イベント・舞台挨拶

『ラ・コシーナ/厨房』トークイベント

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 登壇者:和田彩花氏(アイドル)、森 直人氏(映画評論家)

 第74回ベルリン国際映画祭コンペティション部門で上映され、高い評価をうけた社会風刺を効かせたヒューマン・エンターテインメント『ラ・コシーナ/厨房』(6月13日[金]よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国公開)の公開に先立ち、6月3日(火)に渋谷・ユーロライブにてアイドルの和田彩花氏と映画評論家の森 直人氏のトーク付き一般試写会が開催された。

 本作の舞台は、スタッフの多くが移民で構成されたニューヨークの観光客向け大型レストラン「ザ・グリル」。その人間関係を時にユーモラスに、時に痛烈に描いたヒューマン・エンターテインメント。イギリスの劇作家アーノルド・ウェスカーが書いた 1959年初演の戯曲「調理場」を原作に、舞台をニューヨークの観光客向けレストランに移し、まぶしく先進的な街と、レストランで働きながらアメリカン・ドリームを求めて滞在する移民たちの対比が全編ほぼモノクロームでスタイリッシュに描かれていく。

 この度、爆発寸前の感情が渦を巻く、社会風刺&厨房エンターテインメント 映画『ラ・コシーナ/厨房』の一般試写会を6月3日(火)に開催。上映後には、ハロー!プロジェクト“アンジュルム”のグループでの活動経験を通して、現在はタレント活動やファッション・ディレクターなどとしても活躍中の和田彩花と映画について数々の著書を手がけ、ライターとしても活動している映画評論家の森 直人を迎えたトークイベントで、作品をたっぷりと深掘りした!

社会問題が“普通に描かれていること”がカッコいい

 衝撃かつ怒涛のラスト・シーンを鑑賞し終えたばかりの観客を前に「パワフルな映画でしたよね!」「どっと疲れが来てると思うんですけど、楽しくお話しできたらと思っています!」と森 直人(以下、森)と和田彩花(以下、和田)が笑顔で登場。ひと足早く鑑賞していた和田は、普段からエッセイや詩を書いているこそ「ズバリ。セリフがカッコいい」と、言葉選びが印象に残ったとコメント。「社会的なことって身近なはずなのに、映画では現実とはかけ離れている描写が多いと思うことがあって。でも、本作では社会問題を口にしている場面もあり、“普通に描かれていること”がカッコいいなと思いました」と、社会風刺を効かせた作風を絶賛。また料理人である主人公のペドロというキャラクターについて「メキシコの出身で常にビザの取得を目指し、夢見て料理を頑張るっていう立場。本来であれば多分差別を受けている側だと思うけど、女性との関係においては差別まではしていないものの、女性の意見を無視する、理解が乏しいという場面が出てきたのが良かったです」と述懐すると、森も「確かに、鋭いですね。僕は、移民の自動的な序列とかヒエラルキーに着目していたのですが、その反動として男女間にも出ると思うんですね。ジェンダー・バランス的なところもペドロとジュリアの間にもあると思う」と、主人公の恋愛間にも差別が描かれていると解説する。

A24『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の混沌が、このキッチンで起こってる

 本作の舞台であるレストラン「ザ・グリル」について、「ニューヨークのマンハッタン49丁目。本当に良い立地のレストランだと思う。ただ、この厨房の裏側に回れば、これからビザを取ろうとしている不法移民たちばかり。これはかなり“リアル”なところ。アメリカ社会の現在を打ち出してる部分じゃないですかね」と森は説明。「今、厨房ものっていうとドラマ・シリーズでは「一流シェフのファミリーレストラン」ですとか、Netflixドラマ『アドレセンス』と同監督フィリップ・バランティーニの『ボイリング・ポイント/沸騰』も厨房が社会の縮図になっていて、現代社会を凝縮するという視座があるように思う。本作はそれがとりわけすっごい濃厚という。つまり、メキシコヒスパニック系とアメリカの壁っていうのは、ペドロとジュリアの壁を表現しているようにも思う」と、厨房ものの作品の中でも、本作は突出したメッセージが込められているという。

 それに続けて和田は「外国で生活をしたことがある身としては、母国語で話すことができない中でコミュニケーションをとるというストレスはめちゃくちゃ大きいのが理解できるんです。ペドロのメキシコ語で泣き叫ぶこともできない。というシーンは共感しました」と実体験を交えて、主人公の苛立つ感情を代弁する。

 森は「(ペドロの恋人のジュリアには)アメリカの白人男性の元カレいますからね。もうこれだけで戦場のよう。アメリカの内戦を描いた、A24の『シビル・ウォー アメリカ最後の日』に実質近いような混沌が、このキッチンで起こってるような気がしました。本作と共振するようなところがある映画だと思います」と、本作は戦争映画に近いものを感じると述懐した。

 本作の原作は、イギリスの劇作家アーノルド・ウェスカーが書いた1959年初演の戯曲「調理場」。日本でも2005年に舞台演出家の蜷川幸雄の演出により「キッチン KITCHEN」として上演されるなど幾度となく舞台化されてきた作品でもある。森は、「ウェスカーは、1950~60年代の英国で起こった労働者階級の若手作家のムーブメント“怒れる若者たち(アングリー・ヤング・メン)”から出てきた代表的な人で、現実の不公平は不寛容を風刺する社会派の視点が強い方。例えば、映画でいうとケン・ローチ監督が後継というか、弟世代に属する存在。そして、今回はメキシコシティ生まれのアロンソ・ルイスパラシオス監督が人種のるつぼとか、サラダボールと表現するニューヨークを舞台に移したのが本作になるんですよね」と、原作者についても説明。

主人公ペドロと同じような経験!?「発狂しかけたこともある」和田彩花

 話題は全編ほぼモノクロームで描かれた演出について、和田は「モノクロじゃないと見てられないと思って。もしカラーだったら目をまっすぐ向けられない。そして、モノクロになると美的に映って、一つの瞬間が、このまま写真にしてもすごくいいなって思う構図とか、光の使い方が結構ありました。映像だけ見ていても綺麗でカッコいいなって。また感情を見せないところがアート的かつポップで軽やかで、結構好きでした」と映像美について言及すると、「確かに。フォトジェニックな強度のある画が続く映画ですよね。だから、カオスを描いてるんだけどもどこか美しい。被写体への距離感っていうのは、最初のニューヨークに出てくるシーンなども、まさにドキュメンタリー的なカメラですもんね。リアリズムと絵画的な強度みたいなものを共存させながら距離感を図っている映画だと思いました」と、各国の映画祭で称賛されているアロンソ・ルイスパラシオス監督の演出力について考察。さらに、「厨房ものの作品はたくさんありますが、大抵美味しそうに撮る。でも、本作だと逆ですよね。ルイスパラシオス監督は<アンチ・フード・ポルノ>という表現をしているのですが、そこが面白い」と本作の特徴を語った。

 そして森はハリウッド俳優ルーニー・マーラの出演について、「『ドラゴン・タトゥーの女』でデヴィッド・フィンチャー監督など、かなり才能のあるクリエイターとたくさん仕事されてきた人ですが、『ウーマン・トーキング 私たちの選択』(22)以来の復帰作として本作を選んでいます。スターである彼女が引き受けたっていうのも面白いですよね」とコメント。自身も仕事選びに軸があるという和田は、「アイドル・グループに所属している時、仕事として社会派の作品に触れることできなかったのでストレスは常に感じていました。フリーランスになった今は社会派の作品には積極的に関わっていきたい」と、ルーニー・マーラに重ねて自身の考えを述べた。さらに、アイドル時代の話に遡り、「デビューした時は忙しすぎて、みんなで脱走計画を立てて。実際ちょっと脱走してみたんですけど、すぐに捕獲されて説教されたっていう思い出もあります。発狂してしかけたこともあるし。リハーサル中に人間関係に疲れすぎて、もういっぱいいっぱいになって気づいたら叫んでいて」と、主人公ペドロのように忙しすぎて気が狂うようなことがあったというエピソードが出る場面も。

 最後に本作の背景について森は、「モノクロームでとらえていることで絶妙に抽象化されていて、時代設定がよく分からないように意図的にしてるんですよね。ただ描いていることは、完全に今に当ててきている。この状況よりさらにひどいことになるかもしれないというニュアンスすら感じる映画ですよね」と自身の考えを述べると、和田も「もはやリアルになってきてしまっていますよね」と現代の身近な社会問題を描いている作品だと同意し、 まさに“今観るべき映画”と太鼓判を押した。

公開表記

 配給:SUNDAE
 6月13日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開

 (オフィシャル素材提供)

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