビューが到着した。さらに22歳で手がけたデビュー作『ファミリー・ネスト』の本編映像も解禁となった。

タル・ベーラ監督

 1955年ハンガリー、ペーチ生まれ。哲学者志望であったタル・ベーラは16歳の時、生活に貧窮したジプシーを描く8ミリの短編を撮り、反体制的であるとして大学の入試資格を失う。その後、不法占拠している労働者の家族を追い立てる警官を8ミリで撮影しようとして逮捕される。釈放後、デビュー作『ファミリー・ネスト』(77)を発表。この作品はハンガリー批評家賞の新人監督賞、さらにマンハイム国際映画祭でグランプリを獲得した。
 その後、ブダペストの映画芸術アカデミーに入学。在籍中に『アウトサイダー』(81)、アカデミーを卒業後に“Prefab People”(81)を発表。卒業後はMAFILMに勤務した。79年から2年間、ブダペストの若い映画製作者のために設立されたベーラ・バラージュ・スタジオの実行委員長も務めた。
 「秋の暦」(84)で音楽のヴィーグ・ミハーイと、『ダムネーション/天罰』(88)では作家のクラスナホルカイ・ラースローと出会い、それ以降すべての作品で共同作業を行う。
 1994年に約4年の歳月を費やして完成させた7時間18分に及ぶ大作『サタンタンゴ』を発表。ベルリン国際映画祭フォーラム部門カリガリ賞を受賞、ヴィレッジ・ボイス紙が選ぶ90年代映画ベストテンに選出されるなど、世界中を驚嘆させた。続く『ヴェルクマイスター・ハーモニー』(2000)がベルリン国際映画祭でReader Jury of the “Berliner Zeitung”賞を受賞、ヴィレッジ・ボイス紙でデヴィッド・リンチ、ウォン・カーウァイに次いでベスト・ディレクターに選出される。2001年秋にはニューヨーク近代美術館(MOMA)で大規模な特集上映が開催され、ジム・ジャームッシュ、ガス・ヴァン・サントなどを驚嘆させると共に高い評価を受ける。
 多くの困難を乗り越えて完成させた、ジョルジュ・シムノン原作の『倫敦から来た男』(07)は見事、カンヌ国際映画祭コンペティション部門でプレミア上映された。2011年、タル・ベーラ自身が“最後の映画”と明言した『ニーチェの馬』を発表。ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)と国際批評家連盟賞をダブル受賞し、世界中で熱狂的に受け入れられた。
 90年以降はベルリン・フィルム・アカデミーの客員教授を務め、2012年にサラエボに映画学校film.factoryを創設。2016年に閉鎖した後も、現在に至るまで世界各地でワークショップ、マスタークラスを行い、後輩の育成に熱心に取り組んでいる。フー・ボー(『象は静かに座っている』)や小田 香(『セノーテ』)などの映画監督が彼に師事しており、2021年カンヌ国際映画祭でA24が北米配給権をピックアップして話題となった「Lamb」のヴァルディマー・ヨハンソンもfilm.factoryの出身。タル・ベーラは同作のエグゼクティブ・プロデューサーも務めている。
 インスタレーションや展示も積極的に手掛け、2017年にアムステルダムのEye Filmmuseumで“Till the End of the World”、2019年にはウィーンで“Missing People”を開催している。

今回、22歳で手がけたデビュー作『ファミリー・ネスト』が45年の時を経て、日本で初めて劇場公開されます。そのお気持ちをお聞かせください。

 製作当時は、ただ怒りに満ちていました。社会全体に対して、人々の置かれている最悪な状況に対して憎んでいました。映画づくりについてはほとんど何も知りませんでしたが、映画が大好きだったから、お金も何もなかったけど、当時の人々が置かれているリアルな生活を見せられるものを、ただシンプルに作りたかった。
 映画製作をはじめたきっかけは、船舶工場で働いていて、いつも惨めな労働者階級の人たちと身近に接していたことです。私は彼らの日常や、よりよい生活を求めて努力する姿を描きたかったのです。
 『ファミリー・ネスト』は、5日間で撮影し、1万ドル程度の予算でした。キャスティングしたのは映画を始める前から知っている人たちです。こういう人たちが身近にいたのです。

社会問題を扱う初期の作風からスタイルが変化していったのは何故でしょうか?

 映画を撮り始めた当初は、社会的な怒りに満ちていました。社会がいかに酷いかを伝えたかったのです。その後、問題は社会的なものだけでなく、もっと深いところにあるのだと理解するようになりました。それは存在論的な問題、さらには宇宙論的な問題なのです。それが、私が理解しなければならなかったことであり、映画のスタイルが変化した大きな理由です。

あなたの初期傑作群を初めて劇場で観る観客に一言いただけますか?

 目を見開いて、心を開いて、この作品を観ていただきたい。そしてできれば、楽しんでください。

 さらに、“ジョン・カサヴェテスやケン・ローチの作品を想起させる“ドキュメンタリー・タッチで描かれた22歳の鮮烈なデビュー作『ファミリー・ネスト』本編映像が到着!

 この度解禁となった本編映像は、タル・ベーラ監督のデビュー作『ファミリー・ネスト』。“ジョン・カサヴェテスやケン・ローチの作品を想起させるドキュメンタリー・スタイルで撮られた『ファミリー・ネスト』は、映像をとらえるタル・ベーラの天性の才能を示している。”(NY Film Society of Lincoln Center)と言われるように、22歳で手がけたデビュー作とは思えない、鮮烈な作品となっている。

 7時間18分の傑作『サタンタンゴ』や56歳の引退作『ニーチェの馬』にみられる長回しを用いた“タル・ベーラ・スタイル”とは異なる、ドキュメンタリー・スタイルで描かれているが、リアルな人々を描きたかった、という思いがデビュー作から引退作まで一貫していることが分かる。

タル・ベーラはいかにして、唯一無二の映画作家になったのか――伝説の『サタンタンゴ』以前の足跡をたどる、日本初公開3作を4Kデジタル・レストア版で一挙上映

 今回公開となるのは、タル・ベーラ監督が初期に手がけた『ダムネーション/天罰』、『ファミリー・ネスト』、『アウトサイダー』の3作。94年に手がけた全150カット、上映時間7時間18分の伝説的傑作『サタンタンゴ』に至るまでの軌跡をたどることができる、伝説前夜のラインナップとなっている。いずれの作品も今回日本初公開であり、4Kデジタル・レストア版で一挙上映する。タル・ベーラがいかにして唯一無二の映画作家となったのか。ぜひ自ら確かめてほしい。

『ダムネーション/天罰』

 (1988年/121分/モノクロ)

 『サタンタンゴ』原作者であり、本作以降すべての作品で共同作業を行う作家クラスナホルカイ・ラースローがはじめて脚本を手がけた。さらに「秋の暦」から音楽を手がけるヴィーグ・ミハーイが本作にも携わり、”タル・ベーラ スタイル”が確立された記念碑的作品。罪に絡めとられていく人々の姿を「映画史上最も素晴らしいモノクロームショット」(Village Voice)で捉えている。

 監督・脚本:タル・ベーラ
 脚本:クラスナホルカイ・ラースロー
 撮影監督:メドヴィジ・ガーボル
 音楽:ヴィーグ・ミハーイ
 編集:フラニツキー・アーグネシュ

『ファミリー・ネスト』

 (1977年/105分/モノクロ)

 わずか22歳で手がけた鮮烈な監督デビュー作。住宅難のブダペストで夫の両親と同居する若い夫婦の姿を、16ミリカメラを用いてドキュメンタリー・タッチで撮影した。不法占拠している労働者を追い立てる警察官の暴力を撮影して逮捕されたタル・ベーラ自身の経験を基にしている。ハンガリー批評家賞の新人監督賞、さらにマンハイム国際映画祭でグランプリを獲得した。

 監督・脚本:タル・ベーラ

『アウトサイダー』

 (1981年/128分/カラー)

 ブダペストの映画芸術アカデミーに在籍中に製作された長編2作目。社会に適合できないミュージシャンの姿を描いた、珍しいカラー作品。タル・ベーラは本作に対し、「当時のハンガリー映画に映っているのは嘘ばかりだった。本当の人々の姿を撮りたかった。これは映画に対するアンチテーゼだ」と語っている。

 監督・脚本:タル・ベーラ
 編集:フラニツキー・アーグネシュ

オフィシャル・サイト(外部サイト)

「タル・ベーラ 伝説前夜」公式サイト
タル・ベーラはいかにして、唯一無二の映画作家になったのか―伝説的な7時間18分の『サタンタンゴ』以前の足跡をたどる、日本初公開3作を4Kデジタル・レストア版で一挙上映

公開表記

 配給:ビターズ・エンド
 1月29日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにて一挙公開!

(オフィシャル素材提供)

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