イベント・舞台挨拶

『パラレル・マザーズ』トークショー付き試写会

©Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU

 ペドロ・アルモドバル監督最新作『パラレル・マザーズ』が、11月3日(木・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町他にて全国公開となる。
 本作の公開に先立ち、10月25日(火)にトークショー付き試写会イベントをインスティトゥト・セルバンテス東京にて実施。インスティトゥト・セルバンテス東京の文化部長の挨拶から本編上映が始まり、上映後には、アルモドバル監督に造詣が深いコラムニストの山崎まどかさんと、NeoL編集長の桑原亮子さんが登壇、物語の核となるテーマを語り尽くすトークショーが実施された。

 アカデミー賞®外国語映画賞を受賞した『オール・アバウト・マイ・マザー』を筆頭に、母と娘の物語というのはアルモドバル監督にとってライフワークともいうべき重要なモチーフとなっているが、その中でも本作はその集大成にして渾身の一作といえる。

 本作主演のペネロペ・クルスは、アルモドバルの盟友を超えて、今やソウルメイトとも呼べる存在となっている。そんな彼女について「アルモドバルが母と娘をテーマにした作品は多くて。ペネロペが主演した作品でいうと『ボルベール〈帰郷〉』(2006)などがあって。その時は娘役が多かったと思うんですが、そんなペネロペも、『ジュリエッタ』(2016)の頃から母親のほうにシフトしてきたというのが印象的。今回はそれを受け継いでいる感じかなと思いました」と切り出した山崎さんは、「ペドロ・アルモドバルはペネロペを大きな女優に育てようというイメージがあったと思う。若い頃はかわいらしかったけど、最近はアンナ・マニャーニやソフィア・ローレンのような、ヨーロッパの大人の女性というか、中年としての女優を意識した作りになっている」と指摘。桑原さんも「この作品は『オール・アバウト・マイ・マザー』の頃には構想があったそうで。その時には監督の中では、(若い母親役の)ミレナ・スミットの役を演じさせるという気持ちだったと聞きましたが、今では(年上の母親役の)ジャニス役になった。そこも含めて二人の歴史が感じられる作品かなと思いました」とその意見に同意していた。

 そんなアルモドバル作品について「お母さんの神話性、女性とはこうあるべきといったものがないから安心して観ていられる」と笑う桑原さん。山崎さんも「シングル・マザーの話となると、母性神話みたいなものを期待するところもあるかもしれないですけど、それは一切ないですし、むしろそれを疑問視しているところもある。子どもを産めば母親だというところは一切ない。だいたいがアルモドバル作品に出てくる母親は勝手で、行方知れずになったり、ヒドいこともする。それでも娘にとっては母である、という複雑な関係性は変わらない。本作でもミレナ・スミット演じるアナの母親のテレサは、娘を捨てていく母親ですが、でも娘を捨てていくから母性本能がないとか、面倒を見ないから母親じゃないということはなく、それも母親じゃないか、ということを提示している。それも面白いし、ひとつの型に押し込めない。そういう自由なところがあると思いますね」とコメント。

桑原さんも「ジャニスもフォトグラファーの仕事をしていて、ベビー・シッターもいる。日常生活の中で女性が自立する姿を見ると安心します」と付け加えた。

 また桑原さんは、ジャニスが“We Should All Be Feminists”というメッセージがプリントされたクリスチャン・ディオールのTシャツを着ていたことに感動した様子。「そこにも彼の視点が出ていると思うんですね。あれを着ているお母さんというのも含めて、わたしとしてはグッときました」と笑顔を見せる。

 本作の主人公ジャニスは、スペイン内戦で犠牲になった曾祖父の骨を掘り起こし、愛するモノの尊厳を守る場所に埋葬するということに強い思いを抱くキャラクターとなっている。その点について「アルモドバル作品はメロドラマの形式が出来上がっている。そこに政治的なことが出てくるのは意外ですけど、でも実はアルモドバルは内戦に触れるところが元々あって、フランコ政権以降の自由な雰囲気で我々は育ったが、それは勝ち取ったものだと。それは老境における心境の変化もあると思いますが、それ以上に彼が今の世界の情勢を無視できないということもあると思う。彼は独裁政権の傷を負った国に生きたわけですよね。この映画のラスト・シーンには、ロシアのウクライナ侵攻で起きたことを思わせるものがあり、グッとくるものがありました。この『パラレル・マザーズ』は(本国公開から)1年遅れて公開となりましたが、今観ることに意味があると思う。家族の物語として、他人事ではないのだと。個人の歴史と国の歴史はイコールであると感じさせる作りになっているなと思いますね」と語る山崎さん。「ジャニスが『若い世代でも自分の国のことを知るのは大事でしょ』というセリフがありましたけど、今までそういうストレートなセリフはなかった。今まではクィアの視点など、直接的に描かなくても、訴えかけるものがありましたが、ここでは(ストレートに語るということで)新境地のようなものを感じました」と力強く語り、盛況のうちにイベントは終了した。

公開表記

配給:キノフィルムズ
11月3日(木・祝) ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテ 他公開

(オフィシャル素材提供)

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