
登壇者:坂本浩一(アクション監督)、高岩成二(スーツアクター)
MC:ギンティ小林
『スタントマン 武替道』のトークショー付上映が8月1日(月)に新宿ピカデリーにて実施され、アクション監督の坂本浩一氏と俳優・スーツアクターの高岩成二氏が登壇。熱い一夜となった! MCはMCはギンティ小林氏が務めた。
高所からの飛び降りアクションについて
ギンティ小林: お二人に聞きたいのが、本作でトン・ワイ演じるサムが自らスタントをする場面で、6階から飛び降りるシーンがあるんですけれど、どれだけ大変なことなのか。その辺りをお二人の視点からお話していただきたいのですが、先ずは坂本監督、6階から飛び降りるということはどれくらい危険なのでしょうか。
坂本:いまはもう6階から飛び降りるってことほとんどないんですけれど、最近だと危ないからワイヤーを使ったり、エアバッグを使っているんですけれど、ポーンと落ちると空気が抜けるんですね。でもそれって業界的にアジアの映画界とか当時エアバッグを持っているところはすごく少なかったんですよ。
だからこの映画みたいに、みんなダンボールで飛び降りてるんですね。ダンボールでみんな練習するし、バッグを持って受け止める練習もするんです。
高岩:みんなでマットを持ってボンって。手持ちですね。ズレたら危ないんです!(バッグ)それだけです。それのみ、人が持って追いかけるんですよ。
(落ちるのを受け止める)そういうゲームありますけど、みんなでタイミングを合わせてキャッチするっていうのをやりますね。
ギンティ小林:落ちてる間に待ってる人が微調整するんですか?
坂本:そうですね。基本的に狙ってますよ。狙ってますけど、もし外した場合に直ぐ移動して調整してというのをしますね。
ギンティ小林:高岩さんが本番前にお話されてたことで驚いたのが、高岩さんもラスト・シーンの6階の高さのところから飛び降りた経験があるんですよね。
高岩:あります。1階を3メートルと考えて、18メートルくらいのところから。
ギンティ小林:ガンダムぐらいですね! それはスーツを着てですか?
高岩:スーツです。視界も限られていましたね。ダンボールのマットではなく、今言ったエアバッグだったんですけど、本作でも屋上から下を撮るシーンがあったと思うんですけれど、本当に人の大きさってあんなものなんですよ。ダンボールの固まりは結構な大きさなはずなんですけど、上から見ると小さいんです。いざ立ってみると。嫌ですよ~。仕事とはいえ。
坂本:昔タバコの箱ぐらいとか言ってた時あったよね。
高岩:ありましたね。
ギンティ小林:それは小さいですね!!
坂本:一番危険なのが、飛び降りた時にフラットな状態で降りないと、足から着地してしまうと圧迫骨折するんですね。クッションがあっても勢いがすごいので、背骨がガーンと曲がって圧迫骨折をするんです。なので、空中でどの姿勢でいるかを把握して真っ直ぐ落ちないとマットがあっても防げないので。
アクション現場あるある
ギンティ小林:坂本監督が以前、劇中のトン・ワイさんがロケハンするシーンで、ご自身も見るところが全く一緒だとおっしゃってましたよね。
坂本:一番初めに何を見るかというと、天井を見るんですね。どこにワイヤーがひっかけられるかを初めに確認して、「あっ、こうやったらワイヤー引っ掛けられる」と考えて、それが無理な場合は、ドアの大きさを調べて、クレーン入るかなって考えます。それを初めに見てからロケーションを見ますね。それは本当にあるあるですね。
ギンティ:坂本監督の話を聞いていると、この映画がリアルに描かれている、分かっている人が撮っている映画だってことが分かりますよね。
坂本:元々監督の二人はスタントマン出身なので、皆さんが見て面白かった以上に業界関係者というか、スタントマンが見ると余計面白いと思いますね。
ギンティ小林:その辺のお二人の理解度をぜひ自慢して欲しいです! 僕らと楽しみを分けてください!
高岩:先ほど坂本さんがワイヤーの吊るす位置を探すとおっしゃったと思うのですが、僕らプレイヤーからすると、監督が外のほうが良いと言うとします。それで、上を見上げたりして高いところを探してるとそれを見て、「今日僕飛ぶんだなぁ」とか思ったりしますね。
ギンティ小林:監督とアクター両方の立場から聞けるから、映画に対する解像度がより深く高くなりますね。
坂本:スタントマンて、高いところ嫌いな人多いんですよね。
ギンティ小林:本作に出演しているテレンス・ラウさんにインタビューをしたんですけれど、テレンスさんも、最後のあのシーンの撮影に立ち会ってて。あそこはワイヤーで釣られるアクションでしたけれど、6階はものすごく怖かったって言ってましたね。トン・ワイさんも実は高所恐怖症らしいですよ!
坂本:基本、僕なんかも上に行くじゃないですか。そうすると、「早く殺してくれ!」って思ってますよ。待ってる時間が一番つらいんですよ。上がってカメラ準備ができるまでの待機、「早く降ろしてくれ!」って思いますね。
ギンティ小林:先ほど高山さんが頭に被り物をして視界が狭くて、それなのに下のエアバックがタバコの箱ぐらいにしか見えないって仰ってたのですが、ちょっと僕には想像つかないのですが、テストは何回かやりますよね。
高岩:テストは先ずノーマスク、ノーマスクの時点でも怖いですよ。できることなら本番だけ撮ってもらいたいですけど、視界を遮られちゃうのもあるので一回高さをしっかり体で覚えてやりますね。
ギンティ小林:ちなみに落ち方はどんな落ち方するんですか?
高岩:いろいろあるんですけど、当時僕はヒーローだったので、腹落ちって言って、ピューンって飛ぶ形ですね。
ギンティ小林:かっこいいやつですね!
高岩:ただそのまんま行ってしまうと坂本さんが言ってたようにバキッと体を反っちゃって、怪我どころじゃ済まないんです。寸前で反転して背中から落ちるんです。
坂本:大きく言って3つ、落ち方があるんですよ。今日皆さん覚えて帰って下さいね(笑)。
まずヘラっていうのがですね、ジャンプしてバーって頭から落ちて背中でボンと落ちるのがヘラ。
それから今、高岩さんが言ったお腹から落ちていって危ないんで、最後にパッて体を返すのがフェイスオフ。
落ちていって、最後の瞬間にパッて返すんですね。最後の1個が、日本だとポセイドンって呼ばれてるんですけど、これは背中から落ちるやつで落ちた後、着地も背中でバチッと落ちる。英語だとsuicide(自殺)って呼ばれてるんですけど。「フェイスオフ」と、「ヘラ」と「ポセイドン、あるいはスーサイド」。
高岩:何か非常時があった時に(やってみて下さいね)(笑)。
往年のアクション映画撮影について
ギンティ小林:この映画では、昔の活気のある時代と、今のアクション業界を対比してるところがありますが、80年代のジャパンアクションクラブや倉田プロモーションも含めて、お二人が入った頃はまだまだかなり無茶なことがあったと思うんですよね。本作を観て、その頃を思い出したりします?
坂本:思い出したのは、自分がプレイヤーであった頃のヒヤヒヤさと。自分が監督になった後のスタントマンに危険なことをやらせる時の立場。オープニングとか特にそうですよね。「怪我すんなよ」って思うのと、こっちも気合が入ってるから「行けー!」って心と、葛藤するわけですよ。そんな思いでアクション掛けた後の「カット!」ってところまでのドキドキ感っていうのが、観ててもう吐きそうになるくらい共感しましたね。理解して楽しめる部分もありましたけど、心臓に悪いというか。
坂本:カット掛けて、なかなか起き上がらなかった時に「どうしよう、どうしよう」って心の中で思って、バン!とスタントが起き上がった時に「OK!」ってなる時のリラックス感とか正にリアルでした。
ギンティ小林:(高岩さんは)それやるほうになるわけじゃないですか。
高岩:やらされる方ですね(笑)。僕ら若い頃って映画の中で言ってましたけど、NOは言えないんですよね。NOが言えないんじゃなくて、NOを言わないというか。
坂本:一つはプライドです。「これが出来ますか?」と言われて出来ないと言うと、スタントマンとして失格だと思ってしまいます。だから、どんなシチュエーションが来ても何を言われても、出来るように常に練習するというのと、NOと言った時に次の仕事が来なくなってしまうという怖さもあって、僕らの頃は本当に出来ないと言うと、はい次の人……となってしまうので。
ギンティ小林:この映画の余韻を楽しめる映画の一つが、『カンフー・スタントマン 龍虎武師』というドキュメンタリー。香港映画のスタントマン業界の裏側が分かるんですけれど、観て身につまされる思いというか、本当にいまおっしゃったことと同じ部分が描かれてましたね。
坂本:当時の大きな違いというか、JAC(ジャパンアクションクラブ)はできるだけ体にパットをつけずに自分の体さばきだけで演じられてますよね。だから皆さん身体能力も高くて、車に轢かれるシーンや、飛び降りたりしてもパッドをつけずに自分の身体でかわすっていうのをやられていて。僕のオフィシャルは倉田保昭さんなので、香港スタイルは体にパットをたくさんつけるんですよ。パットはつけるんだけれど、マットは絶対使わないっていうやり方で、僕は日本で初めて仕事をした時に文化の違いをそこで感じて面白かったのを思い出しました。
スーツアクターとスタントマンについて
坂本:スーツアクターとスタントマンは、スーツアクターはキャラクターを演じてお芝居をするじゃないですか。僕はスタントマン出身なので、スタントマンはお芝居が嫌いというかできないんですよね。みんな「早く殺してくれ!」というタイプばかりで「台詞がありますよ」って言われると、「やめてくれ!」って、思いますね(笑)。
高岩さんはスーツアクターとしてお仕事はしてるけれど、世代的にJACでバリバリにスタントやってきた世代なので、『仮面ライダーW』で一緒にお仕事した時に、同世代だし、スタントマン寄りなんだというのは感じました。
高岩:そうだったんですか!
坂本:僕ら落ちる時に下まで一気に行くと危険なので、クッション代わりに車を入れたり、あと箱を入れて箱とか車に1回落ちてから下まで行くようにしてるんですね。そうすると2階から一気に落ちるより痛くないんです。高岩さんにもセットの2階から下まで落ちる時に箱にぶつかってから下まで落ちてくださいって言った時に、すぐ「いいよ」って言ってくれて。
高岩:そんな、監督に向かって「いいよ」なんて言わないですよ(笑)。あの時、坂本監督にOKって言っていただいたのかな? でも僕的に納得がいかなくて、もう一回やらせて欲しいって言いましたよね。
ギンティ小林:当時のアクション監督って、サムのようにかなり粘る人いたじゃないですか?
高岩:粘りますよ(坂本監督は)。何テイクもやったシーンあるじゃないですか。本作と同じことやってますからね。やってる僕ら的には、「今のはOKだろう」と思ったら、監督から「いい感じです! もう一回やってみましょう」って言われるんです。褒めてもう一回やらされるんです。
坂本:僕はね、「ダメだ!」とは言わないんです。「よかったけど、もう一回お願いします!」って言います。
ギンティ小林:何回も撮ると言うのは、ある程度のレベルにまで到達してないとできないですよね。
坂本:こだわりですね。パンチとか蹴りのあたりがもうちょっと深く欲しいとか、手をつく時には、手をついちゃったら見えちゃうから、手をつかずにいって欲しいけど、手がぶつかっちゃうとか、多分皆さんが見たら何が違うのか分からないぐらいのことなんですけどね。
倉田プロモーションとJACのアクションの違いについて
高岩:JACのアクションと(倉田プロモーション)全く違うんですよね。とにかくワイヤー・アクションが主流で、JACのほうはワイヤーよりもトランポリンで飛んだりとか。
坂本:リズムが多分違いますよね。手数が違うというか、今日って高岩さんのところのWAIDENから来てるんでしたっけ?
高岩:私の家内が代表を務めている、パフォーマンスチ・ームなんですけれど。
坂本:じゃあ、吉田さん? ちょっとこちらにいらして頂けますか?
サプライズ・アクション・デモンストレーション

客席から吉田さん登場。
坂本:特に香港映画ですけど、一番重要なのがリズムなんですね。
同じリズムだと飽きちゃうので、特に70年代カンフー映画は長回しが多かったので、飽きさせないようにちゃんとリズムをつけることに特化したところがあって、僕もそれを実践しているんですけども。例えば……
カンフー映画のリズム
カンフー映画のリズム2
ギンティ小林:ちなみに、ヒーロー役の高岩さんがやるとどうなるのでしょうか?
高岩さん挑戦。
坂本:やっぱりヒーローだとコスチュームを着ているので、普通の人と同じようにアクションしても小さくなっちゃうんですね。ちょっと大きく動いたりとか、キメを作ったりとかが必要になるんですね。
ギンティ小林:高岩さんがアクションしづらかったヒーローのコスチュームって何ですか?
高岩:よく聞かれるんですけど、仮面ライダーだけでしたら、僕18作品やってるんですよ。
坂本:(アクションが)パワーアップすると(スーツも)パワーアップしていきますよね。
高岩:どの作品も動きづらいですよ、視界も良くないですし。
格闘技と武術の違いについて
坂本:もう一回だけいいですか?
例えば皆さん、格闘技と武術の違いって分かりますか? 全部じゃないですけど、格闘技は自分の利き手を後ろに構える。ボクシングとかもそうなんですね。でも、武術の場合は、どちらかというと自分に一番近いところを破壊していく、というところから始まるんですね。なので、パンチした場合には避けてから行くんじゃなくて、先に破壊してから奥に行く。そういう違いがあるので、『ジョン・ウィック』のチャド・スタエルスキとかは僕も一緒に仕事してたんですけど彼もジークンドーやっていたり、あとは『フォールガイ』『ブレッド・トレイン』のデビッド・リーチ辺りはスタントマン上がり何ですけど、彼らは武術やって来てるから、彼らの映画と香港映画が違う理由はそこなんですよね。ぜひチェックしてみてください!
公開表記
配給:ツイン
全国公開中
(オフィシャル素材提供)