イベント・舞台挨拶

『千夜、一夜』一般試写会

©2022映画『千夜、一夜』製作委員会

 田中裕子を主演に迎えた久保田直監督最新作『千夜、一夜』が10月7日(金)より、テアトル新宿、シネスイッチ銀座ほか全国公開となる。公開に先立ち、9月30日(金)に都内にて、一般試写会が開催された。上映後には、ドキュメンタリー撮影のため海外ロケ中の久保田直監督がリモート登壇。映画ジャーナリストの立田敦子氏を聞き手に、本作の着想や日本映画界を代表する実力派俳優陣のキャスティングの経緯についてなど語った。

失踪者リスト」を題材に「待つ」側の物語を描きたかった

失踪した夫を待つ二人の女性のそれぞれの姿を描いた『千夜、一夜』。この物語の背景に、日本では年間約8万人の失踪者がいる事実がありますが、久保田監督が、失踪者とその残された家族というテーマに興味を持ったのには、どのような経緯があったのですか?

久保田直監督: 約20年前に、拉致の可能性を排除できない失踪者の名前と顔写真が掲載されたポスターが全国に貼り出されたのですが、その「特定失踪者リスト」の印象が強烈で、ずっと記憶に残っていました。その後、リストに名前が掲載された人が、「自分は拉致されたのではなく、自分の意志で別の場所で暮らしている」と家族に連絡を入れた事例が複数あったと聞き、とても驚きました。どうして失踪しようと思ったのか。そして、待っていた家族はその知らせを聞いてどのような気持ちだったのだろうか。家族が拉致被害にあったのかもしれないと届け出を出すくらいですから、失踪する直前まで普通の日常を過ごしていたはず。「生きていて良かったけど、何がいけなかったのか」と考えるでしょうし、どのように受け止めればいいかわからないと思います。「待つ」側の人の気持ちを想像するなかで、「拉致問題」を掘り下げるというよりは、「ずっと待ち続ける人」を描いた作品を作りたいと考えるようになりました。

本作は青木研次さんによるオリジナル脚本ですが、青木さんとは劇映画デビュー作『家路』(14)でもタッグを組まれていますね。どのように脚本を練り上げていったのでしょうか?

久保田直監督: 「失踪者リストを題材に、待つ側の物語を描いてみたい」と青木さんに伝え、設定についての話し合いを重ねるなかで、「舞台は島で、主人公は女性にしよう」ということになり、ほぼ見切り発車で、二人で佐渡島にシナリオハンティングに行きました。島にした理由のひとつは、ひとつしかない出入口を主人公が見つめている画が思い浮かんだから(正確には佐渡島には2つの出入り口がありますが)。佐渡島を見て回っていくなかで膨らんだイメージをもとに、青木さんとキャッチボールをしていきながら第一稿を仕上げていきました。

「待つことをやめられない」女と「新たな人生を踏み出したい」女。対照的な選択をする二人の「待つ」女性像について

理由があって失踪したのか、事件に巻き込まれたのか。死んでいるのか生きているのかも分からない夫をとにかく待ち続ける登美子(田中裕子)と、自分なりに踏ん切りをつけ、新たな人生を踏み出そうとする奈美(尾野真千子)という二人の女性の、ある意味対照的な選択が描かれます。この残された二人の人物像を作り上げる上でポイントになったことは何ですか?

久保田直監督: 登美子も奈美も、すごく芯が強く、「強い女性でありたい」と思っているキャラクターです。ですが、その「在り方」が二人は少し違います。登美子は、「待つことを止められない」女性。その一方で、奈美はある種一般的な選択なのかもしれませんが、「自分が思い描く人生設計をなんとか守りたい」と考え、それが出来なければ次のステップに進もうとする女性。同じ待つ女性でも、二人の人物像を対照的に描きました。

静かに待ち続ける主人公の一途さは、俳優・田中裕子が醸し出す空気感からイメージを拡げた

田中裕子さん、尾野真千子さんともに、日本映画界を代表する実力派俳優です。田中裕子さんは『家路』にも出演されていますが、この二人のキャスティングは何が決め手だったのでしょうか?

久保田直監督: 田中裕子さんには、『家路』に出演していただいた際にいろいろと教わることがたくさんあり、俳優としても人間としても素晴らしい方です。次回作の機会があればまた出演をお願いしたいとずっと思っていたので、青木さんと本作の脚本を練り上げるなかで自然と頭のなかで田中さんの姿を思い浮べていました。そして、仕上がった脚本をまず田中さんに読んでいただき、快諾してもらいました。静かに待ち続ける登美子の一途さは、田中さんが醸し出す空気感からイメージを拡げていった点が大きいです。
 尾野真千子さんは田中さんと同じ事務所に所属されているのですが、意外にもあまり共演されたことがなく、尾野さんが田中さんとの共演を熱望されていたというタイミングもあり、奈美役を引き受けていただけることになりました。

田中裕子さんと尾野真千子さんが共演することによって、奇跡的な瞬間はあったのでしょうか?

久保田直監督: 尾野さん演じる奈美は、登美子に共感しながらも、どこかで「私は彼女とは違う」という気持ちもあり、ずっと揺れて動いています。登美子が持つ、ロマンチシズムな気持ちやプラトニックな愛に対して、奈美は徐々に苛立ちを感じ始めるのです。登美子が奈美の夫・洋司(安藤政信)を彼女のもとに連れてきた際に、「どうして連れてきたんですか!」と奈美が登美子に激昂する場面があります。洋司に対して発せられる罵倒のセリフが、だんだんと登美子に向かっていくように尾野さんも演じられていると思うのですが、その場面はとても迫力がありましたし、素晴らしいシーンが出来上がったと思います。

様々な国や地域の「家族」の撮影してきた経験が映画製作の引き出しに。努力をしないと「家族」や「夫婦」ではいられない

久保田監督は、これまでに数多くのドキュメンタリー作品を手掛けられてきましたが、その経験はフィクション作品を作る上で、どのように活かされていたり、反映されていますか?

久保田直監督: 基本的に、ドキュメンタリーと劇映画を制作する際のスイッチは自分の中で切り替えています。ドキュメンタリーで培ったことを劇映画に活かしている点があるとすれば、約40年にわたり様々な国や地域の“家族”を撮り続けてきたことをストーリーや演出に落とし込んでいることでしょうか。家族がちょっとしたことですれ違ったり、喧嘩になったり、誰かが家を出ていったり。様々な家族の姿を近くで撮影してきたことが、私自身の映画製作の引き出しになっています。青木さんにそれらのエピソードを話すと、さらにひねって脚本にうまく落とし込んでくれるんです。

現在、世界中で家族の形が見直されていますが、本作では「夫婦」という形態についてフォーカスされていますね。監督が考える夫婦の形はどのようなものだと考えますか?

久保田直監督: 「夫婦」というものは、家族とはいえ、血が繋がっているわけではなく、実は他人ともいえますね。ですが、「家族」という言葉にしてしまうと、何もしなくとも「家族」でいられると勘違いしてしまう部分もあると思います。ドキュメンタリーを撮っていて常々思うのは、やはり努力をしないと「家族」という形ではいられないということです。
 そして、「夫婦」はさらに努力が必要ですよね。どのような努力なのかはさまざまな夫婦の形や考えがあると思いますが、それぞれの努力を重ねた分、相手がいなくなったときの喪失感が深かったり、どのように受け止めていいのか分からないという気持ちに繋がっていくのだと思います。

登壇者:久保田直監督(オンライン)、聞き手:立田敦子(映画ジャーナリスト)

配給:ビターズ・エンド
10月7日(金) テアトル新宿、シネスイッチ銀座ほか全国公開

(オフィシャル素材提供)

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