
登壇者:ライムスター宇多丸(ラッパー/ラジオパーソナリティー)、河野真太郎(専修⼤学教授)
MC:奥浜レイラ
映画『⽯炭の値打ち』が11⽉14⽇(⾦)よりBunkamuraル・シネマ 渋⾕宮下ほか全国の劇場にて順次公開予定。
この度、本作の劇場初公開を記念して、10⽉5⽇(⽇)の先⾏上映会の上映後に、ライムスター宇多丸、河野真太郎が登壇した。
のちに『⻨の穂をゆらす⾵』(06)、『わたしは、ダニエル・ブレイク』(16)でパルムドールを2度受賞するイギリスの名匠ケン・ローチが、1977年にBBCのドラマ枠「プレイ・フォー・トゥデイ」のために制作したテレビ映画「⽯炭の値打ち(The Price of Coal)」は、⼆部構成の社会派ドラマ。1969年に公開された映画『ケス』に続く、脚本家バリー・ハインズとのタッグ作品で、英国社会の象徴でもあった炭鉱という労働現場を舞台に、皇太⼦の視察訪問に右往左往する⼈々をコメディ調で描く第⼀部と、⼀転してハードでシリアスな第⼆部の⼆部構成で、炭鉱の⼈々の暮らしと⼈⽣がじっくりと描き出される。
はみ出し者映画の特集イベント「サム・フリークス Vol.27」で上映された際には、満席となり上映終了後には拍⼿喝采に包まれた。⽇本では未ソフト化・未配信のため⾒逃されていたケン・ローチ監督の最⾼傑作の⼀つである⼤作『⽯炭の値打ち』が遂に劇場初公開を果たす。
イベントではまずは、ケン・ローチ監督から届いた特別メッセージが上映された。
「50年前に作られた映画が新しい観客に届くのは本当に私たちにとって喜びです。劇場に来てくれてありがとうございます。この映画は脚本家バリー・ハインズ、プロデューサーのトニー・ガーネットそして私との会話から始まりました。『ケス』という映画で⼀緒に仕事をしていてそれがうまくいったので、また⼀緒にやりたいと思っていました。私たちは鉱夫の⽣活の⼆つの側⾯、喜劇と悲劇という⼆⾯性を映画で描こうと思いました。炭鉱労働者の⽣活について考えるときに頭に浮かぶのは、闘争・強さ・笑いという3つの⾔葉だからです」と当時を回顧しつつ、「今、私が伝えたいことがあります。私たちの国は、気候変動や貧困、不安に直⾯しています。多くの搾取された⼈々は⾷卓で⾷事するためだけに、2つも3つも仕事を掛け持ちしています。さらに私たちは今も戦争や災害を⽬の当たりにしています。だからこそ鉱夫たちの闘争、強さを忘れずに、連帯の重要さを再認識して継承していかなければならないということです。最善を尽くしましょう」というケン・ローチ監督からの⼒強いメッセージに観客から拍⼿が沸き起こった。
ケン・ローチ監督からのメッセージに会場が興奮冷めやらぬまま、当⽇ゲストのライムスター宇多丸、河野真太郎が登壇。宇多丸は開⼝⼀番「今の監督からのコメントに感動しちゃいました。やはり本気だなと。50年前の作品だけど本気だわというのが伝わってきましたね」と話すと、河野は「私⾃⾝はすでに観ていたが、このように素晴らしい作品が、ずっと⽇本で観られない状態だったのが残念だなと思っていたので、今回公開するということでびっくりしました」とまず感想を述べた。
宇多丸は続けて「最新作(「The Old Oak」)が公開されていない状況の中ですが、その前に(この77年の作品を)観ると、集⼤成というか全部⼊りじゃんという感じがしますよね」と話すと、河野は「まさにですね。バリー・ハインズとのタッグという意味でも、少しウェルメイドという感じもあって、ハインズ味みたいなところは確実に⼊っていて集⼤成的なところがありますね。あとは時代ですよね。1977年というこのタイミング、サッチャリズム前夜の瞬間を捉えているというところで⾒るのがすごく重要だなと思っている」と歴史的な⽂脈で語ることができる本作の魅⼒について述べた。

さらに宇多丸からは「観ながら、⾃分たちのこの社会みたいなものが50年前のイギリス映画に照らされちゃっていることを恥ずかしくも怒りを持ちながら⾒てしまう感じがありました」という視点からも感想が述べられると、河野も共感し「遠いイギリスの昔の話として観ていてはダメだなとつくづく思いました。70年代から連続している、これがずっと続いているということは伝えたいですよね」と付け加えた。
この⽇は観客からの質疑応答の時間も設けられ、積極的に質問が挙がるなど盛り上がった。
イベントの最後に、宇多丸は「ケン・ローチ作品の中で、地味めではあるが、だからこそ切っ先が鋭い。観たらちゃんと⾯⽩いケン・ローチ作品、やはり単純に映画として⾯⽩いということは、映画ファンは観たら分かるからということで、新作の公開にも繋がるかもしれないので、ぜひ拡げてください」と熱弁。
河野も「映画というかドラマなので、その⽂脈で⾒るのも重要だし、今⽇申し上げたように歴史的な⽂脈で⾒るのも重要だと思います。作品として鋭利で、(ケン・ローチ監督の)怒りの凄さにやられました。淡々と描いているようなのですが、画⾯は怒っている。改めて今回の作品を観て、他のケン・ローチ監督作品の同じような怒りのあり⽅が逆照射されてすごく⾝に沁みたので、オススメです。ぜひ拡げていただけると、新作も⾒られるようになると思うので、ぜひ盛り上げていただきたいです」と観客に呼びかけた。

『石炭の値打ち』は、11⽉14⽇(⾦)よりBunkamura ル・シネマ渋⾕宮下ほか全国の劇場にて順次公開予定。
公開表記
配給:スモモ
11月24日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷 ほか全国順次公開