記者会見

西島秀俊×グイ・ルンメイ×真利子哲也『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』完成報告会見

© Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.

 登壇者:西島秀俊、グイ・ルンメイ、真利子哲也監督

 映画『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』の完成報告会見が都内で行われ、主演の西島秀俊と共演した台湾の国民的女優グイ・ルンメイ、メガホンを取った真利子哲也監督が出席してクロストークを行った。会見は劇中のキーワードである“廃墟”にちなみ、7月27日に65年の歴史に幕を下ろして閉館した東京・丸の内TOEIにて実施された。

 日本、台湾、アメリカの合作となる本作は、ニューヨークで暮らす日本人の賢治(西島)と、中華系アメリカ人の妻ジェーン(グイ・ルンメイ)夫婦が主人公。突如起こった“息子・カイの誘拐”という悲劇をきっかけに、夫婦間が破綻していく物語が描かれるヒューマン・サスペンス。

 会見冒頭には劇中に登場する(人形)パペットが上手から登場して、作品の世界観を伝えた。ステージに立った西島は「力強い作品が完成しました」と伝える。

 オファーを振り返って、夫の賢治役を演じた西島は、まず真利子監督のファンだと明かし「ずっとご一緒したかったです」と伝える。脚本を読んで「文化の衝突や、家族の関係の難しさとか、今まさにみんなが直面しながらも解決できていないテーマが多く含まれていて、撮影を通してそういう問題と向き合ってみたいということで出演を決めました」と話す。

 妻ジェーン役を演じたグイ・ルンメイは「廃墟やパペットを用いて、役柄の内心の世界を特別な方法で表現しているところや国籍も言語も違う夫婦が、いろんな隔たりをどう乗り越えていくのか、どう前向きに生きていくのか、そういったところに惹かれて参加を決めました」と、オファーを受けた理由を説明。

 西島とは初コラボとなった真利子監督は、「西島さんは好きな俳優なので声をかけさせていただきました。西島さんはボロボロになる役が似合う人だなあという印象があって、きっと言語に頼らずに役を生き抜いてくれるのではないかと思いました」と説明する。さらに、「映画に対する愛がとても強く、信頼できる方」と続けた。

 初共演のグイ・ルンメイについて西島は「アジアを代表する素晴らしい俳優さんです。とても繊細な演技ができる方。現場では何事にも感謝する姿がありました。献身的に、全力で芝居に臨んでくれました。1ヵ月半の撮影中、ずっと役に集中して準備を丁寧にされていました。そのナチュラルな仕事に感動しました。何度も撮影するときでも、集中力を切らすことなく演じていたので、僕に、どういう演技が理想なのかを見つめ直す機会を与えてくれました」と感謝を伝えた。

 グイ・ルンメイは照れながら西島に「ありがとう!」と日本語で伝えてから、「私は西島さんのファンの一人です」と話し、「西島さんは、見た目は冷静で落ち着いているのに、心の中には無尽のエネルギーを持っている方。大きな木のような方で、その下で私は遊ぶことができました。現場では毎回、西島さんから異なるエネルギーをたくさん浴びることができ、『自由自在に演じればいいのだ』と幸せを感じていました」と話した。

 NYでのオールロケについて 話が及ぶ。劇中のセリフの9割が英語だということについて、真利子監督は「すごくお互いを思いやってるからこそすれ違ってしまうみたいな夫婦の関係を描きたくて、言いたいことも言ってるんだけど少しすれ違うみたいなことを描くのに、英語はすごい有効でした」と説明した。

 全編NYロケについて、西島はロケを思い返し「監督が選んだロケーションが、皆さんが想像するNYとは全く違って、片隅で懸命に毎日を生きるアジア人の家族の話なので、廃墟や古いチャイナタウンだったり、人が生きている、また、かつて生きていた、今後はおそらく忘れ去られて行くであろう場所で撮影していて、ロケーションの力はそういう意味でとても大きかったですね」と感心していた。

 グイ・ルンメイは「NYは人間が好きなことをなんでもやれる反面、人間一人ひとりは孤独なものだなと思わせられる場所です。この夫婦も英語を共通言語としてしゃべって一生懸命頑張っているけれども、心のコミュニケーションはなかなか取れていない。それでも諦めずに一生懸命前向きにやろうとしている……。NYはぴったりだと思いました」と話した。

 真利子監督の映画制作について、西島は「もともと人間の根源的な本能を突き詰めていらっしゃる方。それがすごく哲学的に感じる瞬間がありました」と話し、「今は、物理的な肉体の衝突を描くのではなく、言語や文化などを用いた“運命的な暴力”に向かっているのだなと感じました。ファンとして『また次の場所に向かったんだな』というふうに思っていました」と分析してみせた。

 さらに、西島は「真利子監督は何度もテストを繰り返し、すべてのカメラと俳優の動きが揃った瞬間を待っているタイプではなく、一見、失敗に見えるようなことも、そういったことから生まれてくるようなものも新鮮に捉えようとしている気がします。生々しい瞬間のような感じです」と話した。

 グイ・ルンメイは「監督は、すばらしい耳を持っていると思いました」と話し、その理由について「話しているトーン、声調から敏感なものを受け取って、発しているセリフの中から、情感、表現を感じ取り、調整をして我々の演技を引き出すという方法はとても独特でした」と真利子監督の演出の魅力を話す。

 完成した映画を観た感想を聞かれた西島は、「ラストにはなぜか不思議な爽快感があって、観る方にとってはきっと希望や解決の糸口に感じられると思います」と話す。

 グイ・ルンメイは「賢治はずっと過去を生きていて、ジェーンは現在や未来に向かっています。まったく生き方が違う二人ですが、愛があるからこそ互いに助け合うのです。一人が前に向かうと一人が後ろに行く……。賢治とジェーンはまるでワルツを踊っているようでした」と表現した。

 フォトセッションではパベットが再び登場した。本作で人形劇を扱った理由について真利子監督は「アメリカ滞在中にカルチャー・ショックがありました。アメリカの人形劇は子ども向けではなく大人向けのものもある。大きな人形のパペット・ショーがあって惹かれたので、身体的表現にも使ってみたいと思いました」と説明していた。

 最後に、真利子監督は「観る人の立場や状況によっていろんな印象がある映画になっています」と話し、「自分でも震え立つような映画になりました」とがっつり手ごたえを感じている様子。

 グイ・ルンメイは「愛があるからこそ関係が崩れて、壊れて、再建に向かってどのように努力しているのかというのを中心に描かれています。いろいろな感想を持つ作品だとは思うけれど、結末はこれでいいと思っています。それぞれの立場で感じ取ることができればいいと思います」と作品をアピール。

 西島は「過去にとらわれてなかなかそこから抜け出せない人、自分が生きていくうえで(自分にとっての)かけがえのないものがどうしても周りから理解されない人、いろいろなやりたいこととのバランスが取れない人などに観てほしい映画です。作品の中で懸命に生きている登場人物たちが、生々しく生きて困難を乗り越えていく映画です。ぜひ、劇場に足を運んでください!」とメッセージを送った。

 (取材・文・写真:福住佐知子)

公開表記

 配給:東映
 9.12 fri TOHOシネマズ シャンテほか 全国ロードショー

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