
2025年11月22日に60歳の誕生日を迎える、デンマークで最も成功した世界的俳優の一人、マッツ・ミケルセン。この度、生誕60年を記念して「〈北欧の至宝〉マッツ・ミケルセン生誕60周年祭」が11月14日(金)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開となる。
プロのダンサーとしての約10年にわたるキャリアを持ちながら、『プッシャー』(1996)で鮮烈な映画デビューを飾って以来、ニコラス・ウィンディング・レフンやトマス・ヴィンターベアといったデンマークを代表する名だたる巨匠たちの作品に数多く出演し、『偽りなき者』(2012)で第65回カンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞。その一方で、『007/カジノ・ロワイヤル』(2006)で演じた魅惑的な悪役像で世界中に強烈な印象を残して大ブレイクを果たす。その後もハマり役となった『ハンニバル』(2013-2015)でその人気を不動のものとし、名実ともに現代デンマークを代表する俳優となった。
この度、デンマーク王室最大のスキャンダルを描いた歴史劇『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』(12)からマッツ・ミケルセンのインタビューをご紹介!
マッツがアリシア・ヴィキャンデル演じる王妃と禁断の恋に落ちる王の侍医ストルーエンセを演じ、ベルリン国際映画祭 脚本賞&男優賞(ミケル・ボー・フォルスゴー)W受賞を果たしたことでも話題となった作品。
あなたの演じたキャラクターは大きな苦悩を経験します。彼が持つ思想や独自性について教えてください。
マッツ・ミケルセン:ストルーエンセの思想自体は、当時として特別に斬新というわけではありません。ヴォルテールなど同時代の思想家がすでに広めていた考えを、彼もまた信じていたにすぎません。ただ彼自身は革命を起こそうと積極的に動いていたわけではなく、医師として満足していました。けれども国王と出会い、王を支え、彼に自分の意見を持たせようとする中で、気づけば権力の中枢に近づいていった。最初は他人が王の耳元で囁くことを嫌悪していたのに、自分も同じことをしてしまう。もちろん彼には「善意」があったと本人は言うでしょうが。
しかし物語の通り、やがて彼は王妃との関係にのめり込みますね。
マッツ・ミケルセン:頭ではなく心で動いてしまった結果ですね。彼は王妃と激しく愛し合うようになります。王、王妃、そしてストルーエンセ。3人がそれぞれ違った形で愛し合ってしまったために、事態は非常に複雑になります。国を導く立場にありながら王妃との関係を隠し、しかも二人の間に子どもまでできてしまう。本当に困難な状況でした。王妃の手紙からも、二人が激しく情熱的な恋をしていたことが確かにわかります。
この物語は実話に基づいていますが、デンマーク人としてこの歴史をどう認識していましたか?
マッツ・ミケルセン:デンマークでは誰もが知っている話です。簡単に言えば「ドイツ人医師がやって来て、王妃と関係を持ち、国を支配し、やがて処刑された」というのが一般的な理解でしょう。でも掘り下げていくと、もっと複雑で多面的な物語が浮かび上がってきます。私たちも事実すべてを知ることはできません。推測や記録をもとに、どんな人間だったのか、なぜそうしたのかを想像するしかないのです。
歴史劇ですが、デンマーク語で撮影されたことも印象的でした。
マッツ・ミケルセン:母語であるデンマーク語で演じられるのは嬉しいことです。ただ実際の宮廷ではフランス語やドイツ語が使われていて、デンマーク語は農民の言葉でした。それでも映画としてはデンマーク語で統一することで、物語を自分たちの文化のものとして描けたと思います。
ご自身は国際的にハリウッド作品でも活躍されていますが、北欧映画にこだわり続ける理由は?
マッツ・ミケルセン:それは自分の文化的な基盤だからです。母語で芝居ができる環境はやはり居心地がいい。外国映画では「フランス語を話せ」「ピアノを弾け」「ロシア語を学べ」といった課題が重なりますが、デンマークに戻るとすぐに役に集中できる。だから今後も続けていきたいですね。
ミケル・ボー・フォルスゴーが映画初出演で国王・クリスチャン7世を演じました。彼の「狂気」をどう見ましたか?
マッツ・ミケルセン:私の演じたストルーエンセと同じように、まず「愛情」をもって見ていました。王には子どものような無邪気さと不安定さが同居していて、とても複雑な存在です。ミケルにとっては初めての映画で大変だったと思いますが、彼は「狂気のバージョン」と「無邪気な子どものバージョン」を演じ分け、その振れ幅が作品を豊かにしました。本当に難しい役どころでしたが、見事にやり遂げたと思います。
彼をサポートすることもありましたか?
マッツ・ミケルセン:彼自身がどんどん自信をつけ、議論に加わり、俳優としての存在感を主張するようになりました。私は背中を押す程度で十分でしたね。
アリシア・ヴィキャンデルについて。彼女の魅力は何でしょうか?
マッツ・ミケルセン:彼女は素晴らしい女優ですし、カメラが彼女を愛している。小さな仕草までもがスクリーンに映える。それはお金では買えない才能です。私たちも羨ましいくらいです。
監督ニコライ・アーセルの演出スタイルについては?
マッツ・ミケルセン:非常に精密で、映像的にも巧みな監督です。ただスタイルだけではなく、役者に寄り添い、感情を引き出す力を持っていました。歴史劇をただ形式的に撮るのではなく、観客が心を動かされる作品に仕上げてくれました。

デンマークを離れているとき、一番恋しくなるものは何ですか?
マッツ・ミケルセン:やはり家族です。それから母語であるデンマーク語、そして地元の食べ物。国そのものの美しさというより、自分の「基盤」であることが大切なんです。
デンマークについて世界で誤解されていることがあるとすれば?
マッツ・ミケルセン:どんな国もそうですが、メディアや本だけでは本当の姿は伝わりません。実際に訪れ、その空気を感じることが必要です。だから興味がある人にはぜひデンマークに来てほしいですね。
本生誕祭では、彼の60歳の節目を祝い、日本劇場初公開の貴重な作品を含む7作品を一挙に上映。若き日のマッツ・ミケルセンを堪能できる『ブレイカウェイ』(00)や『フレッシュ・デリ』(02)、長らく未公開となっていた『メン&チキン』(15)といった日本初公開作だけでなく、『アダムズ・アップル』(05)、『アフター・ウェディング』(06)、『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』(12)、そして代表作とも言うべき『偽りなき者』(12)まで、マッツ・ミケルセンのキャリアを通じて培われた演技の真髄を劇場で堪能できる滅多にない機会となる。“北欧の至宝”とも称される名俳優の輝き、そして圧倒的な存在感をスクリーンで体感してほしい。
LINEUP
『ブレイカウェイ』

(原題:BLINKENDE LYGTER、2000年/109分/デンマーク・スウェーデン)※日本劇場初公開
本国で歴史的大ヒットを記録したデンマーク映画史上最高傑作とも言われる幻の名作
【あらすじ】
不条理な子ども時代のトラウマを持ち、この上なくアンラッキーな4人のならず者たち。年齢も境遇もバラバラな彼らは失敗続きの人生を塗り変えるために大金強奪を画策する。激しい銃撃戦に負傷しながらも、逃亡を果たした彼らに待っていたのは……。
【マッツが演じるのはこんな役!】
暴力ですべてを解決する銃器マニア、いつもイライラしている荒くれ者アーニー。若きマッツの鍛え上げられた身体と、やんちゃな色気がたまらない……!
【監督・脚本】アナス・トマス・イェンセン
【キャスト】セーン・ピルマーク、ウルリク・トムセン、ニコライ・リー・コス、マッツ・ミケルセン
『フレッシュ・デリ』

(原題:DE GRØNNE SLAGTERE、2003年/100分/デンマーク)※日本劇場初公開
日本では長らく視聴困難となっていたファン待望のハートフル・カニバリズム・ドラマ
【あらすじ】
スヴェンはビャンと共に精肉店を立ち上げるが、冷凍庫から閉じ込められた電気工の死体が出てきてしまう。困り果てたスヴェンは死体の肉で作ったマリネを客に提供するが、なんとそれが大ヒット。店の評判を失いたくない彼は次々と人を手にかけていき……。
【マッツが演じるのはこんな役!】
常に脂汗を額にたぎらせた、精肉店を営む嫌味な町の嫌われ者スヴェン。イメージを覆す衝撃的なヘアスタイルで、新たな魅力が開眼!?
【監督・脚本】アナス・トマス・イェンセン
【キャスト】マッツ・ミケルセン、ニコライ・リー・コス、ボディル・ヨルゲンセン
『アダムズ・アップル』

(原題:ADAMS ÆBLER、2005年/94分/デンマーク・ドイツ)
試練と不条理の果てに予期せぬ“奇跡”が舞い降りる予測不能なダーク・ヒューマン・ドラマ
【あらすじ】
仮釈放されたアダムは更生施設を兼ねた田舎の教会へ送り込まれるが、ネオナチ思想に染まる彼は、指導役の聖職者イヴァンから目標を問われ「庭のリンゴを収穫してアップルケーキを作る」と適当な返事をする。イヴァンの自己欺瞞を執拗に暴こうとするアダムだったが、そんな彼に奇怪な災いが次々と降りかかる……。
【マッツが演じるのはこんな役!】
穏やかながら度を越えた楽観主義者、短パン姿の型破りな牧師イヴァン。ポジティブ思考の良識人のようだが、徐々にサイコパス味が増してきて……。
【監督・脚本】アナス・トマス・イェンセン
【キャスト】ウルリク・トムセン、マッツ・ミケルセン、ニコラス・ブロ、パプリカ・スティーン
『アフター・ウェディング』

(原題:EFTER BRYLLUPPET、2006年/120分/デンマーク・スウェーデン)
アカデミー賞®外国語映画賞ノミネート。ハリウッドリメイクもされた感動のヒューマン・ドラマ
【あらすじ】
インドで孤児の援助活動を行うデンマーク人のヤコブは、祖国の実業家ヨルゲンから巨額の寄付金の申し出を受ける。故郷に戻ったヤコブはヨルゲンとの交渉を成立させるが、娘の結婚式に出席するよう誘われる。思いがけない人と再会した彼は、衝撃的な事実を知ることになる……。
【マッツが演じるのはこんな役!】
インドで孤児院を経営する、秘密を抱えたナイーヴな理想主義者ヤコブ。子どもたちにも慕われる、母性本能をくすぐる優男だが実は隠された過去があり……。
【監督・脚本】スザンネ・ビア
【脚本】アナス・トマス・イェンセン
【キャスト】マッツ・ミケルセン、ロルフ・ラッスゴード、シセ・バベット・クヌッセン
『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』

(原題:EN KONGELIG AFFÆRE、2012年/137分/デンマーク・スウェーデン・ドイツ・チェコ)
ベルリン国際映画祭 脚本賞&男優賞W受賞デンマーク王室最大のスキャンダルを描いた歴史劇
【あらすじ】
18世紀後半、王政末期のデンマーク。野心家のドイツ人ストルーエンセは、精神を病んだデンマーク国王クリスチャン7世の侍医に就く。王の唯一の理解者であり親友となる一方で、ストルーエンセは孤独な王妃カロリーネの心も虜にし、二人は禁断の恋に落ちていくのだった……。
【マッツが演じるのはこんな役!】
王宮の侍医の身分で王に取り入り、実権を握ったデンマーク史に残る野心家ストルーエンセ。色香漂うポニーテール&コスチューム姿で、禁断の恋に落ちる男を熱演!
【監督・脚本】ニコライ・アーセル
【脚本】ラスマス・ヘイスターバング
【キャスト】マッツ・ミケルセン、アリシア・ヴィキャンデル、ミケル・ボー・フォルスゴー
『偽りなき者』

(原題:JAGTEN、2012年/115分/デンマーク)
カンヌ国際映画祭 主演男優賞受賞!力強い演技が観る者の魂を揺さぶる衝撃作
【あらすじ】
離婚と失業を乗り越え、幼稚園の教師という職に就いたルーカスは、ようやく穏やかな日常を取り戻した。しかしある日、親友の娘クララの作り話によって、彼は小児愛者の烙印を押されてしまう。幼いクララの証言を町の住人は信じて疑わず、ルーカスは全てを失い、小さな町で孤立してしまう……。
【マッツが演じるのはこんな役!】
小児愛者の汚名を着せられ、村八分にされる心優しい幼稚園の教師ルーカス。子どもの言葉を妄信する人々に糾弾され、身も心もボロボロになっていく……。
【監督・脚本】トマス・ヴィンターベア
【脚本】トビアス・リンホルム
【キャスト】マッツ・ミケルセン、トマス・ボー・ラーセン、アニカ・ヴィタコプ
『メン&チキン』

(原題:MÆND OG HØNS、2015年/104分/デンマーク・ドイツ)※日本劇場初公開
あなたの“マッツ愛”が試される!? 狂気的な怪演が光る奇想天外、クセ者たちのルーツ探しの狂想曲
【あらすじ】
大学教授のガブリエルと、女とトリビアにしか興味がないエリアスの兄弟は、父親の遺品からビデオレターを発見し、父がふたりの生物学的な父親ではないこと、それぞれの母親も違うことを知る。二人は父親の住所を探し出すが、辿り着いたのは、家畜が放し飼いにされ、3人の異母兄弟が暮らす寂れた屋敷だった……。
【マッツが演じるのはこんな役!】
無造作なクセ毛に無精ヒゲ、短気で暴力的、対人関係に難ありの偏屈な男エリアス。女好きで狂気的な役柄を怪演するも、その色気は隠しきれない……!?
【監督・脚本】アナス・トマス・イェンセン
【キャスト】マッツ・ミケルセン、デヴィッド・デンシック、ニコライ・リー・コス、ニコラス・ブロ
マッツ・ミケルセン(Mads Mikkelsen)PROFILE
1965年11月22日、デンマークのコペンハーゲン生まれ。
約10年間、プロのダンサーとして活躍したのち、ニコラス・ウィンディング・レフン監督の『プッシャー』(1996)で映画デビューを果たすと、デンマークで大ヒットを記録したTVシリーズ「UNIT ONE -特別機動捜査班-」(2000 – 2003)で世間にも広く知られるようになる。スザンネ・ビア『しあわせな孤独』(2002)、クリスチャン・レヴリング『悪党に粛清を』(2014)、トマス・ヴィンターベア『アナザーラウンド』(2020)、アナス・トマス・イェンセン『ライダーズ・オブ・ジャスティス』(2020)、ニコライ・アーセル『愛を耕すひと』(2023)といったデンマークを代表する監督たちの作品でその存在感を示す一方で、『007/カジノ・ロワイヤル』(2006)で演じた悪役ル・シッフルで世界中にその名をとどろかせ、人気ドラマ「ハンニバル」(2013 – 2015)のハンニバル・レクター役はまさにはまり役となり、今なお世界中の観客を魅了し続けている。以降も『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)、『ドクター・ストレンジ』(2017)、『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』(2022)、『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(2023)などハリウッド超大作にも多数出演、日本でも“北欧の至宝”と称され熱狂的なファンを多く持つ。

公開表記
配給:シンカ
2025年11月14日(金) 新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷 ほか全国公開
公式HP:synca.jp/mads60thanniv(外部サイト)
X:@SYNCACreations
Instagram:synca_creations
(オフィシャル素材提供)