イベント・舞台挨拶

戦後80年特別企画『豹変と沈黙―日記でたどる沖縄戦への道』日中若者座談会

© Yoshikazu Hara 2025

 登壇者:砂川浩慶立教大学教授、大学生ら若者11名(日本人5名、中国人6名)

 前作『夜明け前のうた―消された沖縄の障害者』で“知られざる歴史”に光を当てた原 義和監督が、今度は日中戦争の戦場に生きた名もなき兵士たちの“日記”に焦点を当てる。彼らが記したのは、殺戮だけではない。腐った飯、略奪した豚のすき焼き、慰安所通い――戦場にも“日常”があり、そこに人間性が崩れていく過程があった。そして戦後、彼らは語ることなく沈黙を守った。 本作は、そんな“豹変”と“沈黙”の狭間にある真実を、日記の朗読と証言を通して浮かび上がらせる衝撃のドキュメンタリー。
 この度、徴兵された“よき息子”“よき夫”たちは、戦場で何を見て、何をしたのか。日中提携の理想が戦争によってどう変質していったのか。本作を切り口に、砂川浩慶立教大学教授をゲストに迎え、日中の未来を担う学生ら若者たちによる座談会を行った。

 はじめに、原監督は「ヤマトンチュ(日本人)3人、ウチナーンチュ(沖縄人)1人の4人の一兵卒たちの日記を中心に構成した。中国を攻める立場から書かれた記録で一方的かもしれないし、彼らが”虫の眼”のように見たものでしかないが、その中にも真実がある」と語り、作品の背景を紹介。

 参加者からは、戦争の記憶と国の教育、個人の感情と国家の歴史が交差する問題の難しさについて、率直な意見が飛び交った。なかでも、日記という個人の記録が、国家の歴史では語りきれない感情や葛藤を浮かび上がらせることが話題となった。日本人女性の一人は、「一兵卒の日記だからこそ、普通の若者が兵士に仕立てられた苦しさが伝わってきた。日本では、歴史修正をしているのではという話があるが、学校では日本の近代史については時間を割いて教わっていないこともある」と述べた。中国人女性は、「中国では日中戦争の歴史だけでなく歴史教育はしっかり行われるが、日本では80年経った今でも“慰安婦”や南京大虐殺があったかどうかの議論に留まっているのが残念」と語り、戦争に対する反省や意識の希薄さに疑問を投げかけた。別の日本人男性は、「情報統制の中で綴られる日記には、その時代にしか生まれない言葉があると感じた。民間人が殺される現実は今もウクライナやガザでも起きていて、世界の視点で見つめ直すべきだ」と述べ、視野を広げる必要性を強調。中国人男性からは、「中国では中華民族がいじめを受けて立ち上がったというストーリーが語られるが、日本の近代史は省略されがちで、百人斬りなどの残虐さに衝撃を受けた記憶がある」との声が上がり、教育の違いが記憶の形成に与える影響が浮き彫りになった。内モンゴル出身の参加者は、「民族や国家ではなく、個人が戦争でどう変わっていったかが描かれていた。日本と中国を二元的に捉えるのではなく、内モンゴルなど旧満州や東南アジアの視点も加わると見え方が変わると思う。次の戦争を避けるために何を考えるべきかという視点も必要」と語った。また、日本人女性は「日本史では中国を敵として感じていたが、加害者という視点を自分の中で見つけた。若い世代がどう意識を広げていくかが問われている」と述べ、教育と自己認識の関係に言及。中国人女性は、「戦争がなければ友達になれたかもしれない。通訳兵として戦地に赴いた人の話が印象的だった。若い世代が日中友好を築く姿を見せることが大切」と語り、未来への希望をにじませた。

 座談会では、砂川浩慶教授が、日本によって沖縄が“都合よく利用された場所”である面にも言及。1930年代の銀座には「琉球人・朝鮮人お断り」と書かれた看板が掲げられていたことが紹介され、社会的差別構造の中で優秀なウチナーンチュが“日本人”として上海に送られていたという解釈もでき、沖縄の人びとが日本に併合されて、友好国であった中国に攻め上がることになった加害と被害の二重性についても指摘された。ある参加者は、戦争の記憶を語る上で、沖縄という土地が抱える複雑な背景に触れることの重要性を訴えた。

 更に、参加者の一人は、「日本に興味を持ってくれる中国の若者がいる。歴史を振り返りながら、個人レベルでの接触が大切だ」と語り、文化交流の可能性を示した。また、「日記は正直な気持ちを映すもの。手書きの日記の接写映像に感情が見えた。若者は戦争を表面的な事実として受け止めるだけで、知らない部分が多い。興味を持つきっかけになる映画だと思う」と語る声もあり、本作ドキュメンタリーも若い世代にとっての“入口”となるのではと期待された。
 沈黙の中にある声を可視化し、日中の若者が歴史と向き合う契機となった本座談会。戦争の記憶を次世代へとつなぐ対話の場となった。

公開表記

 2025年8月16日(土)より新宿K’s cinemaにて公開

(オフィシャル素材提供)

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