学生運動が本格化してきた1968年のイタリアを舞台に、理想と夢、恋に生きる若者たちの姿を描いた、俳優としても知られるミケーレ・プラチド監督の自伝的な物語『Il Grande Sogno』の記者会見が開かれ、監督とイタリアのティーンに絶大な人気を誇るリッカルド・スカマルチョとジャスミン・トリンカらが出席した。
激動の時代に生きた若者たちの瑞々しい青春を描いているという点では『輝ける青春』(2003年、マルコ・トゥーリオ・ジョルダーナ)や『マイ・ブラザー』(2007年、ダニエーレ・ルケッティ監督)などに追従した作品とも言えるかもしれない(出演者もかぶっている)が、何よりも注目を浴びた……というより物議をかもしたのは、“左側”だと公言している監督が、ベルルスコーニ首相所有のMedusa Filmと組んで本作を製作したことだった。まず、マスコミ試写で映画の冒頭、Medusa Filmのクレジットが出ると、イタリアの一部マスコミ陣からブーイングが上がった。
さらに記者会見では、最初の挨拶で長広舌をふるおうとしたMedusa Filmのカルロ・ロッセラ社長に批難の声が上がって不穏な雰囲気に。極めつけは、スペイン人の記者がプラシドに「左を自認する監督が何故、ベルルスコーニ首相の所有する製作会社と組んだのか」と問いかけたことから、怒りに火がついた。「じゃあ、どこと組んで映画を作ったらいいんだ? 俺はベルルスコーニに投票はしない! 知り合いでさえない! 一体イタリアで、どこと組んで映画を作れるものなのか教えてくれ。Medusaか、それともRai(公共放送であるものの、一部はベルルスコーニの息がかかっている)か? マッテオ・ガッローネでさえ、『ゴモラ』の後、Medusa製作で撮影する予定だ。“赤い貴族”のヴィスコンティもRusconi Filmのもとで映画を作ったじゃないか!」と感情を爆発させ、まくし立てた。
首相がモノポリ的なマスメディア企業のトップでもあるという異常な状況にあって、必ずしも表現の自由があるとは言いきれないイタリアの映画人の揺れと苦悩を実感させられた一件だった。
登壇者:ミケーレ・プラチド監督、リッカルド・スカマルチョ、ジャスミン・トリンカ他
(取材・文:Maori Matsuura 写真:オフィシャル・スチール)