
登壇者:髙橋 渉(監督)、柿澤勇人(シエロ役)
長年多くのファンから愛されている、いしいしんじによる小説『トリツカレ男』(新潮文庫刊)がついに映画化! 原作小説を元に、ミュージカル・アニメーションの映画 『トリツカレ男』が11月7日(金)に全国公開。本日11月2日(日)に、第38回東京国際映画祭にて本作の公式上映が行われた。上映前に、主人公ジュゼッペの頼れる相棒で親友、ハツカネズミのシエロ役を演じた柿澤勇人と髙橋 渉監督が登壇。また、髙橋監督は、舞台挨拶に先んじて東京ミッドタウン日比谷BASE Qにて行われた、「第38回東京国際映画祭アニメ・シンポジウム【アニメーションだからできること】」にも登壇し、他作品の監督たちとアニメーションについてトークセッションを行った。
柿澤と髙橋監督は、満席で埋まった会場の拍手に包まれ登壇。企画の成り立ちと映画をミュージカル仕立てにするのは、どの段階で決まったのかという質問に対し髙橋監督は「プロデューサーが、この作品をミュージカルでやりましょう!と提案してくれた。原作もとても素敵だったので、ぜひ作品にしたいと思った」と明快に回答。柿澤は、シエロ役に決まった時の気持ちについて「アニメーション映画の声優は役者人生で初めてで、これは絶対やりたいなと思いました。ただ、(役が)“ネズミです”と。実は、コロナ禍に作ったショート・ムービーで声優をやったことはあるのですが、その時の役柄は“オペラグラス”だったんです。なぜ僕は人間役ができないのだろうと(笑)、でも台本を読み終わったら、シエロという役、ジュゼッペ、ペチカ、温かい登場人物と素敵なキャラクターばかりで、ミュージカルということで素敵な音楽もありますし、絶対に演じたいと思いました」と当時を振り返った。

柿澤へシエロ役を依頼した決め手を聞かれ髙橋監督は「ジュゼッペが好き勝手に動き回るキャラクターなので、シエロはとてもしっかりした方に演じてもらいたいと思い、ミュージカル経験も豊富な柿澤さんにお願いしたいと思いました。一番しゃべるキャラクターで、ネズミをやってほしいというよりも、ジュゼッペの親友を演じてほしかったんです。頼りになる相棒感を柿澤さんなら演じてくれると思ったので(引き受けていただき)嬉しかったです」と柿澤への依頼に込めた気持ちを語った。

アフレコ時苦労したことについて柿澤は「ネズミですから、正解がよく分からなくて……会話として普通にしゃべったりもしますし、チューチューとネズミ語も話すシーンのバリエーションがいっぱいありまして、100テイクくらい撮りましたか?」と振り返ると、監督が「いやもっと撮りました。チューチューのストックがたくさんあります」と回答し会場を驚かせていた。
本作の主人公・ジュゼッペについて監督は「自分勝手に歌い踊って勝手に女の子を好きになって、迷惑極まりないキャラクターですが、愛嬌があって、自分のためというよりも何かのため、誰かのために夢中になって動いているさまは魅力的なキャラクターだなと思います」とジュゼッペの魅力を語り、柿澤は「すごくピュアで自分の気持ち、本能のまま素直に人生を生きているやつだな、と思いました。そういう意味で、演じた佐野晶哉さんはぴったりだと思いました。音楽の教養という技術的なことも含め、人間的にもチャーミングでみんなに好かれる愛らしい方なので。シエロは劇中で彼に怒ったり助言をしたりしていますが、結局ジュゼッペは憎めないやつで、シエロは彼の幸せを思い続けて奮闘するような、そういう関係性です」とジュゼッペについて愛おしそうに語った。

最後に、監督は「原作を読んで純粋な物語だったので、それをそのまま描こうと思って出来た映画です。とてもチャーミングな映画になっていると思います。柿澤さん演じるシエロのチューチューというネズミ語が、映画を観終わったら何を言っているのか分かるようになると思います!」とアピールし、柿澤は「誰かが誰かを思うとか、誰かが人の幸せや健康を願って、愛を持つことは、当たり前かもしれませんが、この時代、人が人を思うことは難しくなっていると僕個人としては思っています。そういったことの素晴らしさを、真っ向から素敵な音楽、ミュージカルを通して皆さんにダイレクトに伝えてくれると思います。観終わった後に何か温かいものが皆様の心の中に残っていただけたら幸いでございます」と言葉を結び舞台挨拶は終了した。

第38回東京国際映画祭アニメ・シンポジウム【アニメーションだからできること】

河森正治監督(『迷宮のしおり』)、リアン=チョー・ハン監督(『Little Amélie or the Character of Rain(英題)』)とアニメ・シンポジウムに登壇した髙橋監督は、『トリツカレ男』のビジュアルの方向性をどのように固めていったのかという質問に「原作小説をプロデューサーから渡された時の印象が、キラキラ、メルヘンというイメージだったのでリアルなキャラクターよりも、昔の古い感じのするスタイルでやるほうが作品の純粋なメッセージが伝わると思い、キャラクターデザインを荒川眞嗣さんに依頼しました。物の形の捉え方が荒川さんらしく、雲の描き方、木の枝や遠くに映っている窓に至るまで自分のスタイルをお持ちの方で、この方にお任せすれば丸ごと新しい世界を作ってくれると思った」と荒川氏に対する信頼感を語った。また、70年代に活躍したシンエイ動画の前身、A.PRODUCTIONへのリスペクトを作品に込めたのかと聞かれると「意識したというより僕もずっとシンエイにいたので、自然にそのようになったのかもしれません。」と回答し、「古いスタイルのアニメーションは少なくなってきているのですが、今回若い方でもこんな絵を書いてみたかったと共鳴してくださった方がいた」とクリエイターのモチベーションも制作を支えてくれたと、制作の裏側を明かしてくれた。ミュージカルについては、「ミュージカルをやりましょうと言われた時、自分には音感が無くドキドキしたが、『トリツカレ男』の原作の世界感が好きで、音楽は観客の方の耳に直接届くので、要素としてはとても大きい。その力を使って『トリツカレ男』の世界に入っていただけたらと思っていました」と歌の大切さを説いた。

背景美術については、「無国籍な雰囲気がとても好きで、原作でもどこの国や時代と限定されていなかったので、映画でもこちらに任された。私もやはり限定しないほうがいいとは思いながらヨーロッパのどこかかなと思い、屋根がピンクや黄色でフランスっぽく、建物はイギリス風などいろいろな風景を混ぜて描いていきました」とカラフルな街並みの制作秘話を明かした。また「ラフなキャラクターに合う手触り感が大事だと思っていました。紙で書いてスキャンして筆のタッチがシーンごとに違っていたりします。最初はそのことでリテイクしたりしていましたが、最終的には、人が手で描いていることが見えればそれでいいと思うようになりました」と手描きの質感を大切にしたと語った。
今後挑戦してみたい作品についての質問には「作品を作っているとき、世界とのギャップに悩むときがあります。それでもフィクションの力は強いと思っているので、現実に負けたくなかった。(現実に)負けないために何か一つでも美しいものを作っていけたらと思っています。『トリツカレ男』も啓蒙的な映画ではなくて、ひたむきな男ジュゼッペの人間的な美しさが描けていたので、そういう作品をまた作っていけたらいいなと思っています」と前向きな希望を語り、シンポジウムは終了した。

公開表記
配給:バンダイナムコフィルムワークス
11月7日(金) 全国公開
(オフィシャル素材提供)





