インタビュー

『エンジェル 見えない恋人』ハリー・クレフェン監督 オフィシャル・インタビュー

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 目に見えない存在として生まれた青年“エンジェル”と盲目の少女“マドレーヌ”が惹かれあう、とびきりピュアで切ない小さな恋の物語『エンジェル、見えない恋人』が、本日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館にて公開中ほか、全国順次公開となる。

 パートナーが謎の失踪を遂げ、悲しみに打ちひしがれるルイーズは精神病院に収容される。誰にも知られることなく、彼女は男の子を産み落とす。“エンジェル”と名付けられたその子は、驚くべき特性の持ち主だった――目に見えないのだ。ルイーズはエンジェルに自分の存在を決して明かしてはいけないと言い聞かせる。世界は残酷で、異質なものを受け入れてはくれないからと。ところがある日、エンジェルは盲目の少女マドレーヌと出会い、たちまち恋に落ちる。彼女は目が見えないので、正体を隠したまま愛し合うことができる。愛をはぐくみながら成長したふたり。ある日、視力を取り戻せるかもしれないとマドレーヌが告げ、ふたりの生活は一変する。

 この度、本作のハリー・クレフェン監督のインタビューが到着した。

ハリー・クレフェン監督

 1956年、ベルギー生まれ。
 これまでに『神様メール』(16)、『ミスター・ノーバディ』(11)、『トト・ザ・ヒーロー』(91)など、本作の製作を務めたジャコ・ヴァン・ドルマルの作品をはじめ、数多くの作品に俳優として出演している。
 その他の代表作に『煽情』(10)、『Président』(未06)、『Pour le plaisir』(未04)、『Monsieur』(未90)などがある。

 監督としては、短編映画『Sirènes』(未90)でデビュー。その後『Abracadabra』(未93)で長編デビューし、『Trouble』(未05)などを監督。その他、数多くのTVシリーズを監督として手掛けている。

この映画の企画はどのように始まりましたか?

 トマ・グンジグ(共同脚本)は、目に見えない主人公がこの世に生を受け成長するというファンタジーをあたためていました。彼の提案が私の心を掴み、目に見えない少年と目が見えない少女のロマンスというアイデアが生まれました。
 私をトマに引き合わせたジャコ・ヴァン・ドルマルは、最初からこのプロジェクトに乗り気で、映画の製作を買って出てくれました。ジャコの賢明なアドバイスに従い、まっすぐで純粋なこの叶わぬ恋のゆくえを軸に必要最低限の表現で脚本を練りました。おとぎ話や寓話を想定して書きました。ほどなくして、プロジェクトに魅せられたオリヴィエ・ローサン(製作)、ダニエル・マルケ(製作)、バート・ヴァン・ランゲンドンク(共同製作)が加わり、当初の予定より大きな予算を組めることになりました。

制作にあたりどのようなことを考えたのですか?

 主人公であり透明のエンジェルの姿は決して見せず、彼の視点で、あたかも内側から物語を語るというアイデアが当然の選択肢としてすぐに浮かびました。エンジェルの生きる理由はマドレーヌへの愛です。幼い頃は彼女の目が見えないので、この愛は成立します。しかし、視力を取り戻せそうだとマドレーヌがエンジェルに告げたときから、彼が目に見えないという事実はふたたびふたりの愛の障害になってしまいます。観る側が登場人物の抱える問題を理解できたとき、登場人物の希望や恐怖や喜びを共有できたときに、登場人物との一体感が生まれます。乗り越えるべき障害や目指すゴールが明確で説得力があれば、登場人物との一体感は最高潮となります。「目に見えなくてもエンジェルはマドレーヌとの恋を成就できるのか」という問題は、シンプルで説得力があり、かつドラマティックです。それ故に、観る側はエンジェルに共感し、彼とともに、内側からこの物語を体験するために彼の皮膚の中に入り込むと私は確信しています。これが、ほぼ全編彼の視点からエンジェルの物語を撮影した理由です。

撮影はいかがでしたか?

 撮影は、長焦点レンズを使って、主に手持ちカメラで行いました。カメラがエンジェルで、私たちが見ているものは彼が<内側から>見ているものだという感覚を作り出すために、被写界深度をごく浅くしました。私たちはエンジェルの目に映るものを見て、エンジェルが耳にする音を聞きます。ほとんどはマドレーヌとルイーズの姿と声です。このふたりと対比することでエンジェルは存在します。彼の目を通して感じ取れるふたりの反応、感情、感覚を通してです。
 一方、エンジェルの視点から外れる場面では、カメラが動かないよう安定させて撮影しました。このような客観的なショットで、エンジェルの存在を“外側から”見ることができます。シーツの下の彼の体、彼の足跡、肘掛け椅子に身を沈める彼の重み、シャワー中の彼のシルエット、シンクの水を受ける彼の手、彼が手に取る物体、彼が湖に落ちたときに上がる水しぶきなど、つまり、彼が残す痕跡を見ることができるのです。
 このような主観的なショットと客観的なショットの繰り返しでエンジェルの存在を効率的に作り出したので、編集中、彼の存在のリアリティで楽しむことができました。この物語はすべてルイーズの病んだ精神の中での出来事だと、ときどき観る側が感じるように。
 エンジェルの主観的な視点を納得いくまで追求した結果、非常に独特なショットがいくつか撮れました。俳優たちは、あたかもそれがエンジェルの顔と目であるかのようにカメラを相手に演技しました。ルイーズがエンジェルにキスをするときには、彼女の顔がカメラのギリギリまで迫ってきます。マドレーヌがエンジェルの顔をなでるときには、彼女の手がレンズをかすめます。エンジェルが横向きに寝そべって彼女を見つめるときには、視線が縦になっています。
 エンジェルの瞼は透明なので、彼が目を閉じると、映像が少しかすんでわずかに明るくなります。エンジェルが目に涙をたたえると、映像がぼやけます。マドレーヌがエンジェルの目をのぞき込むとき、彼女はカメラをまっすぐに見つめています。こうして、観る側はふたりの親密な関係を共有しているように感じるのです。このようなシンプルなテクニックが、エンジェルの“見えない皮膚”の中にいて彼の物語を体験するという観る側の感覚を高めることができたと思います。

スタッフに関してお聞かせください。

 若手俳優だった私は、ジャン=リュック・ゴダール監督が少人数のスタッフと働くスピードを目の当たりにする機会がありました(それでもスタッフが多すぎて、物事がすばやく進まないと文句を言っていました)。こういう撮影から生まれる自由に私は強く惹かれました。
 この方法にインスピレーションを受け、私の長編映画第2作『Why Get Married the Day the World Ends?(原題)』を撮影しました。スタッフは10人もいませんでしたが、とてもいい経験だったという記憶があります。
 今回はさらに踏み込みたいと思いました。若く、意欲あふれる少人数のチームで仕事がしたかったのです。友人であり素晴らしい作品を手掛けているジュリエット・ヴァン・ドルマルに撮影監督を依頼しました。彼女を中心に若いスタッフをそろえ、多才で、団結力の非常に強い、意欲あふれるチームを作りました。ほとんどのスタッフにとって、これが初の長編映画でした。

キャストはどのように選びましたか?

 まず、エンジェルの母ルイーズ役に、ジャコと私は真っ先に、私の長編映画第2作『Why Get Married the Day the World Ends?』に出演しているエリナ・レーヴェンソンを思い浮かべました。この選択は私にとって当然のものでした。エリナはアートシアター系の映画に精力的に出演している女優です。彼女はとても熱心で、創作のプロセスにおける真のパートナーです。類まれな感受性と演技の才能の持ち主です。窮屈なくらいのあふれる母性愛と若干の狂気という美しい両面性をルイーズに与えてくれました。
 マドレーヌを演じられる女優を探すのは困難を極めました。私は当初からマドレーヌは赤毛で碧眼だと想像していました。ずいぶん長い間探し回って、必然的に範囲を広げることになりましたが、優先事項は優れた女優を見つけることでした。この映画にはおとぎ話のような側面があるので、時を超越した登場人物を演じるうえで必要な<気品と威厳>がある女優に特にこだわりました。<リアルで>現代的でありふれたものを表現する人たちはその条件に合いませんでした。また、エンジェルというたったひとりの男性しか愛したことがないマドレーヌを演じ切らなければならないので、ある種の<ロマンティックな純粋さ>を醸し出すことができ、なおかつ、魅力的でカリスマ性のある官能的な女優を探さなければなりませんでした。さらに、エンジェルは見えないので、見えないパートナーを存在させつつ<ひとりで>演技できる女優が必要でした。何ヵ月も辛抱強く探し続け、ついにこれらの資質を見事に体現するフルール・ジフリエに出会いました……青い目と赤い髪に至るまですべて。
 撮影は魔法のようでした。フルールは、その感情の繊細な激しさとまばゆい官能的な存在感をもって、エンジェルを存在させていました。もうひとつ、フルールの演技に見合う、彼女と外見がよく似ていて成長過程に違和感のない幼女と10代の少女を探すという難関が残っていました。ハンナは、無理だと思っていたマドレーヌを(相手役なしで)演じ、彼女が盲目だと私たちに信じさせました。キャスティング中、彼女だけがそれをやってのけ、外見もフルールにいちばんよく似ていました。
 そしてついに、欠けていた10代を演じるマヤを見つけました。彼女はハンナにもフルールにも似ている貴重な存在で、類まれなる才能の持ち主です。撮影初日から、彼女の集中力とプロ意識にスタッフ全員が舌を巻きました。

特殊効果についてお聞かせください。

 当初から、見えない登場人物に命を与えるために必要な特殊効果を考えるうえで、映画の予算の問題がありました。<昔ながらの>メカニカル・エフェクトを専門とする友人から貴重なアドバイスをたくさんもらいました。緻密な撮影台本のおかげで、どのエフェクトをセットで済ませることができるか、どのエフェクトをポストプロダクションで作らなければならないかを決めることができました。
 最初はひとりで、その後は道具担当と一緒に、何週間もかけて注意深くメカニカル・エフェクトの準備をしました。物体を(ポストプロダクションで消される)紐で動かしたり、マドレーヌの肌に触れるエンジェルの見えない手の圧力を作り出すために圧縮空気を使ったりしました。ほかにも、いくつかのショットを逆モーションで撮影し、前進モーションで編集しました。この方法は、動きに(コクトーの映画のような)わずかなオフセットと不思議な感覚を与えます。視覚効果を専門とする若いスタッフがほかのショットを担当しました。彼らの技術、能力、創意工夫、想像力、そして熱意には感心させられました。彼らは素晴らしいパートナーで、極めて複雑なエフェクト(洗面台のシンクの中のエンジェルの手、雨の中のエンジェル)を見事に作り上げました。
 また、母親の前で手紙を開封するエンジェルや精神病院の個室の壁にかかった美しい絵の非常に高度なエフェクトを作り出すためにアニメーション技術(ピクシレーション、コマ送り)を使いました。このような技術をすべて組み合わせることで、革新的な3D技術の先端にいながらにして昔ながらエフェクトの不思議な感覚を得ることができたのです。

最後に日本の観客にメッセージをお願いします。

 『エンジェル、見えない恋人』は、見えない登場人物の目を通してラブストーリーを語るという大胆な試みであり、素晴らしい挑戦でした。目に見えないキャラクターの内側からこの物語を夢想し、とてもシンプルな<見えない者同士>のラブストーリーの魔法が持つ詩情を共に味わっていただければ幸いです。

公開表記

 配給:アルバトロス・フィルム
 2018年10月13日(土) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

(オフィシャル素材提供)

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