
『ケイコ 目を澄ませて』『夜明けのすべて』など作品を発表するごとに国内映画賞を席巻し、本作で第78回ロカルノ国際映画祭インターナショナル・コンペティション部門にて最高賞である金豹賞&ヤング審査員賞特別賞をW受賞した、日本映画界を代表する存在である三宅 唱監督最新作『旅と日々』(原作:つげ義春 『海辺の叙景』『ほんやら洞のべんさん』)が11月7日(金)より全国ロードショーとなる。また、スペイン語圏最大の国際映画祭である第73回サン・セバスチャン国際映画祭にて、多様で驚くべき映画・新しいアングルやフォーマットに挑戦する映画を上映するサバルテギ・タバカレラ部門へ正式出品されたほか、アジア最大級の国際映画祭である第30回釜山国際映画祭のコンペティション部門にも正式出品され、世界中の映画祭から注目されている。ほか20以上の海外映画祭での上映や、US、カナダ、フランス、韓国、中国、台湾、香港、インドネシア、ポルトガル、ギリシャでは配給が決まっており、世界各国からの熱い視線が注がれている。先日行われたジャパンプレミア上映後には「傑作」「度肝を抜かれる」「何度でも観たい!」とSNSでも熱いコメントが相次いでおり、公開への期待が高まっている。
この度、開催中の東京国際映画祭交流ラウンジにて、三宅 唱監督×リティ・パン監督の対談が実現!
8月に行われた第78回ロカルノ国際映画祭にて、本作が日本映画としては18年振りとなる最高賞<金豹賞>を受賞した際に審査員長を務めたリティ・パン監督。カンボジア出身のドキュメンタリーの名手であるリティ監督は、授賞式では「ひとつひとつの場面が深い感情を呼び起こし、胸を打つ体験を提供してくれる」と本作を絶賛し、熱く固い握手を三宅監督と交わしていた。そんな記憶も新しいが、この度約2ヵ月ぶりに2人が再会を果たし、ロカルノでは叶わなかった対談というかたちで、互いの映画を観た感想や映画づくりへの思いについて語り合った。
◆登場人物それぞれが光り輝くような、恩寵が降りてくるような瞬間がある
冒頭の挨拶の後、三宅監督が「実は映画祭の審査員団から公式に出されているコメント以上のことはあまり聞けていないので、オフィシャルじゃないこと、パーソナルなことを今日は聞けたらうれしいと思っています」と語ると、リティ・パン監督は、「審査でどんな話をしたかというのは機密事項です。審査員の誰もがこの作品をグランプリに推し、満場一致ではあったので、あまり討論ということにはならなかったのですが」と明かしながら、『旅と日々』についての感想を述べた。「圧倒されましたね。私は映画をあまり観ないタイプの監督なんですが、この作品は興味をもって観ました。人間の孤独と、人間同士が求め合っている姿を描いていますよね。そして自己探求についても。とても平凡なことが起こっているように見えるけれども、人間の人生においてとても重要な時間を過ごしているという気がしました。とても力強い作品だと思いました。私が若い頃、アフリカで撮影していたときに知ったドゴン族の言葉で‟神の恩寵”を意味する単語を思い出しました。なぜなら、三宅監督の作品の中では登場人物それぞれが光り輝くような、何か恩寵が降りてくるような瞬間があるからです。映画監督は、その瞬間をカメラをまわしてキャッチするのが仕事なのです。日常のどんなレベルでも、そうした美しい瞬間が人間にはあるんです」と絶賛。続けて、『旅と日々』の日本公開が来週11月7日(金)に迫っていることを聞き、「ぜひ皆さん、映画館に駆けつけてください。口コミでその素晴らしさを伝えていただきたい。とても美しい作品で、映画監督としてあらゆるレベルでいい仕事をしていると思います。例えば、編集、照明、俳優の演技、ショットの間も。そして美しい自然も観られます。素晴らしいものが凝縮されている作品です」と観客に呼びかけた。
◆“撮らねばならない”という思いを思い出しました
リティ・パン監督からの熱い賛辞を受け、三宅監督が「僕だけ幸せな時間になっていませんか」とこぼすと、会場からは笑いが起こった。続けて「頂いたコメントどれもうれしく思います。なかでも仕事をする人間、職業について描かれている点は、僕も映画を観るときに注目しているポイントなので、共通点だと思いました」と三宅監督。さらに東京国際映画祭コンペティション部門に出品されているリティ・パン監督の新作『私たちは森の果実』を観た感想を述べた。「映画を観て思い出したのは、自分の祖父の手です。祖父は北海道でメロン農家を営んでいましたが、時には炭鉱でも働いていました。彼の手は土や木や果物などを触った手で、僕の手なんかより大きく、ごつごつとしていました。洗っても落ちない汚れが手の歴史となり、手そのものになっていた。その手を自分が撮りたい、撮らなきゃと思っているうちに亡くなってしまったんです。でも、その手を見たときに感じた“撮らねばならない”という思いを、今回のリティさんの作品で思い出しました」と語った。
リティ・パン監督はその言葉を受けて、「三宅監督と私には共通項があるんだなと、非常に謙虚な言い方で言わせていただきます。その共通項があるからこそ、三宅監督の映画はオーセンティックなものになっている。監督は、人々がどのように共に生きているか、人物たちがどのような瞬間を生きているかを、フィクションでありながらも仕草や暮らし、ディテールを通して大切に描いている。そのため、“手”というのももちろん大切ですよね」と応えた。

◆“今しかできないもの”に立ち会っているという感覚
三宅監督の映画作りへの興味がとまらないリティ・パン監督が「三宅監督の作品を観ていると、すごく人間を観察しているなと思うんです。どのように社会が変わって、それに対しどのように人間が対応しているかについてのリアリティがあります。そのようなシナリオやアイデアはどうやって生まれてくるんですか?」と質問を投げかけると、三宅監督は少し考えながら、「まず今回の『旅と日々』に関しては、つげ義春さんという素晴らしい漫画家の原作マンガがあります。それが大きな土台になっています。ただ、映画を作るときには俳優と仕事をしますよね。彼ら彼女らには“今”撮らなければ、失われていくものがあります。人間ですから、10年後にはもう“2025年の彼ら・彼女ら”を撮ることはできない。そういう“今しかできないもの”に立ち会っているという感覚が、ベースにあるかなと思います」と語った。
両監督はその後も会場からのQ&Aに丁寧に応じ、創作の背景や映画への思いを語り合った。互いの作品への敬意と映画という表現への深い洞察が交差する、終始あたたかく豊かな時間となった。
公開表記
配給:ビターズ・エンド
11月7日(金) TOHOシネマズ シャンテ、テアトル新宿ほか全国ロードショー






