
今年で生誕99年を迎えるマリリン・モンローが世紀の大スターになっていく苦悩と努力に満ちた人生を捉えたドキュメンタリー映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』が5月30日公開より全国公開となる。12年の歳月を変えてリサーチと取材をおおこなったイアン・エアーズ監督とエリック・エレナ プロデューサーのインタビューが到着した。
イアン・エアーズ(IAN AYRES)監督 プロフィール

カリフォルニア州ロサンゼルス出身、現在はパリ在住。French Connection Films共同創設者。プロデューサー、作家、映画監督として活躍している。キース・ヘリング、グレゴリー・ペックからピンクイルカの謎に迫るドキュメンタリーまで50本以上の作品を手がけ、監督としては教会についてのドキュメンタリー『A Glimpse of Heaven』や、『The Jill & Tony Curtis Story』、『Tony Curtis: Driven to Stardom』などトニー・カーティスを題材にした3本のドキュメンタリーを制作している。
エリック・エレナ(ERIC ELLENA)プロデューサー プロフィール

フランス、パリ出身。French Connection Films共同創設者。プロデューサー、作家、映画監督として活躍している。2000年以来、60本以上のドキュメンタリーを手掛け、世界中のテレビ局やVODプラットフォームで放送され、いくつかは映画館で公開されている。キース・ヘリングやアルベルト・ジャコメッティといったアーティストや、トニー・カーティス、ポール・ニューマン、グレゴリー・ペック、ジェリー・ルイスなど俳優のドキュメンタリーを多くプロデュースしている。
マリリン・モンローのドキュメンタリー映画を製作するきっかけは?
イアン・エアーズ監督:トニー・カーティスのドキュメンタリーを作っている時に、インタビューをした誰もがマリリン・モンローの話を持ち出してきました。すごく興味深い話が多かったので、プロデューサーのエリック・エレナに相談したところ、1本の映画にしたらどうかと提案されました。映画を作るからにはすべてを細かく調べ、真実を掘り下げて、正確なストーリーを伝えたいと思い、12年をかけて調査を行い、このドキュメンタリーが完成しました。しかし、マリリンに対する幻想と真実が世の中に混在しているため、そのどちらを取るべきかという葛藤はありました。つまり、世間が思い描いているマリリン像と彼女の真実の姿が真逆だからです。

マリリンの真実となる部分をどのように見極め、どの情報を作品に組み込んでいくかはどのように決めましたか。
イアン・エアーズ監督:15歳の頃からマリリンに関するあらゆる本を読んでいたので、これまでにインタビューを受けたことのない人たちがたくさんいることは分かっていました。まず、彼らに連絡を取りましたが、既に亡くなっていたり、取材を断る人もいましたが、承諾してくれた人もたくさんいました。なかでも、幼少期のマリリンを養子に迎えたボーレンダー家の娘、ナンシーがインタビューを受けてくれたのは大きな収穫となりました。取材を受けるにあたって彼女が出した条件は、真実を伝えてほしいということ。これまでに出版された多くの本で、ボーレンダー家の養父母がマリリンに暴力をふるったり、意地悪をしていたと書かれていましたが、それは真実ではありません。実際のボーレンダー家は彼女のことを愛していたし、本当に養子に迎えたいと考えていて、マリリンは家族の一員でした。

エリック・エレナ プロデューサー:多くの彼女の伝記本で、マリリンが言ったことをそのままに書いていることがありますが、その発言が必ずしも真実とは限らないと監督は気づいたのです。だからこそ、監督は読んだものをただ信じるだけでなく、実際に当時の彼女を知っている人たちに会い、インタビューをし、そこから本当の彼女の姿や生い立ちを導き出すことで、真実だと感じることを見つけていきました。
一般的にマリリンの死は自殺と言われていますが、本作ではマフィアによる暗殺だと言い切っています。なぜ、そう考えたのですか。
イアン・エアーズ監督:当初、薬物の過剰摂取だったと信じていたし、そう信じたかったです。当時のマリリンは20世紀フォックスとの契約を更新し、その後の仕事を楽しみにしていました。実際、すべては順調に進んでいたのです。マリリンが落ち込んでいたという人もいましたが、私たちが取材した人たちの多くが、最後の日々はとても幸せそうだったと話しています。『女房は生きていた』(マリリンの死で未完)の次作となる映画の計画もありました。ミルトン・グリーンと作った制作会社でもっと映画をつくる予定だったのです。
しかし、あの日にロバート・ケネディと喧嘩したという証言が出てきました。マリリンに関する本やドキュメンタリーで金儲けをしようとする人たちがいることも分かっていたので、彼女がケネディ家やマフィアと関わっていたという話は信じていなかったのですが、真実を知るために、いろんな意見に耳を傾けることにしました。
まず、アルコールが合法化された後、マフィアがハリウッドを支配するようになった経緯について調べました。当時、マフィアは密造酒で大金を稼いでいたため、合法化されると税務署や国税庁とトラブルを抱えるようになり、結果、刑務所に収監される事態にもなりました。大物のアル・カポネが未払いの税金で刑務所に入れられたようにです。彼らは違法に稼いだお金を、映画スターでマネーロンダリングし始めたのです。多額のお金がマリリンにつぎ込まれ、マリリンのキャリアをスタートさせていたのです。
マリリンは、シカゴのマフィア集団のボスであるサム・ジアンカーナと繋がっていました。彼はジョー・ディマジオの親しい友人でしたが、マリリンを利用していたのです。彼はマリリンが持つ手紙の中に、ジョン・F・ケネディからの手紙やロバート・ケネディからのラブレターがあることを見つけました。ロバート・ケネディはマフィアを壊滅させようとしていた政治家です。

マリリンの人生にマフィアが関係していると信じるようになったのは、トニー・カーティスがインタビューの中で、彼女のキャリアをスタートさせたのはマフィアであり、彼女を終わらせたのもマフィアであったと語ったからでした。
エリック・エレナ プロデューサー:また、マリリンの伝記作家の一人で、とても評価の高いロイス・バナーにもインタビューした際、彼も自殺か薬物の過剰摂取だと思いたかったが、調査もしたところ、辻褄の合わない事実が積みあがっていき、マリリンは殺害されたという結論に達したと話していました。私たちはサム・ジアンカーナの説が一番あり得る話だと感じたのです。そう断定するのは難しいですが、マリリンとケネディが不倫関係にあったことは、話を聞いた全員が言っていたことでした。
映画業界の男性優位主義はワインスタイン事件まで繋がっているように感じました。特殊な業界のなかで、マリリンはどのような存在だったと思いますか。
イアン・エアーズ監督:マリリンの背後には、権力者やマフィアが暗躍していたため、業界内で彼女に敬意が払われることはありませんでした。やりたくないことも拒否できなかったのに、それでも周りから尊敬されることはありませんでした。当時の映画業界での男性優位な環境は今よりももっと酷く、マリリンは自分自身を犠牲にし、壊れていったのです。加害者たちが自分たちの悪行の責任を取らされている昨今の状況を知ったら、きっと喜ぶでしょう。

エリック・エレナ プロデューサー:マリリンが登場する前からセックス・アピールを利用してキャリアを築いてきた女優はたくさんいました。ジーン・ハーロウやラナ・ターナーもです。ハリウッドでは長い伝統になっていました。マリリンがユニークだったのは、純真さを兼ね備えていたところです。性的というよりは、屈託のないセクシーさがある女優でした。だからこそ、男性だけでなく、女性にも愛されたのです。どこか守ってあげたい、抱きしめてあげたいと思わせるところがありました。
知名度の高いマリリンですが、最近では彼女の出演映画はあまり観られていないようです。本作が作られたフランスではマリリン・モンローはどのように評価されていますか。
イアン・エアーズ監督:若い世代の人たちには、美のロール・モデルとして捉えられていることが多いと思います。彼女の映画を見ているかは分かりませんが、彼女に関する本や写真を買う人も多く、彼女のようになりたいという憧れの対象になっているようです。SNSにはマリリンの写真や映画の映像があふれていて、マリリンはSNS上で生きていると言えるでしょう。以前とはまったく違う存在として若者の間で今でも人気があります。マリリンは時代を先取りしていて、今の時代の女性のようだと感じ、過去のスターではなく、現代に生きるスターのように存在しています。

公開表記
配給:彩プロ
5月30日(金)より ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国ロードショー
(オフィシャル素材提供)