インタビュー

『旅の贈りもの―0:00発』多岐川華子 単独インタビュー

©「大阪発0:00」製作委員会

 0時00分に、大阪駅から発車する3両編成の不思議な列車。どこに行くとも知れないその列車に乗り込んだのは、それぞれに悩みを抱えた訳ありの男女5人。彼らがたどり着いたのは、「風町」という名の小さな港町だった――。幻の名列車がいざなう心温まる旅を描いた『旅の贈りもの―0:00発』。疎外感を抱え、生きることに絶望している少女という難役で、映画デビューを果たした多岐川華子が、初めて尽くしだった女優経験についてたっぷり語ってくれた。

多岐川華子

 1988年神奈川県生まれ。母は女優・多岐川裕美。持ち前の愛らしい笑顔と、はつらつとした華やかな雰囲気が関係者の目にとまり、04年にCMデビュー。05年には、「ロッテガーナミルクチョコレート」や「サンガリア おいしいお茶」「興和 新ウナコーワクール」ほか数多くのCMに出演。一方、オリジナルDVD「Love and Light ~ラブ アンド ライト~」(05)や「Pure Eyes」(05)の発売、写真集の出版も相次ぎ、期待の大型新人として一躍注目を集めている。現在も「早稲田スクール」「ダイニチ工業 ブルーヒーター」「メディアプレス kyusyu eyes STYLE CARD」の3本のCMに出演、バラエティー番組やグラビアでの活躍も続いており、今後の活躍が一層期待される。
女優デビューを果たした本作では、初演技とは思えない堂々とした立ち振る舞いで、疎外感を抱える女子高校生役をみずみずしく演じきった。

今回は映画初主演ということですが、シナリオを読んでどう思われましたか?

 0時00分に出発する行き先不明の列車ということで、どんな話なんだろうとドキドキしながら読みましたが、途中で感動して泣いてしまうこともありました。実際にロケに出るまでは、本当に自分が出演するのか実感がわかなくて、撮影現場で「スタート!」という声を聞いて初めて、“わたし、本当にやるんだ!”と実感しました(笑)。

今回は、役名も同じ“華子”ですね。

 わたしをキャスティングした後、同じ名前にしてくださったみたいで、すごくやりやすかったです。

華子さんは明るい女の子という印象がありますが、今回は内にこもった子の役で、そういった意味でやりにくくはなかったですか?

 でもわたし、暗いということは全くないんですけど、キャーキャー騒ぐタイプでもないので、どちらかというと、にらんで“ふんっ!”としている方が、演じるのは楽だったかなと思いました。逆に、テンションの高い女の子の方が難しい気がしますね。

では今回、難しさを感じた点は?

 台詞がほとんどない状態でそこに居なくてはいけなかったことです。話したとしてもひと言だったりして、長い台詞よりもかえって難しいと思いましたね。初めて演技をするということもありましたけど、ひと言の方が不自然になってしまうことはあると思いましたので、今回は本当に勉強になりました。

結構みんなが和気あいあいとしている中で、一人すねているといったシーンが多かったですね。

 さみしー(笑)! 周りは大物の先輩たちばかりで、最初は“怖いのかも……”とすごく不安だったんですけど、現場ではとても優しくしていただきました。だからこそ、最後までやれた気がします。

役作りはどのようにしていったのですか?

 ロケに行く前、監督がわたしの出ているシーン全部をリハーサルしてくださいましたので、そのときに“華子”はどういう子なのか、たくさん話し合いました。ですから、撮影現場で分からなくなったことはあまりなかったですね。

“華子”はどういう子だと思いましたか?

 友達もなく、家族ともうまくいっていないですし、すごく寂しかったはずなのに、「寂しい」と認めるのが悔しい子なんでしょうね。生きていても何も楽しいことがなく、だったら“死んだ方が楽かも”と思って、集団自殺に参加する決心をしたのかもしれません。でも、わたし自身はそこまでの気持ちになったことがありませんから、彼女の立場だったらどんな思いがするんだろうと、すごく考えました。

かわいい女の子なのに、友達も彼氏もいないのはどうしてなのでしょう?

 自分で殻を作っちゃっているからですよね、きっと。

もしも、ご自分の周囲にそういう子がいたら、どう接すると思いますか?

 どうするでしょうね……。でもきっと、わたしが心開いても、その子が開いてくれなかったら寂しいですし、あんなにらまれ方をしたら、どうしてもカチンときますよね? 残念ですが、かかわるのは難しいかもしれません。

優しいおばあさんに対しても冷たい言葉を投げつけていましたね。

 あのシーン、すごくつらかったですね~。わたし、おじいちゃんおばあちゃんが大好きなので、お年を召した方に冷たいことを言うのがホントに嫌で、そういうことをする心情が理解できなかったから、台詞を言いながら“ごめんなさい!”と心の中で謝っていました。

華子さんは都会出身ですが、地方の町でのロケはいかがでしたか?

 すごく楽しかったです! あんまり見たことのない景色ばかりでしたので。

今回のロケ地は1ヵ所じゃなかったんですね?

 12ヵ所くらい回りました。どこに行っても“いい所だなぁ、きれいだなぁ、料理もおいしいな”と感激したんですけど、これだけ行ってると、自分が今どこに居るのか分からなくなっちゃって、慌しかったですね。

撮影の日程が結構キツかったのですか?

 そうですね。その日の撮影が夜に終わったと思ったら、次の朝には荷物をまとめて移動し、別の場所で撮影……という感じでした。でも、最後のあたりは大崎下島にちょっと長く居られたのでよかったです。

気に入った場所はありましたか?

 大崎下島はまだ、バスが通っていたりしたんですけど、真鍋島は本当に『となりのトトロ』の世界に入り込んだかのような錯覚を覚える、すてきな場所でした。自然が豊かで、わたしにとっては何もかもが初めての体験でしたね。そこで暮らしているお年寄りの方たちとのふれあいも、すごく楽しかったです。皆さんにはエキストラとして出演していただきました。本当に穏やかで優しい方たちばかりで、普通に道を歩いていても「こんにちは」とあいさつしてくださいますし、映画で写されているのはあの島の現実の風景なんですよ。道に面した所に椅子を置いて、楽しそうに話していらっしゃったりとか、皆さん本当に明るくて、心の底から老後を楽しんでいる感じでしたね。あんな風に老後を迎えられたらいいなと、あこがれるくらいでした。

劇中には、地元の新鮮な食材を生かした料理も出てきましたね。実際に味わうことはできたのですか?

 それが、撮影後、スタッフさんたちが食べたみたいで、結局わたしは食べられなかったんですよ(涙)。食べたかったな~と思って(笑)。「新鮮でおいしかった!」と言うのを聞いて、ホントにうらやましかったです。

ロケ地で驚いたこと、新鮮だったことはありますか?

 東京で普通に過ごしていたら、駅に着けば何気なくコンビニに行ったりするじゃないですか? 地方ではコンビニが1軒もなかったり、スーパーもあまりなかったりしたので驚きました。地元の方たちにとってはそれが普通なんだと思いますけど、“お買い物はどうしているんだろう?”と心配になるくらい何もなくて、でも、そういう方がかえってコミュニケーションの機会が増えて、みんなで助け合いながら仲良く暮らせるのかもしれない、と考えたりしました。それと、生活が規則正しいですね。この時間になったら寝る、というのが当たり前になっていて、そういう生活ってもちろん、健康にもいいと思いますし、とても新鮮に感じました。

今回は、歌手の徳永英明さんも映画初出演でしたね。初出演者同士ということで、話はされましたか?

 徳永さんは、本当に優しくフレンドリーな方でした。アーティストの方たちってあまりお会いしたことがなかったので、“どういう方なんだろう? 静かな方なのかな”と想像していたんですけど、「最近の10代はどうなの? どんなことして遊んでるの? 僕が高校生のときはね……」とか、「相手が24歳くらいからだったら、フツーにしゃべれるんだけどな~(笑)」とか、話がすごく面白くて楽しかったですね。

一緒の出演シーンが多かった“翔太くん”はいかがでしたか?

 わたしより精神年齢が高いみたいで(笑)、すごくしっかりしていて、見ていて逆に“すごいな~”と思っちゃいました。

あの“泣き”もすごかったですね。

 すごかったですね~。よくあんなにいきなり涙が出るなと思って。

華子さんも泣くシーンがありましたね。

 わたし、リハーサルの方が涙が出て、そちらを使っていただきたかったです(笑)。どうもわたし、1回目に強いらしくて……。

バラエティーだったら一発のこともあるのでは?

 バラエティーでは、誰かの役をやるわけじゃなくて、自分自身を出さなくちゃいけませんよね? でも、わたしはまだ、自分自身が固まっていないので、かえって難しいんですよ。わたしはどういう人なんだろう、どういうキャラなんだろうと、自分でもまだよく分からないので、誰かを演じている方が楽な気がしますね。

“華子”はずっとケータイ・メールをやっていましたが、華子さん自身はどうですか?

 わたしはメールが来たら返しますし、用があれば送りますけど、結局電話の方が多くなっちゃいます。わたしのケータイ、打ちにくいんですよ。だから、「あぁー、もう電話しちゃえ!」みたいな(笑)。そういう理由もあって、あんまり使わないですね。

“華子”はケータイをすごくかわいくデコレートしていましたね。華子さんのアイデアもあるのですか?

 あれは監督が、「女子高生が持っていそうなケータイにして」って言ったらしく、そしたら大っきいキラキラがいっぱい付いてきましたね(笑)。「あるある」みたいな(笑)。わたしも以前はやっていたんですけど、最近はデジカメをキラキラさせるのにハマッてしまって、ケータイはホント、おっさんみたいです(笑)。サラリーマンのケータイみたいにシンプルで、色も白なんです。

今回は設定が面白く、0時00分にどこに行くのか分からない列車で出発しますよね。華子さんは乗ってみたいと思いますか?

 “どこに連れてってくれるんだろう?”と考えたら、惹かれますね。とんでもない所に連れていかれるのか、現実的な場所なのか分かりませんが、独りだと怖いですから、友達か家族を誘って乗っちゃうと思います。

どういう所に着いたらいいと思いますか?

 現実だったらあり得ないような場所です。キラキラ輝いているような場所に行けたら、楽しそうだなと思うんですけど(笑)。でも、現実だったらやっぱり、島のような所が楽しいのかな。

あの世に連れていかれたら嫌ですね(笑)。

 嫌~(笑)! でも、実際にあったら、そんなことも考えちゃうかも。

一人旅は出来ますか?

 一人でお買い物はよくするんですけど、旅となると、まだ心細くて出来ないかな。

もしも今、時間があって旅に行けるとしたら?

 近場で、都会とは景色の違う場所を探して、行ってみたいです。

海外はどうですか?

 わたし、海外が苦手で、日本が大好きっ子なんです(笑)。和食も大好きですし。この映画の撮影中に出していただいたご飯はいつも和食で、すごくおいしかったです! “和食が好きで生まれてきてよかった!”と思いました(笑)。

今回の撮影で思い出深かったシーンは?

 崖に行って、太平シローさんが演じている若林さんの自殺を止めようとするシーンですね。崖を登ること自体が大変で、道じゃないような所をみんなで登り降りを繰り返したんですよ。すごく高くて、下をのぞくとゾクゾクッとしました。でも、夕陽がきれいで感動もしましたし、あの崖ではいろいろなことがありましたね。わたしの台詞もあのシーンが一番長くて、前日“こんなに覚えられるかな”と不安だったことも覚えていますし、あのシーンにはたくさんの思い出がつまっています。

車掌さんが最後、「皆さんはこの旅でいいものを見つけられたでしょうか?」と聞いたとき、“華子”はこっくりとうなづいていましたが、華子さんは撮影を通して、何か見つかりましたか?

 見つかりました。ロケに行く前のわたしは、いつもバタバタしていて余裕がありませんでした。撮影中ももちろん、精神的な余裕はあまりありませんでしたけど、景色を眺めたり、地元の方たちと話したりしたことで、自分の中で何かがゆっくりと変化して、ちゃんと周囲を落ち着いて見られるようになった気がしています。

完成した映画をご覧になった感想は?

まずは、自分の演技に対する後悔が半端じゃなかったですね。だから逆に、次に演技をする機会があったら、自分で見て恥ずかしくないような演技が出来るといいなという欲が出てきました。全体的には、実際見るのと変わらないくらい景色が美しく写っていましたし、おじいちゃんおばあちゃんたちのあったかさが、スクリーンを通しても伝わってくる気がしました。かけがえのない体験が出来た島の思い出がよみがえってきて、言葉には出来ないような感動を覚えましたね。

お母様(註:女優の多岐川裕美さん)は長い間、女優になることを反対されていたそうですね?

 そうです。わたし、すごく飽きっぽいんですよ。自分から「習いたい」と言って始めたこともそんなに続かない子だったので、「あなたに続くわけがないでしょ? 大変なお仕事なんだから」とずっと反対されていました。でもあるとき、「あなたの人生なんだから、好きなように頑張りなさい」と言ってくれて、やれることになったんです。

今回は、お母様が台詞読みの相手になってくださったりということはなかったのですか?

 そういうことは全くなくて、「頑張って」のひと言で送り出してくれました。

お仕事に関しては、いつもそういう感じなのですか?

 そうですね。ほとんど何も言いません。

華子さんとしてはその方がいいですか?

 聞きたいことや分からないことは質問しますけど、仕事についてはお互いタッチしない方がやりやすいかなとは思います。

華子さんの方からお母様に何か言われることはないのですか?

 母の方が、「今度こういうバラエティに出るんだけど、どう思う? 楽しいかな?」と聞いてきたりします(笑)。

華子さんの方がアドバイスしちゃう、みたいな(笑)?

 ええ。逆みたいなんですけど(笑)。

女優としてのお母様をどう思いますか?

 “目標”と言ったら何かが違う気がしますが、一人の女優さんとして見たら、責任感が強くて、お仕事となったらどんなに体の具合が悪くても、他にどんな楽しい用事があったとしても、そこに全力を注ぐ人なので、本当にすごいと思います。舞台だと長い台詞もたくさん覚えなくちゃなりませんけど、毎回一生懸命やっていますし、そういう姿を見てきましたから、人として尊敬できますね。

お母様の作品で一番お好きなのは?

 母はわたしが小さいころ、『細雪』という舞台をやっていまして、お芝居の内容自体はあまり覚えていないんですけど、当時よく楽屋に行って、一生懸命やっている母の姿を見ていましたから、『細雪』と聞くだけで懐かしい思いがします。

目標としている女優さんはいますか?

 特定の方はいませんが、皆さんに親しみを持っていただけるような女優になりたいですね。でも、「やるときはやります!」(笑)みたいな人が理想です。面白い作品だったら笑わせられるし、泣かすときはきっちり泣かせられる、“キレ”のある女優が目標です(笑)。

オフのときにはどのように過ごしていますか?

 思いっきり全部寝ているか(笑)、友達とカラオケとかに遊びに行くか、一人で買い物に行ったりしています。

これから映画をご覧になる方々に向けて、メッセージをお願いします。

 『旅の贈りもの―0:00発』という映画で、わたしは初めて演技をしました。すごく緊張しましたが、本当に良い思い出になりました。すばらしい景色、すばらしい音楽が満載で、人の優しさがスクリーンを通して感じられる映画ですので、仕事に追われたり勉強に疲れたりしていて、ちょっとホッとしてみたいという方は、ぜひ劇場に行かれて、癒されていただきたいなと思います。

 本作では、演技初挑戦にして、少ない台詞で少女の孤独を表現してみせた多岐川華子さん。ご本人は、同じ女の子とは思えないほど華やかで愛らしい笑顔の持ち主で、映画に初めて参加して感じたこと、女優という仕事について感じたことを、率直にしっかりと語ってくれた。とても前向きにしなやかに、そして真剣に仕事に取り組んでいる華子さん。お母様の多岐川裕美さんとはタイプが異なるかもしれないが、これからさまざまな経験を重ねて、大きな女優さんに成長していってほしい。

(文・写真:Maori Matsuura)

『旅の贈りもの―0:00発』作品紹介

 真夜中を告げる0時00分大阪発の列車。その列車に乗り込んだ5人の男女が辿り着いた先は、「風町」という小さな港町。降り注ぐ眩しい太陽とともに、彼らがそこで出会ったものとは……? 鉄道の旅の魅力を余すところなく捉え、観た人誰もが旅に出たくなる、そんな魅力いっぱいのハートフルな感動作。出演は、TV「ショムニ」などに出演の櫻井淳子、映画初出演の德永英明、同じく映画デビューとなる期待の新人・多岐川華子、漫才でおなじみの大平シロー、大ベテランの大滝秀治など、多彩な顔ぶれが結集! 「いい日旅立ち」「時代」「駅」などの懐かしい名曲が全編を彩る。

(2006年、日本、上映時間:109分)

キャスト&スタッフ

監督:原田昌樹
出演:櫻井淳子、多岐川華子、徳永英明、太平シロー、大滝秀治ほか

公開表記

配給:パンドラ
2006年10月7日(土)より全国ロードショー

(オフィシャル素材提供)

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