インタビュー映画祭・特別上映

「〈北欧の至宝〉マッツ・ミケルセン生誕60周年祭」『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』ニコライ・アーセル監督 インタビュー

© 2012 Zentropa Entertainments28 ApS, Zentropa Entertainments Berlin, Zentropa International Sweden and Sirena Film Prague

 2025年11月22日に60歳の誕生日を迎える、デンマークで最も成功した世界的俳優の一人、マッツ・ミケルセン。この度、生誕60年を記念して「〈北欧の至宝〉マッツ・ミケルセン生誕60周年祭」が11月14日(金)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開となる。

 プロのダンサーとしての約10年にわたるキャリアを持ちながら、『プッシャー』(1996)で鮮烈な映画デビューを飾って以来、ニコラス・ウィンディング・レフンやトマス・ヴィンターベアといったデンマークを代表する名だたる巨匠たちの作品に数多く出演し、『偽りなき者』(2012)で第65回カンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞。その一方で、『007/カジノ・ロワイヤル』(2006)で演じた魅惑的な悪役像で世界中に強烈な印象を残して大ブレイクを果たす。その後もハマり役となった『ハンニバル』(2013-2015)でその人気を不動のものとし、名実ともに現代デンマークを代表する俳優となった。

 本特集上映では、彼の生誕60年を祝い、日本劇場初公開の貴重な作品を含む7作品を一挙に上映。若き日のマッツ・ミケルセンを堪能できる『ブレイカウェイ』(00)や『フレッシュ・デリ』(02)、長らく未公開となっていた『メン&チキン』(15)といった日本初公開作だけでなく、『アダムズ・アップル』(05)、『アフター・ウェディング』(06)、『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』(12)、そして代表作とも言うべき『偽りなき者』(12)まで、マッツ・ミケルセンのキャリアを通じて培われた演技の真髄を劇場で堪能できる滅多にない機会となる。 “北欧の至宝”とも称される名俳優の輝き、そして圧倒的な存在感をスクリーンで体感してほしい。

 この度、デンマーク王室最大のスキャンダルを描いた歴史劇『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』(12)のニコライ・アーセル監督のインタビューをご紹介! マッツ・ミケルセンがアリシア・ヴィキャンデル演じる王妃と禁断の恋に落ちる王の侍医ストルーエンセを演じ、ベルリン国際映画祭 脚本賞&男優賞W受賞を果たしたことでも話題となった作品だ。

© 2012 Zentropa Entertainments28 ApS, Zentropa Entertainments Berlin, Zentropa International Sweden and Sirena Film Prague

 若きイギリス王女がデンマーク宮廷に嫁ぐところから始まる本作。監督のニコライ・アーセルは「主人公はイギリスからやって来た若き王妃カロリーネです。聡明で啓蒙的な考えを持っていますが、保守的なデンマーク宮廷では本が検閲され、夫の王は精神的に不安定。そこへ王の侍医ストルーエンセが現れ、王妃と恋に落ちます。やがて彼は実権を握り、国を改革しようとしますが、悲劇的な結末を迎えます」と3人の主要キャラクターが織りなす濃厚なストーリーを説明する。
 実際に起きたこの驚くべき物語について「信じられないほどドラマチックですが、実際に起きた出来事なんです。もちろん当時の会話をそのまま再現することはできませんから、感情ややり取りは想像を交えて脚色しました。しかし事件の流れそのものは史実に基づいています」とできる限り真摯に史実に向き合いながら進めたそう。
 小学校の頃にはこの物語を知っていたという監督。「デンマークでは誰もが知っている有名な話で、9歳か10歳のときに習いました。大人になるにつれ興味が増し、いつか映画にしたいと思うようになりました。本や演劇、オペラはあっても、映画化されたことはなかったので“これは監督にとって夢のプロジェクトだ”」と胸を躍らせ、制作に取り掛かったと振り返る。
 さらに「これはデンマークの国民にとって重要な物語ですから、当然デンマーク語で撮るべきだと思いました。当時の宮廷では本来フランス語やドイツ語が話されていましたが、あえてデンマーク語にしたのは、明確に「デンマークの物語」として提示するためです」と強いこだわりと決意が伺える。本作はデンマークが当時いかに先進的だったか、という点も描かれるが、「確かに当時のデンマークは一時的に時代を先取りしていました。しかしそれは一瞬の波にすぎません。啓蒙思想はフランスや他の国々でも同時に広まっていた。歴史の大きな潮流の一部だったのです」と付け加える。

 当時映画初出演ながら大役に抜擢されたミケル・ボー・フォルスゴー演じる国王クリスチャン7世が魅せた「狂気」。その表現に関しては「私は彼を躁うつ的な人物だと捉えました。子どものように無邪気で、王という役割を望んでいなかった。ミケルとは“狂気のバージョン”と“幼子のようなバージョン”を何度も試し、幅広い表現を収録しました。そのエネルギーの大半はミケル自身が持ち込んだものです」と明かす。

 マッツ・ミケルセン演じる王の侍医ストルーエンセと王妃との恋がなかったら物語は一体どうなっていたのか。「おそらく彼らは友人関係のままだったでしょう。保守派がいずれ権力を握るにしても、大事件にはならなかったかもしれません。最大の過ちは、ストルーエンセが親友である国王に真実を打ち明けなかったことです。正直に話していれば運命は変わっていたかもしれません」とデンマーク王室最大のスキャンダルにまで発展した禁断の恋に言及する。

© 2012 Zentropa Entertainments28 ApS, Zentropa Entertainments Berlin, Zentropa International Sweden and Sirena Film Prague

 王妃役にアリシア・ヴィキャンデルを起用した経緯については「デンマーク人女優を何十人もオーディションしましたが、誰も“これだ”という人がいませんでした。映画を諦めかけたとき、スウェーデンでアリシアに出会ったのです。“彼女しかいない”と直感しました。ただ問題はデンマーク語が話せないこと。でも彼女は3〜4ヵ月で言語を習得し、見事に役を演じきりました」とアリシア・ヴィキャンデルの驚きのエピソードを披露。
 さらに王妃が残した日記や手紙を読んだときは「彼女は非常に聡明で、啓蒙思想や農民の権利にまで関心を持っていた。デンマーク史では“幼く無邪気な少女”としか描かれてこなかったのに、実際には鋭い知性を持つ若い女性だったのです。誰も彼女の真の姿を見てこなかったのか、と強く思いました」と驚いたようだ。

 そして、意外にも撮影で最も苦労したのはカツラだったそう。「安物はすぐにバレてしまうし、本物は非常に高価。衣装、馬車、兵士なども大変でしたが、衣装デザイナーや美術監督の経験豊富なチームのおかげで乗り越えられました」とスタッフを称えた。
 最後に、本作の主人公ストルーエンセという人物の本質については「彼の思想は特別革新的ではなく、啓蒙時代の哲学者たちに触発されたものでした。彼が特別だったのは、王侯貴族ではなく庶民の出身だったこと。その存在自体が宮廷において反逆的でした。彼が権力を握ったときに行った改革は、多くの普通の市民なら同じように望んだことだったと思います」と締めくくった。

LINEUP

『ブレイカウェイ』

© M&M Rights ApS og DR TV-Drama

 (原題:BLINKENDE LYGTER、2000年/109分/デンマーク・スウェーデン)※日本劇場初公開

本国で歴史的大ヒットを記録したデンマーク映画史上最高傑作とも言われる幻の名作

【あらすじ】
 不条理な子ども時代のトラウマを持ち、この上なくアンラッキーな4人のならず者たち。年齢も境遇もバラバラな彼らは失敗続きの人生を塗り変えるために大金強奪を画策する。激しい銃撃戦に負傷しながらも、逃亡を果たした彼らに待っていたのは……。

【マッツが演じるのはこんな役!】
 暴力ですべてを解決する銃器マニア、いつもイライラしている荒くれ者アーニー。若きマッツの鍛え上げられた身体と、やんちゃな色気がたまらない……!

【監督・脚本】アナス・トマス・イェンセン
【キャスト】セーン・ピルマーク、ウルリク・トムセン、ニコライ・リー・コス、マッツ・ミケルセン

『フレッシュ・デリ』

© 2003 M&M De Grønne Slagtere ApS.

 (原題:DE GRØNNE SLAGTERE、2003年/100分/デンマーク)※日本劇場初公開

日本では長らく視聴困難となっていたファン待望のハートフル・カニバリズム・ドラマ

【あらすじ】
 スヴェンはビャンと共に精肉店を立ち上げるが、冷凍庫から閉じ込められた電気工の死体が出てきてしまう。困り果てたスヴェンは死体の肉で作ったマリネを客に提供するが、なんとそれが大ヒット。店の評判を失いたくない彼は次々と人を手にかけていき……。

【マッツが演じるのはこんな役!】
 常に脂汗を額にたぎらせた、精肉店を営む嫌味な町の嫌われ者スヴェン。イメージを覆す衝撃的なヘアスタイルで、新たな魅力が開眼!?

【監督・脚本】アナス・トマス・イェンセン
【キャスト】マッツ・ミケルセン、ニコライ・リー・コス、ボディル・ヨルゲンセン

『アダムズ・アップル』

© 2005 M&M Adams Apples ApS.

 (原題:ADAMS ÆBLER、2005年/94分/デンマーク・ドイツ)

試練と不条理の果てに予期せぬ“奇跡”が舞い降りる予測不能なダーク・ヒューマン・ドラマ

【あらすじ】
 仮釈放されたアダムは更生施設を兼ねた田舎の教会へ送り込まれるが、ネオナチ思想に染まる彼は、指導役の聖職者イヴァンから目標を問われ「庭のリンゴを収穫してアップルケーキを作る」と適当な返事をする。イヴァンの自己欺瞞を執拗に暴こうとするアダムだったが、そんな彼に奇怪な災いが次々と降りかかる……。

【マッツが演じるのはこんな役!】
 穏やかながら度を越えた楽観主義者、短パン姿の型破りな牧師イヴァン。ポジティブ思考の良識人のようだが、徐々にサイコパス味が増してきて……。

【監督・脚本】アナス・トマス・イェンセン
【キャスト】ウルリク・トムセン、マッツ・ミケルセン、ニコラス・ブロ、パプリカ・スティーン

『アフター・ウェディング』

© 2006 Zentropa Entertainments16 ApS. & After the Wedding Ltd./Sigma Films III Ltd. All rights reserved 2006

 (原題:EFTER BRYLLUPPET、2006年/120分/デンマーク・スウェーデン)

アカデミー賞®外国語映画賞ノミネート。ハリウッドリメイクもされた感動のヒューマン・ドラマ

【あらすじ】
 インドで孤児の援助活動を行うデンマーク人のヤコブは、祖国の実業家ヨルゲンから巨額の寄付金の申し出を受ける。故郷に戻ったヤコブはヨルゲンとの交渉を成立させるが、娘の結婚式に出席するよう誘われる。思いがけない人と再会した彼は、衝撃的な事実を知ることになる……。

【マッツが演じるのはこんな役!】
 インドで孤児院を経営する、秘密を抱えたナイーヴな理想主義者ヤコブ。子どもたちにも慕われる、母性本能をくすぐる優男だが実は隠された過去があり……。

【監督・脚本】スザンネ・ビア
【脚本】アナス・トマス・イェンセン
【キャスト】マッツ・ミケルセン、ロルフ・ラッスゴード、シセ・バベット・クヌッセン

『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』

© 2012 Zentropa Entertainments28 ApS, Zentropa Entertainments Berlin, Zentropa International Sweden and Sirena Film Prague

 (原題:EN KONGELIG AFFÆRE、2012年/137分/デンマーク・スウェーデン・ドイツ・チェコ)

ベルリン国際映画祭 脚本賞&男優賞W受賞デンマーク王室最大のスキャンダルを描いた歴史劇

【あらすじ】
 18世紀後半、王政末期のデンマーク。野心家のドイツ人ストルーエンセは、精神を病んだデンマーク国王クリスチャン7世の侍医に就く。王の唯一の理解者であり親友となる一方で、ストルーエンセは孤独な王妃カロリーネの心も虜にし、二人は禁断の恋に落ちていくのだった……。

【マッツが演じるのはこんな役!】
 王宮の侍医の身分で王に取り入り、実権を握ったデンマーク史に残る野心家ストルーエンセ。色香漂うポニーテール&コスチューム姿で、禁断の恋に落ちる男を熱演!

【監督・脚本】ニコライ・アーセル
【脚本】ラスマス・ヘイスターバング
【キャスト】マッツ・ミケルセン、アリシア・ヴィキャンデル、ミケル・ボー・フォルスゴー

『偽りなき者』

© 2012 Zentropa Entertainments 19 ApS and Zentropa International Sweden.

 (原題:JAGTEN、2012年/115分/デンマーク)

カンヌ国際映画祭 主演男優賞受賞!力強い演技が観る者の魂を揺さぶる衝撃作

【あらすじ】
 離婚と失業を乗り越え、幼稚園の教師という職に就いたルーカスは、ようやく穏やかな日常を取り戻した。しかしある日、親友の娘クララの作り話によって、彼は小児愛者の烙印を押されてしまう。幼いクララの証言を町の住人は信じて疑わず、ルーカスは全てを失い、小さな町で孤立してしまう……。

【マッツが演じるのはこんな役!】
 小児愛者の汚名を着せられ、村八分にされる心優しい幼稚園の教師ルーカス。子どもの言葉を妄信する人々に糾弾され、身も心もボロボロになっていく……。

【監督・脚本】トマス・ヴィンターベア
【脚本】トビアス・リンホルム
【キャスト】マッツ・ミケルセン、トマス・ボー・ラーセン、アニカ・ヴィタコプ

『メン&チキン』

©2015 M&M Productions A/S, Studio Babelsberg, DCM Productions & M&M Mænd & Høns ApS

 (原題:MÆND OG HØNS、2015年/104分/デンマーク・ドイツ)※日本劇場初公開

あなたの“マッツ愛”が試される!? 狂気的な怪演が光る奇想天外、クセ者たちのルーツ探しの狂想曲

【あらすじ】
 大学教授のガブリエルと、女とトリビアにしか興味がないエリアスの兄弟は、父親の遺品からビデオレターを発見し、父がふたりの生物学的な父親ではないこと、それぞれの母親も違うことを知る。二人は父親の住所を探し出すが、辿り着いたのは、家畜が放し飼いにされ、3人の異母兄弟が暮らす寂れた屋敷だった……。

【マッツが演じるのはこんな役!】
 無造作なクセ毛に無精ヒゲ、短気で暴力的、対人関係に難ありの偏屈な男エリアス。女好きで狂気的な役柄を怪演するも、その色気は隠しきれない……!?

【監督・脚本】アナス・トマス・イェンセン
【キャスト】マッツ・ミケルセン、デヴィッド・デンシック、ニコライ・リー・コス、ニコラス・ブロ

マッツ・ミケルセン(Mads Mikkelsen)PROFILE

 1965年11月22日、デンマークのコペンハーゲン生まれ。
 約10年間、プロのダンサーとして活躍したのち、ニコラス・ウィンディング・レフン監督の『プッシャー』(1996)で映画デビューを果たすと、デンマークで大ヒットを記録したTVシリーズ「UNIT ONE -特別機動捜査班-」(2000 – 2003)で世間にも広く知られるようになる。スザンネ・ビア『しあわせな孤独』(2002)、クリスチャン・レヴリング『悪党に粛清を』(2014)、トマス・ヴィンターベア『アナザーラウンド』(2020)、アナス・トマス・イェンセン『ライダーズ・オブ・ジャスティス』(2020)、ニコライ・アーセル『愛を耕すひと』(2023)といったデンマークを代表する監督たちの作品でその存在感を示す一方で、『007/カジノ・ロワイヤル』(2006)で演じた悪役ル・シッフルで世界中にその名をとどろかせ、人気ドラマ「ハンニバル」(2013 – 2015)のハンニバル・レクター役はまさにはまり役となり、今なお世界中の観客を魅了し続けている。以降も『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)、『ドクター・ストレンジ』(2017)、『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』(2022)、『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(2023)などハリウッド超大作にも多数出演、日本でも“北欧の至宝”と称され熱狂的なファンを多く持つ。

公開表記

 配給:シンカ
 2025年11月14日(金) 新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷 ほか全国公開

 公式HP:synca.jp/mads60thanniv(外部サイト)

  X:@SYNCACreations
  Instagram:synca_creations

(オフィシャル素材提供)

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