
第75回ベルリン国際映画祭にて、ノルウェー映画で初めて最高賞<金熊賞>を受賞したダーグ・ヨハン・ハウゲルード監督の『DREAMS』が、トリロジーとして制作された『LOVE』『SEX』と共に、特集上映「オスロ、3つの愛の風景」として、3作品を一挙公開。9月5日(金) にBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開した。
この度、9月5日(金)に『DREAMS』の上映後、映画監督の大九明子(『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』)をゲストにトークイベントが実施された! さらに翌日の9月6日(土)には、『LOVE』上映後、ブルボンヌ(女装パフォーマー)をゲストにトークイベントが開催された。
『DREAMS』公開記念トークイベント
・日時 9/5(金)/場所: Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
・トークゲスト: 大九明子(映画監督)
ベルリン国際映画祭でノルウェー映画史上初となる金熊賞を受賞した『DREAMS』。その公開を記念して、映画監督の大九明子をゲストに迎えたトークイベントが開催。会場には上映後の余韻が漂い、温かい拍手の中で大九監督が登壇した。
映画の第一印象と「階段」というモチーフ
大九監督は観客とスクリーンで観た『DREAMS』について感想を聞かれると、興奮冷めやまぬまま次のように語った。
「声を出して笑ってしまう場面もあれば、イライラさせられるところもあったりと、本当に多彩で楽しめる映画でした。特に“階段”というモチーフの使い方に驚きました。階段は人物を上下に配置するだけで関係性が立ち上がるし、顔を外して足元だけを見せるなど表現の幅も広い。私自身もよく使うモチーフですが、本作はそれを徹底的に活かしていて、とても視覚的に面白かったです」。

三世代の女性たち ― 祖母・母・娘の会話
物語の軸となるのは、少女・母・祖母の三世代の女性たち。少女が書いた手記をめぐり、母と祖母の反応は分かれます。3世代の会話のポイントについて問われた大九監督は、「三人それぞれの言葉がすごくしっくりくる。ジェネレーションギャップというより、個々のキャラクターの違いが鮮やかに立ち上がっている。祖母は年を重ねても孫娘の才能に嫉妬していたりと、その人間臭さがチャーミングで良い。母は心配しつつも、出版を後押しする。それぞれ3人が年齢関係なく、人生を生きているという感じが素敵だなと。そして60代の男性監督がこんなにものびやかに気持ち良く女性を描けていることがすごいなとも思いましたね。私も気持ちよく女性を描きたいと思いつつ、やはり日本では女性の何かを語ろうとするときには怒りだったりが必要だなと思っているので。でもセリフを書くときにそういう気負いを持たずに、もっと自由になりたいなと鑑賞後に思いました」と自身の作品と比較しながら女性の描き方について賞賛した。
映画監督としての視点(撮影方法や脚本の書き方)での分析も大いに語ってくださった大九監督。温かな雰囲気のまま、イベントはクロージングを迎えた。
『LOVE』公開記念トークイベント
・日時 9/6(土) /場所: Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
・トークゲスト: ブルボンヌ(女装パフォーマー)
『DREAMS』イベントの行われた翌日、女装パフォーマーのブルボンヌがノルウェー風の素敵なお召し物を纏い登壇! 映画『LOVE』の魅力や印象に残ったシーン、そして作品が映し出す北欧と日本の恋愛観・社会の違いなどについて語った。
映画の中で印象に残っているシーン
はじめに、映画の感想や印象に残っているシーンを問われたブルボンヌ。「監督自身がゲイであることをさらりと公言していて、作品全体にクィア要素が自然に盛り込まれているんですね。フェリーのシーンでは、泌尿器科医のマリアンヌとゲイの看護師・トールが語り合う場面がありました。彼がアプリ“Grindr”について説明するシーンなど、ゲイの人々が普段慣れ親しんでいる単語や感覚がたくさん登場して、私自身も『ここまで描くのか!』と驚きました」と当事者ならではの視点でコメント。
社会的背景 ― ノルウェーと日本の違い
続いて、この映画を通して感じた日本と北欧の違いについて、ブルボンヌは、「マリアンヌがトールの考え方に触れて少しずつ影響を受けていく様子がとても自然でした。性や愛に関する価値観を率直に語り合う北欧の人たちを見て、日本社会はまだまだ本音を語ることに慎重だな、と改めて思いました。例えば、マリアンヌと地質学者の恋愛模様も、2人だけの関係に見えて実はその先に家族や社会とのつながりがある。その点をきちんと描くことで、“個人の愛”と“社会の枠組み”が切り離せないことを示している。日本では社会のルールや規範が優先されがちですが、この映画はむしろ個人の気持ちを起点に社会を見つめ直させてくれるんです」と社会的な背景を読み解きながら分析。
エイズ危機とクリエイターたち
登場人物のうち唯一、3作品すべてに登場する精神分析医・ビョルン。ラストに向けて明かされる彼の過去について、ブルボンヌは「ビョルンが若い頃にカミングアウトした直後、エイズ危機に直面した世代だったことが語られます。1980年代はゲイの人々にとって恐怖と悲しみの時代で、それを経験した世代だからこそ、彼の心の頑なさが理解できる。同時に、そうした悲劇やショックを創作に昇華してきたクリエイターたち――例えばドラマ『POSE』のライアン・マーフィーや、『BPM』を手掛けたロバン・カンピヨなど――の存在も思い起こされます。ダーグ・ヨハン・ハウゲルード監督も彼らと同世代。『LOVE』にも“記憶を語り継ぐ”というメッセージが込められているのかなと思いました」と熱をこめて語った。

トークの最後に「今日この場に来てくださった皆さんのように、映画を通して世界の価値観に触れることは、とても豊かな体験です。『LOVE』を観て「自分にとって愛とは何か」を考え直したり、少しでも心が解き放たれるような感覚を持ってもらえたら嬉しいですね」と挨拶をしたブルボンヌ。トーク終了後も素敵な“LOVE”ポーズを連発し会場の笑いを誘い、笑顔と拍手に包まれてイベントは締めくくられた。
作品紹介


(原題:Drømmer|英題:Dreams[Sex Love]、2024年、ノルウェー、上映時間:110分)
女性教師のヨハンナに初めての恋をした17歳のヨハンネは、この恋焦がれる想いや高揚を忘れないようにと自らの体験を手記にする。そしてこの気持ちを誰かに共有するため詩人の祖母に手記を見せたことから、物語は思いもよらない展開へと進み始める。
ヨハンネが経験するのは、誰もが一度は経験したことのある相手の一挙手一投足に対する期待や不安、過度な妄想、理不尽な嫉妬などあまりにも無垢な初恋。そしてその気持ちを秘密にしておきたい、でも誰かに共有したいという矛盾した思いが、祖母や母を巻き込み、ヨハンネの手から離れた手記の行方が、モノローグで綴られる。娘の手記を見て、詩人の祖母は自らの女性としての戦いの歴史を思い出し、母は“同性愛の目覚めを記したフェミニズム小説”と称し、現代的な価値観にあてはめようとする。3世代で異なる価値観を持つ3人が初恋手記を通して辿る運命は――。今年のベルリン国際映画祭でノルウェー映画初の金熊賞を受賞した珠玉の1作。

監督・脚本:ダーグ・ヨハン・ハウゲルード
出演:エラ・オーヴァービー 、セロメ・エムネトゥ、アネ・ダール・トルプ、アンネ・マリット・ヤコブセン
配給:ビターズ・エンド
後援:ノルウェー大使館










(原題:Kjærlighet|英題:Love、2024年、ノルウェー、上映時間:120分)
泌尿器科に勤める医師のマリアンヌと看護師のトール。共に独身でありステレオタイプな恋愛を避けている。マリアンヌはある晩、友人から紹介された男性と対面するが、子どもがいる彼との恋愛に前向きになれない。その後乗ったフェリーで偶然トールに遭遇すると、彼はマッチングアプリなどから始まるカジュアルな恋愛の親密性を語り、マリアンヌに勧める。興味を持ったマリアンヌは自らの恋愛の方法の可能性を探る。一方トールはフェリーで知り合った精神科医のビョルンを偶然勤務先の病院で見かけ――。
出会いが多様化した現代の恋愛観がリアルに映し出されており、主人公たちは劇中に度々登場するフェリーのように本能と理性をゆっくり行き来しながら、しっくりくる「愛し方」を探す。恋愛に不器用な大人たちが、静かな本音をさらけ出しながら、あらゆる“愛”を肯定し模索する、3作で最も今を映し出した1作。第81回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門出品作。

監督・脚本:ダーグ・ヨハン・ハウゲルード
出演:アンドレア・ブレイン・ホヴィグ 、タヨ・チッタデッラ・ヤコブセン、マルテ・エンゲブリクセン、トーマス・グレスタッド、ラース・ヤコブ・ホルム
配給:ビターズ・エンド
後援:ノルウェー大使館










(原題:Sex|英題:Sex、2024年、ノルウェー、上映時間:118分)
煙突掃除を営む妻子持ちの2人の男。ひとりは客先の男性との思いもよらない一度きりのセックスを通じて新しい刺激を覚えるが、悪びれることなく妻にこの体験を話してしまったことで夫婦間がこじれてしまう。もうひとりはデヴィッド・ボウイに女として意識される夢を見て、自分の人格が他人の視線によってどう形成されていているのか気になり始める。良き父、良き夫として過ごしてきた2人は、衝撃的な出来事がきっかけで自らの“男らしさ”を見つめ直すようになる。
当たり前だと思っていた自らの性を疑う出来事を語る会話のなかには「どこからが浮気か」「夢は現実世界にどんな影響を与えるのか」といった誰もが一度は考えたことのある普遍的なテーマが散りばめられている。また“セックス”や“セクシュアリティ”といったデリケートな話題を出しながらも、飄々と会話する登場人物たちはどこか滑稽でオフビートな空気を纏う。3作で最もコメディタッチな異色作。第74回ベルリン国際映画祭でエキュメニカル審査員賞を含む3部門を受賞。

監督・脚本:ダーグ・ヨハン・ハウゲルード
出演:トルビョルン・ハール、ヤン・グンナー・ロイゼ、シリ・フォルバーグ、ビルギッテ・ラーセン
配給:ビターズ・エンド
後援:ノルウェー大使館








特集上映「オスロ、3つの愛の風景」
9月5日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
公式サイト:bitters.co.jp/oslo3/(外部サイト)
公式X: @BittersEnd_inc
配給:ビターズ・エンド
(オフィシャル素材提供)