イベント・舞台挨拶

『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』Filmarks試写会

© Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.

 9月2日(火)、都内にて『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』Filmarks試写会が開催され、アフタートークに真利子哲也監督が登壇。聞き手は映画ライターの月永理絵が務めた。

 まず月永から、監督の前作『宮本から君へ』(19)との“不思議なつながり”について言及が。「今作は西島さん演じる賢治が、“父親”になり切れていなかったところから、どうやったら父親になれるのかというある種の父性に取り憑かれていて、その欲望が高まっていくほどに、肝心の子どもや妻に対する関心が希薄化していくというストーリーだと捉えました。前作の『宮本から君へ』は、一見『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』とは全くストーリーも登場人物も違いますが、ある意味で、ひとりの男が父親になるまでの話だということを思い出しました」とコメント。これまで『ディストラクション・ベイビーズ』(16)、『宮本から君へ』で、いわゆる「男の暴力性」をテーマにしてきた真利子監督ならではの新たな主題=父性というテーマへの着目を明かした。

 それを受けて、真利子監督は家族の在り方を描こうと思った経緯をこう振り返る。「『宮本から君へ』では、新井英樹さんの原作漫画から時間軸を変更したり、宮本の父親や加害者の父親の視点も盛り込みました。それを受けてか、フランスで公開された時のタイトルが『Becoming Father』 だったんです」と製作当時を述懐。続けて「そしてこれは奇跡的なことなんですが」と前置きした上で、『宮本から君へ』で(蒼井 優演じる)靖子が出産するシーンの撮影中に自身の子どもが生まれたエピソードを披露。「そこから視野が広がり、家族の在り方に目が向いたのかもしれません。実際に、映画を作っている時の社会状況や制作過程は、少なからずいつもシンクロしていると思います」と自己分析した。

 そうして賢治が父性に取り憑かれ、袋小路に陥った末に、自身に下す“ある選択”について、月永は「愚かな選択という見方もできますよね」とコメント。それに対し、真利子監督は「西島さんとも“きっと誰も望んでいない選択だよね”という話をしました。でも賢治は、その選択が家族への愛情表現なんだと思っているんですよね。家族の大黒柱であらねばならないという意地と、一方で不自由さも抱えている。それが一緒にいるジェーンのストレスになっているんです」と、キャラクターに込めた思いを語った。

© Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.

 一方のジェーンについて、月永から「自ら壊してしまった人形を直すシーンがありますが、彼女はどんどん袋小路に陥っていく賢治とは違って、家族を修復しようとしています。この人形劇というのは、彼女の母親や妻としての振る舞いとも結びついているのでしょうか」と振られると、「ジェーンは人形劇に向けている情熱はすごいものがありますが、それを家族に対してはなかなか出せないでいたわけです。そうして自分は我慢して子育てに一生懸命になっていたのに、賢治の些細な振る舞いに少しずつ不満が蓄積していく。その結果、脚本にはなかったのですが、ジェーンが賢治に食らいついて感情を露わにするシーンを現場で追加しました。ジェーンが全てをぶつけ、家族を修復しようとする姿を撮り上げたいと思ったんです。ルンメイさんのお芝居が素晴らしかったですね」と振り返る。

© Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.

 また、日常的に英語で会話する賢治とジェーンだが、息子が誘拐され、図らずも夫婦2人だけの時間ができた途端、お互いへの不満が続々と噴出。2人の会話劇を通して、夫婦がいかにすれ違っていたかが浮き彫りになっていく。特筆すべきは、お互いが母国語である日本語と中国語を激しくぶつけ合う口論シーンだ。マスコミ試写でも同シーンに着目する感想が多く、真利子監督はメディア取材でも「これまでは肉体と肉体がぶつかり合う直接的な暴力を描いてきましたが、今回は“ことばの応酬”というものを描きたかった」と公言している。月永とのトークでも「賢治は掃除の話などなんてことないことを言っているのに対し、ジェーンは夫婦の関係性の話をしている。そこに賢治の在り方、ジェーンの在り方がある。ただ口論するとはいえ、大事にしていたのは、相手を貶めようとしているのではなく、お互いを思い合っているからこそ、傷つけたくないからこそ、夫婦の“秘密”には触れない。どちらがいい悪いではなく、そこで生じるズレのようなものを描きたいと思いました」。
 トーク終盤には観客からのQ&Aも行われ、日本とアメリカの撮影システムの違いや、モチーフとして廃墟を選んだ理由などにも話が及び、大盛況の中試写会は終了した。

© Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.
公開表記

 配給:東映
 9.12 fri TOHOシネマズ シャンテほか 全国ロードショー

(オフィシャル素材提供)

関連作品

楽天ブックス
¥3,801 (2025/08/30 13:46時点 | 楽天市場調べ)
スポンサーリンク
シェアする
サイト 管理者をフォローする
Translate »
タイトルとURLをコピーしました