イベント・舞台挨拶

『戦場記者』映画公開直前イベント

©TBSテレビ

 世界の紛争地を飛び回ってきた日本人記者の視点から“戦場の今”を映し出すドキュメンタリー映画『戦場記者』の試写会が12月14日(水)、都内で開催された。上映後には、戦場カメラマンの渡部陽一、放送プロデューサーのデーブ・スペクターを迎えてのトークイベントが行われた。ロンドンにいる須賀川 拓監督とも中継をつないでの熱いトークが展開し、会場は盛り上がりを見せた。

 TBSテレビ特派員にして、YouTubeでも戦地での取材の模様をアップし、大きな話題を呼んでいる須賀川。ロンドンからオンラインでトーク・イベント出席となったが今回、こうして自身がカメラに収めた映像が映画として全国公開されることについて「正直、まだフワフワしています。僕ら取材者は、取材している人(取材対象者)が主役なので、私自身が主役のような形でフィーチャーされることに、いまだに違和感があります。結果として、自分が軸となることで、紛争地を紹介できるので良かったかなと思いますが、まだ実感がわかずにいます」と喜びと戸惑いを口にする。

 渡部は、映画を観ての感想として「須賀川さんが必ず、紛争地の現場にいること、それが国際報道の一番の真骨頂だと思います。紛争地域や情勢が不安定な場所において、直接の戦闘にかち合ったり、前線にたどり着くってことが、取材の中で最も大きなウェイトがかかってくる大切な力であり、取材そのものの柱となります。必ず現場にいてカメラを回している――それまでの段取りや現地の人々とのつながり、特に取材チームを支える現地のコーディネーションの方々、通訳など、須賀川さんを支えるチームの皆さんの力が、映像の中に激しく表れているのを感じました」とまず何より、紛争地の最前線にたどり着き、そこでカメラを回せることのすごさ、チームの力の大きさについて言及する。

 須賀川は渡部の言葉を受け「ありがたいです。チームの力というのは、本当にその通りで、僕一人では何もできません。言語も軍の動きも分からないし、安全管理上も一人では足りない。チームあってこその現場取材なので、そこを感じていただけて嬉しいです」とうなずく。

 デーブは「(須賀川監督はロンドンではなく)実は赤坂にいるんじゃ?」「TBSのセブンイレブンで見かけた」「ロンドンにいるなら、ウエンツ瑛士に会ったことがあるか聞きたい」などとボケを散りばめて笑いを誘いつつも、映画そのものについては「テレビで放送されるのは3~5分だけど、今回の映画では、本来テレビでは見られない取材の前後が見られる。大手メディアだからできることがある。支局を置き、運営費を掛けて、現地採用の優れた人を集め、コーディネーターやフィクサーなど命がけの人も必要でそれは簡単ではない。テレビ局だからできるということが忘れられている。メディアはある程度、規模がないとできないということが分かりやすく描かれていて、今、見る価値、知る価値があると思う。紛争地の現地の方がiPhoneで撮って上げたり、ワンマン取材の方もいるけど、チェックやアレンジは簡単ではない。いまも、ある程度のレベルの取材力が必要で、それを実感しました」とテレビ局の記者である須賀川だからこそなしえた作品であり、大手メディアの存在意義を示している作品であると強調する。

 須賀川はデーブの言葉に深くうなずき「会社のコネクションやネットワーク、資金もそう。逆に、(資金力のある)テレビ局や大手メディアはこれまでもっと現場に行くべきだったし、これからは行くべき。安全はお金で買える部分もある。余裕を持ってお金が出せるのが大手メディアであり、あるリソースは使っていかないと、伝えられることも伝えられなくなる。個人でも発信はできるけど、何が本当でどれがフェイクか分からない。アフガニスタンでも時期が違う映像が流れたり、イエメンのことがシリアでのこととして流れていたりする。見ている視聴者はよほどの知見がないと真偽を判断できない。(大手メディアに属する)僕たちの役割はまだちゃんと残されてる。だからこそ、謙虚に続けていかないと」と真摯に語った。

 一方、デーブは、記者がメディアと契約して現場に赴くアメリカと異なり、日本の記者は会社に属する“サラリーマン”であることも多く「コンプライアンスもあって、どうしても、危なくなると引き上げてしまうイメージがある。雇う側の気持ちもあるし、(現場の)残してほしいというジレンマもあると思う」と指摘。

 これに須賀川は「会社の判断は分からないけど、今回の映画の一連の紛争地取材が良い例になればと思います。語弊を恐れずに言えば、ある程度、安全はお金で買うことできるんです。防弾車両を用意したり、長距離移動の際に車列を組んだりすればいい。そうするとドライバーも複数必要だし、防弾車両も1日で数千ドルかかるけど、でもそのお金を使うことによって、ちゃんと現場で起きてる実態を伝えることできると分かれば、今後もっと『現場に行こう!』という風潮になると思う」と応じる。

 この“危機管理”の重要性については、取材経験の長い渡部も「紛争地の前線で、いかに自分で危機管理を足下に引き寄せるか? 現地で生まれ育ったガイドさん、通訳やドライバー、数字や理論だけでなく、その国で生まれ育った方だからこそ感じ取れる危険や情勢の変化、そうした現地の人とのチームが組み立てられることができれば、安全な選択肢を引き寄せることができます。絶大な信頼関係のある、地域を知り尽くした方とのつながりを持っておくことも大切な危機管理の入口です」と強調する。

 またデーブは、取材をし、視聴者にニュースを届けることはできても、その場で直接、現地の人々に助けの手を差し伸べることができない取材者の葛藤についても言及。「須賀川さんは『視聴者以外にNGOやNPO、政府関係者も見るから』と言ってました。具体的にご自分のレポートがどういう影響をもたらすことを期待していますか?」と須賀川監督に質問。

 須賀川は「視聴者に届けるのは大前提だけど、そこで終わっては絶対にダメだと思っています。支援につながったり、(ニュースを通じて)議論が巻き起こって、結果的にそれがそこに住んでいる人にとって良い方向につながればいいというのが僕の明確な最終ゴール。将来的に紛争がひとつでも少なくなり、難民になる人がひとりでも減ればいいなと思っています。視聴者の“先”を常に見ています」と自身の思いを口にした。

 さらにデーブは、須賀川の取材姿勢として「感心したこと」として、タリバンやガザ地区の責任者など、様々な立場の人々にも取材を申し込んでいる点について言及。「須賀川さんの気持ちや感情はもちろん入るんだけど、いろいろな関係者の意見を冷静に聞いているところはさすが!」と称賛を送る。

 須賀川はこの点について「言葉の選び方はすごく意識しています。アメリカのニュースではウクライナの戦争の話でも、“敵味方”という言い方をするけど、それはダメ。日本だからこそ報じられる立場があると思うので。“公平公正”なんて詭弁であって、本当はないと思っているけれど、そうであるなら、できるだけ多角的に報じたい」と自らのスタンスを明かす。

 そして「ガザ地区の話であれば、ハマスとイスラエル軍、どちらの話も聞いたけど、どちらもあまり答えてはくれないので、そういうときは汚いやり方だけど、イスラエル軍には『ハマスはもう答えてくれているよ。このままだとハマスの意見しか流れなくなるけど良いんですか?』と言うし、逆も然り。そこはシビアに攻めていかないと、アポは取れないです」と取材現場の厳しさの一端をうかがわせた。

 また、トークの中ではウクライナ戦争の現状についても話題に。渡部はウクライナで起きている戦争について「いままでの戦争とは違った、完全な侵略戦争。100年前の第1次世界大戦、第2次世界大戦の侵略戦争の残虐さがウクライナ全域で現実に確認されています。戦争犯罪、大量虐殺(ジェノサイド)が、今私たちが生きている2022年12月に起きているという現実――いままでの戦争と違う残虐性が際立っていると感じる」と指摘。

 その言葉を受け須賀川は「一方で難しく感じる部分もあって、日本にもクルドやシリアの難民がたくさん来ていますが、彼らに対する眼差しと、ウクライナからの難民への眼差しが全然違います。それはイギリスでもそうで、ウクライナ難民への優遇措置はよいことだと思います。現在進行形で難民になっている人を助けることは悪いことじゃない。だからこそ、これをきっかけに、シリア、イエメン、イラクなど、いろいろなところからの難民への見方も変わってくるといいなと思ってます」と訴えた。

 須賀川は改めて「いまの若い世代は、なかなかテレビを見ることがないと言われますが、この映画やYouTubeなど、いろいろな媒体を通じて見て、興味持ってもらえたら。そういう人が増えて、なんらかの支援につながったり、議論につながったらいいし、感じ方はそれぞれですが、日本の若者、視聴者をかき回したいという思いがあります」と本作をアピールし、トークは幕を閉じた。

須賀川 拓(監督)
 1983年3月21日生まれ、東京都出身、オーストラリア育ち。2006年TBS入社、スポーツ局配属。2010年10月報道局社会部原発担当、警視庁担当、「Nスタ」を経て、現職(JNN中東支局長)。担当した主な作品は、レバノンの麻薬王を追った「大麻と金と宗教」、封鎖のガザで生きる起業家に密着した「天井の無い監獄に灯りを」、ガザ紛争の戦争犯罪を追及する『戦争の狂気 中東特派員が見たガザ紛争の現実』。その他にも、ベイルート港の大爆発後メディア初となる爆心地取材や、タリバン幹部への直撃インタビュー、アフガニスタンでタリバンのパトロールの密着等。最近はテレビでは伝えきれない紛争地の生の空気や、戦争で生活を破壊されてあえぐ一般市民の声をTBS公式YouTubeで積極的に配信している。2022年、国際報道で優れた業績をあげたジャーナリストに贈られる「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞。

登壇者:渡部陽一(戦場カメラマン)、デーブ・スペクター(放送プロデューサー)、須賀川 拓監督 ※リモート参加

 TBSテレビ特派員として現在ロンドンを拠点に世界の紛争地を取材し、国際ニュースでは知りえない圧倒的なリアル、真実を我々に届けてくれる須賀川 拓監督が、公開に合わせて緊急帰国。さらに須賀川監督と一緒にトークを展開するゲストが決定‼ジャーナリストの青木 理、村山祐介、綿井健陽に加え須賀川 拓監督、ウクライナ出身の政治評論家のナザレンコ・アンドリーら超豪華なジャーナリストたちが登壇する貴重な機会に、生須賀川&ゲストとのトークショーをぜひ堪能してほしい。

【日時・会場】
 ①12月16日(金)
 [会場]東京:角川シネマ有楽町
 [時間]15時30分の回(上映後)
 [登壇]須賀川 拓(監督)、青木理さん(ジャーナリスト)、村山祐介さん(ジャーナリスト)(以上予定)
 [チケット発売]
 ▼オンライン販売(外部サイト)

角川シネマ有楽町

 [お問い合わせ]TEL:03-6268-0015 HP:https://www.kadokawa-cinema.jp/yurakucho/(外部サイト)

②12月16日(金)
 [会場]東京:ヒューマントラストシネマ渋谷
 [時間]18時30分の回(上映後)
 [登壇]須賀川 拓(監督)、村山祐介さん(ジャーナリスト)、綿井健陽(ジャーナリスト)(以上予定)
 [チケット発売]
 ▼オンライン販売(外部サイト)

404 Error |テアトルシネマグループ

   [お問い合わせ]TEL:03-5468-5551 HP:https://ttcg.jp/human_shibuya(外部サイト)

③12月17日(土)
 [会場]東京:角川シネマ有楽町
 [時間]10 時30分の回(上映後)
 [ゲスト]須賀川 拓(監督)、ナザレンコ・アンドリー(政治評論家)、秌場聖治(TBSテレビ 外信部長)(以上予定)
 [チケット発売]
 ▼オンライン販売(外部サイト)

角川シネマ有楽町


 [お問い合わせ]TEL:03-6268-0015 HP:https://www.kadokawa-cinema.jp/yurakucho/(外部サイト)

④12月17日(土)
 [会場]東京:角川シネマ有楽町
 [時間]13時20分の回(上映後)
 [ゲスト]須賀川 拓(監督)、ナザレンコ・アンドリー(政治評論家)、秌場聖治(TBSテレビ 外信部長)(以上予定)
 [チケット発売]
 ▼オンライン販売(外部サイト)

角川シネマ有楽町


 [お問い合わせ]TEL:03-6268-0015 HP:https://www.kadokawa-cinema.jp/yurakucho/(外部サイト)

(オフィシャル素材提供)

公開表記

 配給:KADOKAWA
 12月16日(金) 角川シネマ有楽町ほか全国順次公開

関連作品

スポンサーリンク
シェアする
サイト 管理者をフォローする
Translate »
タイトルとURLをコピーしました