
登壇者:三宅 唱監督
『ケイコ 目を澄ませて』『夜明けのすべて』など作品を発表するごとに国内映画賞を席巻し、本作で第78回ロカルノ国際映画祭インターナショナル・コンペティション部門にて最高賞である金豹賞&ヤング審査員特別賞をW受賞した、日本映画界を代表する存在である三宅 唱監督最新作『旅と日々』(原作:つげ義春『海辺の叙景』『ほんやら洞のべんさん』)が11月7日(金)より全国ロードショーとなる。ロカルノ国際映画祭でのワールドプレミア上映後には「傑作。観る者の心を捉えて離さない」(Público)、「見るものの感覚を巧みに刺激する」(ICS)、「現代映画においてきわめて稀有な存在」(Letterboxd)と、各国のメディアから絶賛の評が続々と寄せられた。
現在開催中の第30回釜山国際映画祭でのアジア・プレミア上映(現地9月19日(金)実施)から間を置かずして、この度、スペイン語圏最大の国際映画祭、第73回サン・セバスチャン国際映画祭<スペイン現地時間9/19(金)~9/27(土)>にて、多様で驚くべき映画・新しいアングルやフォーマットに挑戦する映画を上映するサバルテギ・タバカレラ部門での上映、そして現地参加の三宅 唱監督がQ&Aに登壇した。<現地時間9月25日(木)PM7:00/日本時間9月26日(金)AM2:00より実施>
サン・セバスチャン国際映画祭サバルテギ・タバカレラ部門作品の上映会場である約230席のタバカレラ劇場が老若男女の映画ファンで満席のなか、温かい拍手に迎えられ三宅 唱監督が登壇。「友人である他の映画監督からも、サン・セバスチャン国際映画祭は一度絶対に行ったほうがいい、と聞いていたので、今回初めて訪れることができ嬉しく思っています。と、スペイン語圏最大の映画祭での上映を迎えての想いを述べ上映がスタートした。
時折観客の笑いが起きる上映が終わり、明るくなると会場が拍手に包まれ、Q&Aがスタート。
つげ義春のマンガを映画化するにあたり、どのような点が難しかったかと問われると、監督は「つげ義春さんはマンガ表現の本質を追求している人であり、あるいは新しいマンガの魅力を発見しようとする作家です。だから僕自身にとっての挑戦は、映画における“本質”を捉えること、新しい可能性を見つけることでした。それは難しいけれど、とてもやりがいのある仕事だったと思います」と答えた。
続いて観客からは、「こんなに美しい驚きがあるとは思わなかった。作品をつくる中で想像していたこと、そして実際のプロセスで自分を驚かせたことについて教えてください」と質問が寄せられる。これに対し監督は、「この映画にとって“驚き”というのは非常に大事なテーマでした。日常を生きていると、最初は驚いたこともすぐに慣れてしまう。それは死ではないけれど、“生きている”という感覚もしない状態のように思います。そんな中で、映画を観ることは“もう一度驚く”体験だと感じています。ただ、意味もなく理解不能なショットをつなげるだけでは驚きにはならない。物語をきちんと語りながら、予想と少し違うショットへとつなげていく。ショットが切り替わるたびに納得もあるし、同時に驚きもある。そこが重要です」と語った。
さらに、2つのストーリーをつなぐ構造について問われると、「この映画は“旅”を題材にすると同時に、“映画そのもの”を題材にする作品でもあります。そして、映画を観ることでもう一度“驚く”という体験をつくりたいと考えていました。まるで初めて映画館に入って映画を観たときのように、言葉で説明できない“驚き”を生み出したい。例えるなら、夢を見ているときに“これは夢だ”と夢の中で気づくような感覚。起きてから“夢だった”と分かるのではなく、夢の中で一度目覚めるような体験に近い。それを映画で表現できればと思いました」と述べた。

話題は音楽へと移り、監督は「Hi’Specというミュージシャンとずっと映画の仕事をしていて、今回で4〜5作目になります。もう今では多くの言葉を交わさなくても、一緒に仕事ができる関係です。今回のキーワードはただ一つ、“ゴージャスにしよう”でした。物語そのものは質素で地味な世界の、小さな出来事です。でもそこには、大きな波や崖、あるいは雪といったリッチな自然環境がある。そして登場人物たちは、お金や自信がないかもしれないけれど、その魂には非常に気高いものがある。そうしたものを捉えるために、“金銭的な意味ではなく、精神的にゴージャスにしよう”と考えました」と明かした。
また、小津安二郎監督の作品とのショットの類似点について質問が及ぶと、「小津の映画は自分にとって非常に大切ですが、“空いているショット”を真似しているわけではありません。僕が小津から受け継ぎたいと思っているのは、キャメラが登場人物をどう見つめるかです。幸せなときも悲しいときも、キャメラとの距離がまったく変わらない。これは簡単にできることではなく、そこに強く影響を受けています」と答えた。観客は頷きながら熱心に監督の話に聞き入っていた。
Q&A終了後も監督にサインを求める人や感想を直接伝える人が絶えず、「美しい映画だった!」「本当に素晴らしい」と熱い言葉を残す姿が見られた。映画を学ぶ若者から専門的な質問が寄せられる場面もあり、会場は終始温かな熱気に包まれ、豊かなひとときとなった。
公開表記
配給:ビターズ・エンド
11月7日(金) TOHOシネマズ シャンテ、テアトル新宿ほか全国ロードショー
(オフィシャル素材提供)
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