インタビュー映画祭・特別上映

第19回「ニッポン・コネクション」渋川清彦 単独インタビュー

 ドイツ・フランクフルトで開催された第19回「ニッポン・コネクション」に出品された映画のうち、実に8本もの作品に出演している俳優・渋川清彦。出演作が引きも切らず、その強烈な個性で年々存在感を増している彼に、公開直前の映画『柴公園』をはじめ、さまざまな作品や自身について話を聞いた。

ドラマ「柴公園」はとても面白い作品でしたが、あの長台詞は大変そうですね。

 もう、大変だったっす。必死で覚えましたよ。ひたすら本を読み込んで、声に出して覚えるっていう。あれね、大変だったのが、1ヵ月と1週間くらいでドラマ10話と映画も全部撮ったんですよ。だからホントにしんどくて、台詞を覚えきれないで現場に入ったのは初めてのことだったんです。成るように成れ!と思っちゃいました。

しかも、犬もいますからね。そちらにも気を取られたのでは?

 そうなんですよ。それに、本当の飼い主というわけじゃないから、犬と仲良くならなければいけないので毎日接して……というのはずっとやってました。

「あたるくん」とですね。

 そう。「あたるくん」って、実は本名が「きぃ」って言うんですよ。(※「KEE」は渋川さんの元の芸名で、ニックネームでもある。)

それは、運命ですね!

 そうなんですよ。しかも、動物プロダクションが俺の住んでいる所と割に近いので、よく会いに行くこともできて。

ご自身で「あたるくん」を選んだわけじゃないんですよね?

 選んでないです。たまたまだったんですけど、すごい偶然でしたね。

共演の大西信満さんは、渋川さんと同じ事務所ですよね?

 そうそう。大西は独特の良さがあるので、キャスティングの際に「大西にやらせたらいいんじゃない?」と俺が言ったんですけど、見事ドンピシャリにハマりましたね。あいつでホントに良かったなと思ってます。

あの、なんとも言えない生真面目な感じが……。

 そうなんだよね~生真面目なんだけど、ホントにエキセントリックで、すっごい面白いヤツなんですよ。たぶん、真面目過ぎるから、かえって面白くなっちゃうんだと思いますけど。

大西さんといえば、『赤目四十八瀧心中未遂』(03)、『キャタピラー』(10)も代表作ですが、なんといっても『さよなら渓谷』(13)が忘れがたい傑作でした。

 あれは、大西が自分で原作権を取ってプロデュースもした作品ですからね。当時は大手プロダクションに所属していましたが、そこの社長に直談判して資金提供を受け、(大森立嗣)監督も自分で決めて出演もした、あいつの渾身の映画ですよ。

映画『柴公園』はまもなく公開(6月14日)ですね。

 すごく楽しみです。公開の前に、6月8日(土)、俺の地元・渋川市で「SHIBAフェス」というのをやるんですよ。渋川には川があるんですけど、その川っぺりにもともとゴルフ場だった所があって、そこを今は緑地公園にしているんです。そこで、犬を連れて映画を観ようっていう企画なんです。面白そうでしょう? 昼間っから屋外でやるので、映画自体はあまり良く見えないと思うんですけど、雰囲気だけ面白かったらいいやって(笑)。犬と一緒に映画を観るなんてフェスティバル、これまでなかったでしょうから。映画は2回上映するんですけど、その合間に、「柴公園」に出ていた3人と犬3匹が登場してトークをやるっていう。きっと、グッチャグチャになりますよ(笑)。こわいのは、梅雨に入るか入らないかの時期なので、雨ですね。雨が降ったら中止になっちゃうんで(※同フェスは無事、開催された。)、本当は6月8日と9日の2日にわたって開催されるプランもあったんですけど、9日は俺にもともと予定が入っていて。京都にいる友達の結婚式に行くだけなんですけど(笑)。前から約束していたので、ここだけは変えられないなって。

6月22日(土)にはシネマート新宿で渋川さんの映画イベントもありますよね?

 新宿では俺の映画祭り「映画『柴公園』公開記念&俳優生活20周年記念 渋川清彦映画祭り!」をやってくれるんですけど、一応主演ということで、映画『柴公園』を盛り上げるために、俺の出演作のオールナイトをやろうと企画してくれたんです。石井聰亙(現・石井岳龍)監督の『パンク侍、斬られて候』(18)、阪本順治監督の『半世界』(18)、豊田利晃監督の『ナイン・ソウルズ』(03)をやります。面白いのは監督たちもそれぞれ関わりがあって、阪本さんは石井さんの『爆裂都市 BURST CITY』(82)の現場にいて、美術と編集をやっていたんですよ。豊田さんは阪本さんの映画『王手』(91)で一緒に脚本を書き、助監督もやりました。今回の映画祭りで選ばれた3本にはそういう経緯があるんです。俺も面白いなぁと思って。楽しみですねぇ。

今や映画で渋川さんを目にしないほうが少ないくらいな印象ですが、大忙しなのでは?

 実際はそれほどでもないんですよ。脚本を見ると、何日くらいの撮影かって大体分かるんですけど、決まった日程でスケジュールをあらかじめ押さえられてしまうんですよ。だから、その間は他の仕事を入れられませんから、常に忙しくしているわけじゃないんです。

今回ドイツにいらしたのは、スケジュール的に空きがあったのですか?

 ちょうど映画を1本撮り終えて、空いたところだったんですよ。

年々お忙しくなっているのでは?

 うーん、そうですね。自分なりの良いペースを保てないとキツくなることもあります。ただ、この頃は乗り切ったというか、もう大丈夫です。

「ニッポン・コネクション」では毎年のようにお見かけして、今では渋川さんなしでは成り立たないような(笑)。

 たぶん、来年もおじゃまします(笑)。

今年上映された作品のうち、実に8本に出演されていたのですね。

 そう、サブのも入れると8本になりますね。舞台挨拶したのは、そのうちの4本ですが(『菊とギロチン』『半世界』『泣き虫しょったんの奇跡』『ルームロンダリング』。)

ドキュメンタリーの『新宿タイガー』にも登場されていました。

 『新宿タイガー』ね(笑)。俺、家が近いので、いつもチャリンコで新宿に行くですよ。新宿は好きなので良く行くんですけど、本当にタイガーさんとばったり会うんですね。群馬から上京した頃からずっと新宿の近くに住んでいて、新宿に行くとよく見かけてましたね。それにタイガーさんは映画がお好きなので、よく映画館にもいたんですよ、あの派手は格好で。そして会うと、「おぉ、兄弟!」って言われて(笑)。本当のお名前も知らないんですけど(笑)。あの撮影のときも、バッタリ!です。チャリンコで家に帰ろうとしていたところ、タイガーさんをカメラが追っていて、俺も話しかけられて。

渋川さんはインディーズからメジャーになられた監督たちの作品に多く出演されています。残念ながら亡くなられた故・若松孝二監督の晩年の作品にもいくつか出演されていますが、若松監督の若き日々を描いた白石和彌監督の『止められるか、俺たちを』(18)には、その経緯で出演されたのですか?

 もちろん。当時、先に決まっていた仕事があったのでワンシーンだけでしたが、若松プロの作品だったら、タイミングが合えば、たとえワンシーンだけでも喜んで出させていただきますから。

若松監督はどういう方でしたか?

 若松さんはね、最高でしたよ。脚本を入れて現場に行ったら、「脚本なんて見るなぁ!」ってすっごい怒るんですよ。たぶん、あの人は“気持ち”を見てるんですね。俺、三島(由紀夫)にドップリで、若松さんの『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(11)にも出させていただいたんですけど(楯の会初代学生長:持丸 博役)、あの作品には若松さんも出てるんですよ。森田必勝(満島真之介)らが小船を盗んで北方領土に行こうとするシーンで、若松さんは船の持ち主役をやったんですけど、めっちゃ台詞を噛んでて(笑)。森田必勝役に本気で怒ってて、すっごく面白かったことを思い出しますね。

遺作となった『千年の愉楽』(12)でヴェネチア国際映画祭に参加された際、「自分は映画で闘う以外ない。今度は絶対に東電の問題を扱おうと思う。国家が隠そう隠そうとしているものをぶちまけたい!」とおっしゃっていたのが強烈な印象に残っていますが、その直後に亡くなってしまい、無念なことでした。

 本当に不思議で面白い監督でした。あの人は左寄りでしたけど、実をいうと左も右もないんですよね。何よりも、若者の“気持ち”を描きたかった人なんだと思います。それが映画を創る一番の衝動だったという気がしました。若松さんの三島映画の冒頭にも出てきますが、日本社会党の党首・浅沼稲次郎を演説中に刺殺した山口二矢(おとや)の映画を創りたがっていました。若者って一心に何かを思い込んだりするじゃないですか。そういう姿を描きたかったんだと思いますよ、若松さんは。

廣木隆一監督の作品にも以前、結構出ていらっしゃいましたけど、今回お会いになりましたか?

 会いましたよ。相変わらず、飲んでました(笑)。廣木さんこそ、不思議な人ですよ。あれだけふわぁ~としてますけど、でかい映画も自分が好きな映画もやるし、飄々としてますね。割り切っているところもあると思うけど、大人たちの話もまた撮ってほしいですね。瀬々(敬久)さんなんかもまさにそうで、商業映画を撮って、それを資金にして『菊とギロチン』のような本当に撮りたかった作品を創り上げましたからね。

渋川さんは、同じ監督に何度も起用される、監督たちに愛されている俳優さんと言えますが、監督たちの目からご自身はどう映っていると思われますか?

 俺は、自分が好きな監督の作品だったら、何でもやるんですよ。監督たちはおそらく、そのことを分かってくれているんだと思います。例えば、本気で殴れと言われたらそうしますし、極端な話、死ねと言われたら死ぬ覚悟でやってますから。口にしているわけじゃありませんけど、俺のその覚悟は監督たちにも伝わっているんじゃないかな。

ドラマの「モンテ・クリスト伯 -華麗なる復讐-」(18)を思い出します。凄まじい演技でしたね。

 あぁ、あれはね、ホントにしんどかったんですよ。港で自分から寒い海に飛び込んだり。現場が複雑なことになっていて撮影に難儀していたので、「いいですよ、俺、飛び込みますよ」と言って飛び込んだはいいけど、ホント寒くて(笑)。挙句には、土に埋められるし(笑)。鼻にまで土が入ってきて、辛かったっすよ。まじでやりましたからね。監督は西谷(弘)さんでフジテレビの人なんですけど、良い作品を撮ろうという想いがあって。俺、体当たりしてるんです、いつも(笑)。

松本穂香さんとW主演の『酔うと化け物になる父がつらい』が今年公開されますね。

 そう、あの作品で来年もここに来られるんじゃないかなと思ってます。監督は、今回上映した『ルームロンダリング』の片桐健滋なんですよ。撮影は大変でしたね。実際に酒を飲みながらやってみたんですよ。監督がそういうチャレンジをさせてくれたんです。なかなか酔えなかったですけどね。酒を入れた状態で台詞が言えたらいいかなと思って。それでいい芝居ができたかどうかは観てくださる人たちの判断ですけど、顔つきは酔っている人の顔になってましたね。

壮絶なシーンなんかもあるのでは?

 そこまで壮絶ではないですけどね。かわいい話なんですよ。原作はマンガで、原作者の菊池(真理子)さんも映画を観ながらずっとポロポロ泣いていて、「よかった」と言ってくれました。演じながら「このおやじはどういう気持ちだったのか」と考えました。人と接するのが苦手でシャイで、飲まなきゃ人とちゃんと話せないのかな、とか。自分にもそういうところがあるので、よく分かりました。だから飲んじゃうんですけど、あの人の場合はそれが度を過ぎてしまったんですね。奥さんが新興宗教にはまっていたとか、そういう背景もあるんですけど。

渋川さんも、舞台挨拶ではよく、撮影後の飲みの話が出てきますね(笑)。

 出ますね~(笑)。そんな、好きじゃないですけどね、酒(笑)。実はあまり強くないんです。すぐ顔に出てしまうし、寝てしまってはまた復活するというパターンですね。

『半世界』の撮影時も行かれたんですか?

 行きましたね。大体、俺が誘って。長谷川(博己)くんは1回来ましたし、父親役の石橋蓮司さんには何度か飲ませてもらいました(笑)。宿泊先のそばに、すごくいい店があったんですよ。お母さんが一人でやっていて、そこで俺はいつも独りで飲んでたんですよね。

ロケはどちらでしたか?

 三重県の南伊勢町、伊勢神宮がある所のちょっと下あたりですけど、本当に良い所でした。数年前にサミットをやった伊勢志摩の割に近くです。

これまでのアクの強い役とは違って、登場した人々の中でも一番普通でまっとうな男性を演じられました。それはそれで難しいことはありませんでしか?

 難しくはなかったですね。ずっと阪本さんとやりたかったんですけど、今回誘ってもらえて本当に嬉しくて。撮影に入る前に一度、阪本さんに(稲垣)吾郎さんと長谷川くんと俺の3人で飲もうと言われたんですよね。その時にそれぞれの様子を見て、役に色付けをしたんだと思います。飲むと本心や素の自分が出たりするじゃないですか。その時の姿を見て阪本さんが俺の役も設定してくれたので、すごくやりやすかったです。

オフのときは何をされていますか?

 子どもがまだちっちゃいんで、一緒に遊んだりどこかに連れていったりすることが多いですけど、本当は映画を観に行きたいんですよね。でも……俺一人で行くのもわりぃな~と思ったりして……。今回は1ヵ月くらい映画とかの現場がなかったんですよ。ただ、地元の高崎で3時間の生放送ラジオ(ラジオ高崎「Air Place」午後4時~)に出演していて、それが隔週の火曜日なんです。台本もなくフリーに話す形ですけど、一緒にやっているパーソナリティーが話の達者な方なので、何を話そうか頭を悩ませることもなくて楽しいですよ。ラジオってすごく面白いです。

映画を観に行きたいということですが、どんな映画がお好きですか? お好きな監督は?

 外国映画だと、必ず観るのはアキ・カウリスマキです。大好きでして。アメリカだと、タランティーノやジャームッシュが撮れば必ず観ます。あと、イギリスのアレックス・コックスに新作を撮ってほしいな~と思いますね。しばらく撮ってないですからね。『サーチャーズ 2.0』(07)が最後じゃないかな。俺はやっぱり、インディーズ系が好きなんですよね。

俳優で憧れたのは?

 一番最初に憧れたのはマット・ディロンでした。あと、ジェームズ・ディーンですね。マット・ディロンにはものすごくハマって、最初はやっぱり『アウトサイダー』(83)で、その後はチャールズ・ブコウスキーが原作の『酔いどれ詩人になるまえに』(05)がすっごい良かったんですよ。

『榎田貿易堂』(17)に続いて、同郷の飯塚 健監督と狩野善則プロデューサーと地元・渋川を舞台にした映画を撮るプランはありますか?

 俺はやりたいと思っていますよ。俳優は基本、“待ち”の立場ですし、俺も自分から動くタイプじゃないので、今はまさに“待ち”状態ですけど、本当にできたらいいと心から願っています。

 「ニッポン・コネクション」には毎年のように参加され、邦画ファンのドイツ人たちにもすっかり馴染みの存在となっている渋川さん。年々主演作が増え、昨年同映画祭でも披露された『榎田貿易堂』(17)からは主演作も公開・待機と、映画やドラマでますます活躍の場を広げている。本年度の招待作品の中でも、メインからサブまで実に8本もの映画(『ルームロンダリング』『ウィーアーリトルゾンビーズ』『新宿タイガー』『半世界』『止められるか、俺たちを』『泣き虫しょったんの奇跡 』『菊とギロチン 』『いぬやしき』)に登場、それぞれの作品の監督と共に上映前の舞台挨拶からQ&Aに参加するため、各会場を駆けまわる合間に心良くインタビューに応じてくださった。
 心揺さぶる『泣き虫しょったんの奇跡』(18)のQ&A後、すぐに『ルームロンダリング』(18)の舞台挨拶に向かい、その足でインタビュー部屋に姿を見せてくださった渋川さん。エキセントリックでアクの強い役が多い俳優さんとして知られているけれど、ご自身もおっしゃったように少しシャイで穏やかな雰囲気をまとった方で、その語り口から、演じることに対する真摯でひたむきな想いがひしひしと伝わってきた。「監督が“死ね”と言えば、死ぬ覚悟でやっている」という言葉から、この方が多くの監督たちから愛される理由が分かった気がした。
 インタビュー前、最初の緊張を和らげるために、渋川さんの地元・群馬県の草津温泉に昨年末初めて行った際、渋川駅を通った話から切り出すと、草津温泉の泉質から行き方まで、ひとしきり話が盛り上がったことも忘れがたいひと時だった。
 来年は本当に、主演作『柴公園』と『酔うと化け物になる父がつらい 』でぜひ再びお目にかかりたいものだ。

(取材・文・写真:Maori Matsuura)

関連作品

スポンサーリンク
シェアする
サイト 管理者をフォローする
Translate »
タイトルとURLをコピーしました