
登壇者:〈上映前〉井上麻矢(プロデューサー)、知念洋輝(造園スタッフ)、宮城孝雄(ニーパンガズィマール管理者)、平 一紘監督
〈上映後〉平 一紘監督、Anly(主題歌「ニヌファブシ」)
司会:空馬良樹
1945年、沖縄戦。伊江島で激しい攻防戦が展開される中、二人の日本兵が木の上に身を潜め、終戦を知らずに2年もの間生き延びた――そんな実話を元にした映画『木の上の軍隊』の特別試写会が6月12日(木)、伊江村・はにくすにホールで開催された。地元・伊江中学校の生徒104人が出席した。上映後は、主題歌「ニヌファブシ」を書き下ろした伊江島出身シンガーソング・ライターAnlyの同曲初披露となるステージもあり、戦後80年の節目に平和の大切さを考える契機とした。
―上映前挨拶―
上映前、平 一紘監督は「明日からの沖縄先行上映を前に、今日この場で皆さんに初めて観てもらいたいなと思います」と伊江中学校の生徒に語り掛けた。

造園業を営み、本作のロケーション整備にも携わった知念洋輝さん。去年8月、本作で使うガジュマルの木を一時的に植えるため自宅敷地内の資材置き場で穴を掘っていたところ、戦没者とみられる約20人分の遺骨や遺品が発見された。そのことを踏まえながら「ガジュマルを通して平和のことや伊江島で起きたことについて知ってもらえたら」と話した。
戦時中、実際に2人の兵士が身を潜めていたガジュマルの大木を管理していた、元伊江中学校校長で村教育委員の宮城孝雄さんは「感動の連続になると思う」と話した。
舞台版の原案者・井上ひさしの娘で、こまつ座社長の井上麻矢さんは「平監督のもとで素晴らしい映画を作ってもらったので、伊江中学校の皆さんに観ていただけることを本当に楽しみにしていました。悲しいことがありましたが、ここで多くの方が生命の物語を紡いでいたんだってことを感じ取ってもらえたら嬉しいです」と話した。
―上映後、生徒からの質疑&平監督からのメッセージ―
上映後には平監督と主題歌を担当したAnlyの2人が登壇。本作を鑑賞したばかりの生徒からの質疑を受けた。「なぜこの映画を撮ろうと思ったのですか?」との質問に対して、本作をきっかけに沖縄戦に改めて向き合ったという平監督は「戦争について考えてもらう時に、『木の上の軍隊』のテーマ自体が、興味を持ってもらえる要素だと思います。戦争の悲惨さや平和の大切さを、この物語を通してより届けられるのではないかと考えました」と語った。

別の生徒からは「俳優の皆さんはどのような気持ちで撮影に挑んでいたのですか?」という質問が飛んだ。主演の堤 真一、山田裕貴の2人は、沖縄戦当時の痩せた日本兵を演じるにあたり減量していたことに触れ、平監督は「身体を作るというよりはむしろ、(空腹に苦しむような)気持ちを作るために食事制限をしていました」と裏話を披露。
「主題歌をなぜAnlyさんにお願いしたのですか?」という問いに、平監督は「Anlyさんしかありえないと思ってお願いしました。伊江島で撮れた伊江島の物語の中の伊江島の景色には、伊江島で生まれ育ったアイデンティティの歌声が聴こえてくるのが理想でした」と回顧。それを受けてAnlyは「私以外に誰がやるんだというくらいの気持ちで、使命感を持って一生懸命取り組もうと思っていました」と述べた。
作中では、戦闘で死亡したりケガを負ったりするシーンも生々しく描かれている。生徒からの「苦しそうに亡くなっていく俳優の皆さんの演技が上手だった」との感想を受けた平監督は「死者は漠然と数で捉えるのではなくて、『一人ひとりの死』としてしっかり描きたかった。そのためにも、死の苦しみを残酷さを通して伝えるという意図がありました。観ていて辛くなることもあったと思いますが、その反面、生きている喜びを感じるシーンや、笑ったりふざけたりするシーンが浮き出るように意識しました」と説明した。
さらに、生徒たちへのメッセージとして、作中で主人公の“木の上のふたり”が、些細な日常を希求していたことに触れつつ「当たり前の日常がいかに尊いのかを、この映画で描きました。学校帰りに海に行ったり、家族でスーパーに行ったり、そういったさりげない日常は(当たり前すぎて)忘れてしまうかもしれませんが、それを日常のこととして忘れられること自体が、平和な状態にあるのだと思います。この今の“平和の状態”がどんなものなのか、よく覚えていてほしいです」と語りかけた。
―Anlyさん歌唱―
上映後は、Anlyが主題歌「ニヌファブシ」を生初披露。「まだどこでも歌ったことがない」と明かすと会場からは拍手が沸いた。アカペラから始まる導入部分では透明感溢れる歌声で魅了した。生徒たちはAnlyから見ると“同じ中学校の後輩”。一人ひとりに真っすぐ届けるように歌い上げ、先ほど観たばかりの本作の世界観に一気に引き込んでいた。

さらに生徒たちからは、「木の上で思いをぶつけ合う二人の姿が印象的だった」「自分が見ている風景が映画の中にあって面白かった」「自分たちにとって身近な場所が出てきていたので、もし戦争が今起きると、自分たちがこういうことに巻き込まれるのだなと実感できました」「80年前の沖縄でこんなことがあったんだなと分かりました。自分のおばあちゃんもこの戦争を体験しています。おばあちゃんにもっと話を聞いていきたいし、この作品を観て『戦争をしてはいけない』と思いました」とそれぞれの心に感じたことも語っていた。
戦後80年の節目。戦争体験者が少なくなる中、沖縄戦の記憶をどのように紡いでいくのかが改めて問われている。本作を通じて、伊江島の中学生たちは故郷の島で起きた悲劇に向き合い、生きることの尊さに関心を深める一日を過ごした。
『木の上の軍隊』は、明日13日より沖縄県内にて先行公開され、7月25日より全国公開となる。
伊江島に根を張った“命の木”と、20人の遺骨
本作のモデルとなった山口静雄さんと佐次田秀順さんが当時登っていたガジュマルの木“ニーバンガズィマール”は、伊江島のミースィ公園の近くに今も現存しており、多くの命が失われたことを忘れさせない象徴的な存在となっている。沖縄の土に根を張り続けるガジュマルは、戦争の記憶、土地の記憶を宿す“命の象徴”そのものであり、この映画を貫くテーマを体現している。本作の撮影で使用された“ガジュマルの木”は、ミースィ公園に、美術部や現地の造園業者協力のもと、数ヵ月かけて移植した本物の大木だ。ミースィ公園に元々あったガジュマルに、もうひとつのガジュマルを移植して2本の木を根付かせた。それにより樹上に大きなスペースのある立派なガジュマルが完成した。
さらに、この植樹の作業中、思わぬ出来事が起きる。造園業者が木を植えるために土を掘っていたところ、戦没者とみられる約20人分の遺骨や遺品、旧日本軍のものとみられる装備品が見つかったのだ。伊江島での遺骨の発見は実に20年ぶり。平監督も「驚きました。今なおこうやって遺骨が出てくるということは、伊江島で80年前に実際に戦争が起きた事実を、現実味をもって感じられます。沖縄はまさに戦争の現場だったんだなと実感する出来事でした」と、偶然とはいえ運命的な発見に、制作にかけた思いを改めて心に刻んだ。
公開表記
製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ
6月13日(金) 沖縄先行公開/7月25日(金 )新宿ピカデリー他全国ロードショー
(オフィシャル素材提供)