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「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」ファイナルシーズン 独占配信記念トークイベント

© 2025 MGM Television Entertainment Inc. and Relentless Productions, LLC. All Rights Reserved. THE HANDMAID’S TALE is a trademark of Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

  登壇者:鴻巣友季子(翻訳家)、小川公代(文学研究者)

 ブッカー賞を2度受賞した世界的巨匠マーガレット・アトウッドによるディストピア文学の金字塔を原作とし、2017年度のエミー賞🄬で動画配信サービスのオリジナル・ドラマが作品賞を受賞するという史上初の快挙を達成。アメリカのテレビ界の歴史を変えた作品とも称されるドラマ「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」がついにファイナルシーズンを迎え、Huluで独占配信中! そんな本ドラマの独占配信開始を記念して、都内でトークイベントが実施され、小説「侍女の物語」の続編となる小説「誓願」を翻訳した鴻巣友季子と、同書で解説を担当した上智大学外国語学部教授の小川公代が参加した。

 イベントが始まると鴻巣、小川はドラマの侍女さながらの真っ赤な色をした侍女服を着て登場。実際に着てみた感想を聞いてみると鴻巣は「この服を着たら、本当は私語禁止なんですよね。それなのに今日はたくさんトークをさせていただく、ということなんですけども(笑)。この“赤“というのは文学的に色んな意味がありますね、情熱や愛といったものがある一方、”怒り”といった強い感情を喚起させますよね。あるいは、こういう緋色といのは不義の愛を表す色でもあるんです。または魔女という意味もあるので、この服を着ているとなんだか複雑な気持ちになってしまいますね」と文学・歴史的な観点で語り、小川は「鴻巣さんからすごく重要なお話が出てきましたが、やっぱり赤というのはすごく重要なシンボルカラーであると思います。ファイナルシーズンでもシンボルカラーがたくさん出てきますので、ぜひお楽しみにしていただきたいです」とドラマに触れながら、「意外にもこの英語でいうところのレッドは、オブ・フレッドという名前の中に潜んでいます。オブ・フ“レッド” なんですね。でも皆さんもご存じと思うんですけど、 オブ・フレッドは自分がフレッドに所有されているという意味なわけですよね。でもそのフレッドという名前の中にレッドを赤色に潜ませるという、このアトウッドの演出、そして鴻巣さんの話にもあったような系譜につながる形で、赤というものをアトウッドがずっと意識していますよね」と鴻巣のトーク内容にも触れながら、侍女服の赤色という部分に着目した感想を展開してくれた。

 そして小川はアトウッドと鴻巣の話に上がった“魔女”についても「先ほど魔女という話もありましたけども、 もしかしたらアトウッドの先祖がイギリスの方からやってきたという、そういうピューリタンの伝統を背負いながらも、 実はアトウッド自身は魔女に共感しているわけなんですね。 しかも『侍女の物語』を書くうえでは、メアリー・ウェブスターという名前の魔女にこの物語を捧げている。だから魔女に捧げる物語というので、完全に赤という意味を、自分たちが魔女化される、あるいは悪魔化されてしまう、そういう女性たちの味方をしてくれるカラー、色としても考えられるし、本当に両義的だなって思いますね。それで、読み解きの楽しさというものもこの作品を読むことで味わえるのではないかなと思っています」と原作小説の魅力についても語ってくれた。

 そして、それぞれに本ドラマに初めて触れたときの話をしてみると、鴻巣は「1985年にこの作品が出た時には十分大人だったんですね。だけど、最初に出合ったのは映画のほうでした。映画のほうは偶話あるいはダーク・ファンタジーみたいなものでしたね。それでファンタジーとディストピアの世界の違いは何かというと、ファンタジーというのはあやふやな世界があるわけですね。何かをくぐり抜けて向こうの世界に行っちゃったりとか。どっちの世界が本物だというものじゃないんですよ。実は自分はどっちにいるのか分からないっていう、そういう決めきれないところがファンタジーなんですね。当時はそういうふうに見たと思います。ファンタジーとして怖い話だな、と。 今読んだり観たりした人っていうのは、 間違いなく日本とかアメリカの今の政治状況だったり、女性の権利がないこととか、 いろんなことを思い浮かべながら見ると思いますが、当時の私は、こんな極端な男女差別の世界というのもあるのかな、 ぐらいの感じなんですよ。本当にファンタジーを見るのと変わりませんでした」と語り、続けて「1985年に発表された『侍女の物語』を、ニューヨーク・タイムズで書評した大御所のメイリー・マッカーシーというアメリカの作家が酷評したんですね。 とにかく一番言われていたのが、アンリアル、全くリアルさがないということ。どういうところかと言いますと、作り込みが足りないというんですよね。ディストピア政権の中の機構というのが、全然具体的に書かれていない、と。ただ、これは後にディストピア小説の書き方の主流になっていくんですよね。そして、その後カズオ・イシグロという人が出てきて、あえて政権の正体を書かないというやり方をし始めますが。まずはギレアデという政権がどんなものか分からないということを酷評したのと、今のアメリカに、例えば女性の産む権利が脅かされたり、あるいは図書館の禁書ですね。そういうものが危険なほど高まってしまったり、キリスト教権利主義者たちの運動が危険なまでに高まるという兆しが、どこにあるのか、と言われていたんですよ。今まさに目の前にあることですよね。当時のアメリカ、1980年代というのは、本当にフェミニズムのバックラッシュが吹き荒れていました。プロライフとプロチョイス、プロライフというのは、赤ちゃんの命を優先するほうですね。プロチョイスというのは、どちらかというと母体の生きる権利を優先するほうですけれども、プロライフの話が本当に吹き荒れていました。それで、私はファルーディというフェミニストの作品を引いてよく言うんですけど、赤ちゃんがお腹の中であまり健康が芳しくなくなって、母体の危険が訪れるような時になったというとき、現在だったら残念ながら赤ちゃんのほうを断念せざるを得ないというような状況になると、弁護士が病院に飛んでくるんですよね。それで、母親のほうにつくんじゃないんです。胎児、お腹の中に赤ちゃんに弁護士がつくという、そういうすさまじいフェミニズムのバックラッシュがあった時代ですからね。みんなその危険っていうのは感じていたはずなんですよ。実際に感じていたし、これを読んでゾワゾワッとする人もいたはずなんだけれども、それでも、アトウッドさん曰くですけど、この時代にアメリカが今の20世紀のようになってしまうっていうことを予想した人は誰もいなかった、と言ってますね。私のフィクションは近づいてほしくなかった、そしてリアルに近づいているっていうことを感じながら、この35年間を過ごして『誓願』を書くに至ったということなんじゃないかなと思います」と「侍女の物語」の当時の時代背景、そして続編の「誓願」へと繋がる話を展開してくれた。

 そして小川は「私が初めて読んだのは、出版後10年ぐらいは経っていました。そしてアトウッドがこの物語を書いたヨーロッパで読みました。なので、すごくその時に繋がった感がしたんです。つまり、1990年代には読んでるんですけど、それよりも10年前にちょうど、オーウェルの『1984年』という作品が設定している年にアトウッドが、 オーウェルの作品の女性版を書こうということで書き始めたわけですよね。だから私はオーウェルが全体主義的なディストピアの社会を書いた『1984年』の国で、しかもアトウッドが当時、ちょうどルーマニアの近辺まで行ってたんです。ルーマニアって当時、リプロダクティブ・ライツが制限されていた時代なんですね。オーウェルの女性版を書くんだったらどういうものだろうって想像を巡らしていた時に生み出された作品と思うと私としてはこれは運命じゃないかと思ったんですよね」と自身の体験とオーウェル、アトウッドに触れながら初めて作品に触れたときのことを明かし、当時のアトウッドが「侍女の物語」をアメリカでもカナダでもなく、西ベルリンで書いていたことが重要なのだと語ってくれた。

 鴻巣も「今小川さんがおっしゃったことですけど、当時のベルリンは東西に分断されていたわけですね。西ベルリンという東側の壁に囲まれながらもアトウッドは書いたんですね」と続けた。また「侍女の物語」の中ではオーウェルの「1984年」のオマージュも出てくるということで、まだ読んだことが無い方にとっては新しい発見もあるはず、と別の視点での作品の楽しみ方を教えてくれた。そして小川からは「今に限らず、この作品の再ブームというのは常に起きているんですね。アトウッドはアメリカが民主主義国家でなくなるというのを既に見切っていたんですよね」とアトウッドの鋭い観察眼を指摘し、「私、英語学科というところにいながら、こういうことを言うのもなんですけど……」と前置きし、「英語がすべての言語を代表する、という考え方は慎重に考えなければならないんですね」と話し、鴻巣も同意の姿勢を見せた。

 二人のトークが盛り上がるにつれ、会場の観客も前のめりに聞き入る。そして話は「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」ファイナルシーズンへと変わり、鴻巣は今までドラマを見ないようにしていたそうで、それはドラマ版が優れた作品であるがゆえに「誓願」の翻訳への影響が出ないよう、あえて見ないことを選択していたという。そして翻訳が終わりファイナルシーズンを観てみると、「こうなっていたのか! ここがこう繋がるのかと発見がありました。ファイナルシーズンというのは「侍女の物語」と「誓願」の間の、巨大な行間を読む作業なんですね」と小説を知っているからこそ楽しめた点も多かったと明かしてくれた。そして小川はドラマならではの部分がしっかり描けていると力強く語り、「多様性というのは小説では書かれたかったけど、ドラマではすごく重要なポイントになるということだったんだなと思いました」と熱をもって語ってくれた。

 さらに、二人への質問も寄せられており、「小説からドラマにするときさまざまな変更がなされているかと思いますが、お二人がドラマを見て驚いた、あるいはなるほど!と思ったアレンジなどあれば教えてください」という質問に、鴻巣は「これって言ってしまっても良いのかなと思うのですが、12人ほどの女性が、巻き添えのような形で呼び出されるんですよね。これは『オデュッセイア』ですね。このオマージュはアトウッドさんが関わっているからこそ見られたのかもしれないですが、すごくアトウッドさんっぽいなぁ~と思いましたね。男性が情欲を催して、女性に危害を加えてしまうのは、実は女性のほうから誘惑があったから、というファムファタール理論(=惑わしたほうが悪い)という考え方ですよね。それがすごく象徴的に現れているのが『オデュッセイア』なんですが、すごくオマージュがあるなと思いました」と文学者ならではの視点で語り、小川は「ジューンの顔の怖さですね」とシンプルに回答。これには会場からも笑いがこぼれる。続けて「戦ってる顔がお面みたいになってるんですよね。戦う女ってこんな顔になっちゃうんだ、気をつけなきゃって(笑)」と小説から想像できなかった部分があったと語ってくれた。

 「なかなかしんどい内容の作品で、面白いけど人に勧める難しさもあります。初読/初見の人が希望を見出せるようなお勧めポイント、お勧めの仕方などありますか?」と質問が続くと、鴻巣は「しんどいんですけど、もっとしんどい現実もありますよね。ディストピアに陥らないよう、いろんなアンテナは張っておかないといけないので、ほっこりするお話もいいんですけど、たまにはこういう作品も良いのでは、と思いますね」と語り、小川「しんどさの原因ってなんでしょう?とご自身の中で探ってみると良いかもしれませんね」と語りかけ、続けて「人間って保身を取るのか、正義を取るのか、というのは普遍的な命題があると思います。所属している組織の中で話だったりとか、なのでしんどくても最後まで読んでみてほしいですね」と繋げた。

 そして最後に「予言的作品とも言われますが、ギレアドという予言を現実にしないためにどうすればいいのか。アトウッド氏はなんらか提言されてますか? お二人はどうお考えですか?」と質問には、鴻巣は「ご本人は予言していないって言っていますが、先ほども話しましたが、知の根幹にかかわることに気をつけないといけないですよ」と語り、「今はAIの発達がすさまじいので一番翻訳家が窮地に立たされているんですが、母国語とは違う異言語を持っていてほしい、というのは思っています。これからAIがどんどん発展するし、英語なんて習わなくてもいいとなるかもしれない。ですが、異言語って圧倒的な他者なんですよね。どうにもならない他者なんです。AIでコミュニケーションが進んでしまうのは怖いと思います。AIによって異言語、他者の言葉がたやすく理解できてしまう、と思ってしまうのは良くなくて、AI同士のコミュニケーションは齟齬が生まれてしまったり、浅いところの交流になったりとなってしまう可能性があるので、多様性や他者への理解力を狭めてしまうのではと世界一窮地に立たされている翻訳者としての考えです」とコミュニケーションの大切さ、重要さに触れ、小川からは「自分がすごい追い詰められたとしても信念を曲げない、ということでしかディストピアのような社会に抵抗できないと思うんです。また私たちが読んでいるニュースの中にも全体主義的なものは実はあるんですよね。また鴻巣さんの話にも繋がりますが、私はこの前甥と一緒にイギリスに行ったときに、翻訳機をあえて使わないという信念を持っていたんですね。それは甥が他者とのコミュニケーションを簡単にしてほしくない、言葉は他者と出会う一つの窓口と思ったんです」と自身のエピソードを交えながら語ってくれた。

© 2025 MGM Television Entertainment Inc. and Relentless Productions, LLC. All Rights Reserved. THE HANDMAID’S TALE is a trademark of Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

 こうして二人のトークを経て、最後に会場の観客に「侍女の物語」は観てから読むか、読んでから観るかということを問いかけてみると、読んでから観るという人が多い結果に。これを受けて、鴻巣から「もうお読みになっている方は、ドラマ版の見事な『誓願』へのブリッジの部分を楽しんでいただけると思います」とドラマ版、それから「誓願」をアピールし、小川からは「もしかしたら読んでから観たほうがすんなり入ってくるかもしれないですが、観てから読むとどんな読み方が出来たのかなって思いますね」と既に読んでから観た立場として、観てから読むことへの関心を示してくれた。イベントではドラマ、小説といった作品に限らず、作品が描かれた歴史的な背景や現代に通じる部分など様々な視点で話が盛り上がり、大盛況のうちに幕を閉じた。

「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」ファイナルシーズン 配信情報

© 2025 MGM Television Entertainment Inc. and Relentless Productions, LLC. All Rights Reserved. THE HANDMAID’S TALE is a trademark of Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

 Huluにて独占配信中(※ 毎週金曜に1話ずつ配信)

作品情報
 カナダ文学界の巨匠マーガレット・アトウッドのディストピア小説を原作に米国Huluがドラマ化。2017年に米国Huluにて配信が開始されるとすぐに話題となり多くのメディアから賞賛を浴び、第69回エミー賞では作品賞を含む主要5部門を独占、さらに2018年ゴールデングローブ賞TVシリーズ/ドラマ部門にて作品賞を含む主要2部門に受賞し、賞レースを席巻した超話題作。
 環境汚染が原因で少子化が深刻化した世界、クーデターにより誕生した独裁国家ギレアドでは妊娠ができる健康な身体を持つ女性は、家族、仕事、財産、名前、そして人権をも突然奪われ<子どもを産むための道具=侍女>として上流階級の夫妻のもとに送り込まれることが法律で決定している。その恐ろしく異様な国で、侍女として仕えることになった主人公オブフレッド(エリザベス・モス)。侍女たちが行動を極限まで制限された監視下の世界で、どのように今を“生き抜く”か、オブフレッドの目線を通して力強く描く。
 女性を“侍女”として扱ったショッキングなテーマは世界に衝撃を与えるとともに、宗教や圧政で女性の人権が侵害されている過去や現在への批判、そして未来への警鐘を含み、決して自分たちと無関係の出来事ではない、と全世界で物議を醸し出した。

 原作:マーガレット・アトウッド 「侍女の物語」(早川書房)
 出演:エリザベス・モス、イヴォンヌ・ストラホフスキー、ブラッドリー・ウィットフォード、マックス・ミンゲラ、アン・ダウド、O・T・ファグベンル、サミラ・ワイリー、マデリーン・ブリューワー、アマンダ・ブルジェル、サム・ジェーガー、エヴァー・キャライン、ジョシュ・チャールズ

Huluとは

 映画・ドラマ・アニメ・バラエティなどを楽しめるオンライン動画配信サービスです。
 【見放題】では月額定額料金でいつでも、どこでも、140,000本以上の作品が見放題。Huluが製作または独占的に配信開始する映画、ドラマ、バラエティ作品などをお届けする「Huluオリジナル」を筆頭に、テレビで放送中の人気番組の見逃し配信や、音楽ライブの配信などラインナップも幅広くHuluでしか観られない独占コンテンツも豊富に取り揃えています。 また、日米英のニュース、スポーツなどのライブ配信も充実しています。
 さらに【レンタル/購入】では劇場公開から間もない最新映画等に加え人気の音楽イベントや舞台などのライブ配信も提供。月額料金を支払う事なくどなたでも都度課金でご利用いただけます。また、Huluはどの動画もインターネットに接続したテレビ、パソコン、スマートフォン、タブレットなどで視聴可能です。
 ※ 月額定額料金は1,026円(税込)となります。ただし、iTunes Store決済の場合には1,050円(税込)となります。

 https://www.hulu.jp/(外部サイト)

(オフィシャル素材提供)

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