

登壇者:金子修介(映画監督)/佐井大紀(プロデューサー・映画監督)
TBS 収蔵の貴重なドキュメンタリー・フィルムをデジタル修復して劇場公開する「TBS レトロスペクティブ映画祭」。昨年実施した第1回目となる寺山修司特集が現在でもなお力強い映像表現であると大変好評を博した。
第2回目は、実相寺昭雄特集。『ウルトラマン』などの特撮作品やATG映画、CM、オペラまで手掛け、その美学と感性で唯一無二の存在感を放った奇才。そんなクールな印象の彼も、デビューしたての20代若手社員の頃は、作品の度に異なる演出スタイルを試みる青臭いまでに熱い青年だった。今回はそんな“青の時代”に実相寺が手掛けた、ドラマ、音楽番組、ドキュメンタリーの計8作品を、60年の時を経てスクリーンに蘇らせる特集企画が5月2日(金)よりスタートした。
初日のトークゲストは、金子修介監督が登壇。本特集上映の企画プロデューサーである佐井大紀と、実相寺昭雄についてたっぷりと語り合った。
激しい雨にも関わらず、貴重な作品を観ようと多くの観客が詰めかけ、場内はほぼ満席となり熱気あふれる中、ゲストの金子修介監督と本映画祭の企画者である佐井大紀が登壇。MC役である佐井が金子監督と実相寺昭雄との初期の「出会い」から質問しトークがスタートした。
金子修介監督が初めて実相寺昭雄監督の存在を意識したのは、小学生の頃だと言う。怪獣ブームが到来し、テレビで『ウルトラマン』が放送されるようになった時期だった。毎週現れる怪獣に夢中になった金子少年は、クレジットに並ぶ監督名の中でも「実相寺昭雄」の名前に特に惹かれたという。その理由は、変わった演出――たとえば奇妙なアングル、意味深な構図、反権力的なテーマ性など、明らかに他の回とは異なる演出手法に、子どもながらに強い印象を受けたからだ。『ジャミラ』や『スカイドン』など、個性的な怪獣を通じて、映像に込められた「物語の深さ」を感じ取っていた。やがてこの感覚が、自身が映像を志す大きな動機となっていく。
高校生時代、金子監督は8ミリ映画を制作する学生だった。1971年、『シルバー仮面』の放送開始にあたり、第1話・2話の演出を担当していたのが、実相寺昭雄監督だった。「あ、実相寺だ!」と即座に分かったという金子監督は、この時期、既に実相寺監督の作風に対する直感的な理解と敬意を抱いていた。青年になってから本格的に映像業界に進んだ後も、実相寺作品からの影響は根強く、特にワイドレンズを駆使した低位置カメラの使い方や、「カッコいいけどどこか異質な」表現スタイルに強く共鳴していた。監督本人とは数回しか直接会っていないものの、その作品群は金子監督の創作意欲の原点の一つであり続けた。

また中盤は金子監督が企画していた『ウルトラQ ザ・ムービー 星の伝説』の裏話に話が及んだ。映画化は、最終的に実現しなかった幻の企画であるが、きっかけは、脚本家・じんのひろあき氏から金子監督に持ちかけられた提案が発端だった。金子監督もその企画に共鳴し、伊藤和典氏や島田満氏らと共に脚本チームを結成、本人も積極的に参加して構想を練り3話構成のオムニバス作品になる予定だった。地球をテラフォーミングしに来た怪獣ガラモンの新解釈や、海底ピラミッド、夢の中の物語など、斬新な構想が用意されていた。しかし、商品化権や配給会社との調整、スポンサー問題などが複雑に絡み、最終的には白紙に戻された。「実相寺監督がその企画を読んで『これでいいじゃないか』と言ってくれたのが救いだった」と金子監督は語る。当時のクリエイターたちの熱意が詰まった、知る人ぞ知る未完成プロジェクトだった。
さらに話は、実相寺から特撮の話題へ移る。金子監督が手がけた平成『ガメラ』三部作は、日本特撮史における金字塔であり、子ども向けの枠に収まらない深みを持つシリーズとして高く評価されている。金子監督は、「怪獣映画に子どもを登場させるのは嫌だった」と語り、怪獣との精神的な繋がりを描くために少女を主人公に据えた。撮影では、「怪獣を信じさせる演技指導」を重視し、俳優たちの想像力を最大限に引き出す演出を徹底。また、実写と特撮の境界線に対する鋭い感覚から、スタッフとの意見の共有を綿密に行った。特撮が単なる“見せ場”ではなく、物語の本質と密接に関わるべきだという信念が、平成ガメラをあれほど強い作品にしたのだといえる。
トークイベントの最後には、司会の佐井より4月10日に発売された金子監督の著書「無能助監督日記」に触れ1時間に及ぶトークショーは終わった。

実相寺昭雄特集

上映作品ラインナップ(作品解説・佐井大紀)
『おかあさん』

母親を主題にした1話完結のスタジオ・ドラマのシリーズ
当時この番組は、若手ディレクターの登竜門だった。今回は弱冠20代の実相寺が演出した全6作品を上映。実相寺が個人所蔵していたために上映が実現した貴重な作品もある。
第178話「あなたを呼ぶ声」(デジタル修復版)(1962年6月14日放送)
脚本・大島 渚。25歳の実相寺による記念すべきドラマ初演出作品
産婦人科で妊娠を告げられた主人公は、その帰り道見知らぬ貧しい少年に「お母さん」と呼ばれ、彼の世話をかいがいしく焼き始める。『愛と希望の街』に感激した実相寺が大島に脚本を依頼、大島からは酷評されるも、冒頭の長回しから実相寺らしい技巧的演出が光る。
脚本:大島 渚 出演:池内淳子、戸浦六宏
第184話「生きる」(デジタル修復版)(1962年8月2日放送)

後の実相寺組常連が集結、セット撮影の技巧が光るドタバタコメディ
貧乏アパートに囲われた二号の娘と、それにすがる強欲な母。そこに隣人の学生やヒモも絡み、感情むき出しのコメディが展開する。隣接する部屋のセットを縦横無尽にカメラが動き、独特の劇的空間が演出されている。石堂淑朗、冬木 透、原 保美と、後の実相寺組の常連たちが早くも集結。
脚本:石堂淑朗 出演:菅井きん、原保美 音楽:冬木 透
第190話「あつまり」(デジタル修復版)(1962年9月13日放送)

鳴り響くジャズと躍動的な映像で時代を切り取った、和製ヌーヴェル・ヴァーグ
ブルジョアの若者たちは夜な夜な集まり、親の金で酒や睡眠薬に耽り退廃的に過ごしていた。その中で、自身で生活費を稼いでいた女性モデルが妊娠、恋人に結婚を迫るが「堕ろせ」と一蹴される。『京都買います』の斉藤チヤ子と、若き日の田村正和のシリアスな演技にも注目。
脚本:田中堅太郎 出演:斉藤チヤ子、田村正和
第207話「鏡の中の鏡」(デジタル修復版)(1963年1月10日放送)

美術や画面構図を駆使して観念を表現する、実相寺アングルの原点
女優の美年子は自らを束縛する父に対して、今は亡き元女優の母の身代わりを演じさせないで欲しいと反発する。継母との関係や腹違いの兄との出会いから、彼女は自らのアイデンティティを模索していく。観念的なテーマを、異様に細長い食卓や鏡合わせを駆使して演出する実相寺の手腕が光る。
脚本:須川栄三 出演:朝丘雪路、和田 周
第212話「さらばルイジアナ」(デジタル修復版)(1963年2月14日放送)

主演・原知佐子。目元、口元、オペラ……実相寺演出が炸裂する鮮烈な人間ドラマ
神学校の寮を舞台に、学生と若く美しい義母の関係が鮮烈に描かれるこの作品が、後に妻となる原知佐子との初仕事だった。フィルム、VTR、生放送ブロックが混在し、当時のテレビ・ドラマの在り方を伝える意味でも貴重。川津は緊張と興奮のあまり台詞を忘れ、鎮静剤を打って生放送に臨んだそうだ。
脚本:田村 孟 出演:原知佐子、川津祐介 音楽:八木正生
第236話「汗」(デジタル修復版)(1963年8月8日放送)

音楽番組風のセットで臨んだ、姉妹の強烈な愛憎劇
堅実に生きる姉と破天荒な妹の対立を、団地を舞台に繰り広げる人間ドラマ。一部ロケ映像を含んだ生放送のスタジオドラマだが、音楽番組のようなセットを組んで様式美・実験的なスタイルを貫いている。「坂本九ショー」と見比べると、当時実相寺はドラム缶がお気に入りだったことも分かって面白い。
脚本:恩地日出夫 出演:稲垣美穂子、加賀まりこ
『7時にあいまショー』「坂本九ショー」(HDリマスター版)(1963年6月8日放送)

ドラマ風の演出で魅せる、TBSに残る最古の坂本 九出演の音楽番組
手持ち長回しを駆使した九ちゃんのヒット・メドレーや、司会・古今亭志ん朝の軽妙なトーク、原知佐子のナイーブな朗読などで飽きさせない構成。音楽番組なのに精巧なドラマ用のセットを組んだため、スタッフや坂本 九はスタジオが変更になったと思い込み、収録に遅れてやって来たという逸話もある。
構成:永 六輔 出演:坂本 九、古今亭志ん朝、永 六輔、いずみたく 朗読:原知佐子
『現代の主役』「ウルトラQのおやじ」(HDリマスター版)(1966年6月2日放送)

特撮の神様・円谷英二の真髄に迫った伝説のドキュメンタリー
実相寺が円谷プロに出向するきっかけとなった作品。『サンガ対ガイラ』の撮影風景や、実相寺の上司でもある円谷の長男・一との親子対談、怪獣による円谷へのインタビューなど、構成・編集・音楽どれを取っても実相寺節全開。脚本家・金城哲夫も冒頭に出演し、構成も少し手伝ったとのこと。
出演:円谷英二、円谷 一、金城哲夫 音楽:冬木 透
本映画祭の企画・プロデュース佐井大紀監督作品も同時上映
「日の丸~寺山修司40年目の挑発~」

TBSドキュメンタリー史上最大の問題作が、半世紀の時を経て現代に蘇る
1967年放送の街録番組『日の丸』と同じ質問を現代の街中で行い、二つの時代を比較したドキュメンタリー作品。60年代の実験精神を後継し、テレビが成熟しきった今に一石を投じることを目指した。金城哲夫脚本の『ウルトラセブン』「ノンマルトの使者」も劇中で引用されている。
監督・編集:佐井大紀 出演:安藤紘平、シュミット村木眞寿美、今野勉 語り:堀井美香、喜入友浩(TBSテレビ) イラスト制作:臼田ルリ
「方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~」

かつて「カルト教団」として大バッシングを受けた謎の集団-いま明かされる「楽園(ハーレム)」の真実
1980年、東京・国分寺市から10人の女性が突如姿を消したと報道される。彼女達を連れ去ったとされる謎の集団「イエスの方舟」。2年2ヵ月の逃避行の末、主宰者・千石剛賢が不起訴となり事件には一応の終止符が打たれる。しかし彼女たちの共同生活は、45年たった今も続いていた……。
監督・編集:佐井大紀 出演:千石まさ子、千石 恵 イラスト制作:臼田ルリ
<上映館>
【東京】Morc阿佐ヶ谷 5/2〜5/22
【京都】アップリンク京都 5/23〜6/5
【大阪】シネ・ヌーヴォ 6/7〜6/20
【名古屋】シネマスコーレ 近日公開
プロデュース:佐井大紀
エグゼクティブ・プロデューサー:津村有紀
総合プロデューサー:松田崇裕、小池 博
協力プロデューサー:青木基晃、石山成人
テクニカル・マネージャー:宮崎慶太
アーカイブ・マネージャー:崎山敏也、古山 徹
企画:大久保竜
協力:実相寺昭雄研究会
製作著作:TBS
公式サイト:https://note.com/tbs_retro(外部サイト)
X:@tbs_retro
(オフィシャル素材提供)