イベント・舞台挨拶

『レッド・ロケット』トークイベント

©2021 RED ROCKET PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

 アカデミー賞®にノミネートされた『フロリダ・プロジェクト真夏の魔法』で全世界の映画ファンから熱狂的⽀持を集めたショーン・ベイカー監督の新作『レッド・ロケット』が4⽉21⽇よりヒューマントラストシネマ渋⾕、シネマート新宿ほかにて公開となる。

 A24が北⽶配給、カンヌ国際映画祭コンペティション部⾨で上映され、ショーン・ベイカーの新境地であると⼤きな話題を呼んだ本作は、⼝先だけの元ポルノスターを主役に、社会の⽚隅で⽣きる⼈々を鮮やかに描いた、ひとクセありのヒューマン・ドラマ。

 本作の公開を記念して、4月14日(金)にFilmarks会員限定のプレミア試写会を開催! ひと足先に40名が本作を鑑賞し、上映後にはコラムニストの山崎まどか氏とライター/編集者の月永理絵氏によるトークイベントが実施された。
 山崎氏と月永氏のふたりからは、ショーン・ベイカー監督の新境地であり原点回帰ともいえる本作について、過去作品との比較も交え、率直な思いも明かしながらキャスティングや撮影技法にまで細やかに語られ、映画ファン必聴のひと時となった。

「どんなひとでも生きている」。
美化せず、憐れまず、馬鹿にしない。登場人物を裁かない、ショーン・ベイカー映画の流儀

 ショーン・ベイカー監督自身「議論につながる作品にしたかった」と語る本作。
 鑑賞を終えたばかりの観客を前に、月永氏が「実は最初に本作を観た時、『これはやっかいな映画だな』というのが率直な感想だったんです。ショーン・ベイカー監督の映画は、過去作品の『チワワは見ていた ポルノ女優と未亡人の秘密』『タンジェリン』『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』も大好きなんですが、『レッド・ロケット』はこの主人公のマイキーというどう考えても完全に最低な人を、どう受け止めたらいいんだろう、と戸惑いました。でも段々と、やっぱりこの人を愛してしまうな、という不思議な気持ちを抱きました」と振り返った。山崎氏も初鑑賞時の複雑な心境を思い浮かべながら、「皆さん“どう判断していいんだろう”と考えているところだと思いますが……(笑)。この設定からして主人公が最低な人なのは理解できるとしても、この人が良く描かれるのか悪く描かれるのか分からないんですよね。ショーン・ベイカー監督はどちらにも取れるように描きますから。つまり、人が持っている魅力みたいなものを隠さないんです」と語った。続けて、「マイキーがどういう人間なのかを一言で表すと、もちろんナルシストや自己本位と言えるんですが、たぶん“人たらし”という言葉がぴったりだと思うんです。チャーミングなんですよね。自分のために平気で人を陥れるようなひどい人をチャーミングだなんて思っちゃいけないのかもしれないけど、彼が今まで生き延びられてきたのは、そのおかげでもあると思うんです」とキャラクターを分析した。
 月永氏が「『タンジェリン』『フロリダ・プロジェクト~』はどちらも社会の片隅で生きているような、どこか問題を抱えた人たちを描いてはいますが、観ているうちに観客が彼女たちに感情移入・共感をしていく作品でした。でも本作では、“人たらし”の部分を剥いでいくとどんどん最低な部分が見えてくる、しかも明らかに女性にとっては有害である人物を主人公にしていて、おそらく批判と称賛の両方が来るだろうというのは監督自身かなり覚悟していたようです。ただ、結果的には、監督が思っていたよりは批判的な意見は少なかったみたいです」と本作をベイカー監督の過去作品と比較すると、山崎氏は「それはひとえに、マイキーは小さなところで勝者に見えても、実は敗者、弱者であるということが理由だと思います。『タンジェリン』も『フロリダ・プロジェクト~』も、セックス・ワーカーの話で、主人公たちが女性だったので立場が分かりやすかった。今作のマイキーもセックス・ワーカーで、社会的地位は低く、抹殺された存在です。自分の性や魅力を切り売りして生きている人間として考えてみると、同じだなと感じました。男性だから強者にも見えますが、はっきりとそういう人間としては描かれていない。ひどい男だけど、とても愚かでもあって、浅はかでもある。彼自身も持たざるものであって、何かを頼りに生きて行くしかない。倫理的に許せないと言っても、その「倫理」だって、普通の職業で食べていける人間側の倫理かもしれないですよね。いわば中産階級的な倫理観で、それで簡単にマイキーを裁くことはできない。もちろん彼みたいな人間に食い物にされる人たちもいるわけで、それは許してはいけない。でも、簡単に『この人は有害な男性。最低で自分本位。生きていてはいけない』とはとても言えない。ベイカー監督の映画は“どんな人も生きている”ということを見せる作家で、私は今作もそれは変わらないと考えています」「監督の人間に対する視線は柔らかい。今作もマイキーに限らず、登場人物はみんな底辺の人たちで、彼らの倫理や論理は私たちには分かりにくいところがあるんですが、そういう人たちを美化するでもなく、憐れむでもなく、馬鹿にもしていない」と、過去作から本作まで一貫するベイカー監督の作家性を語った。月永氏も、「今作はコメディ・タッチで、ここぞという場面にふざけているとしか思えないようなズームやアップを使って、明らかに過去作品より笑いの要素を増やしていますが、ただ確かに、誰かを笑い者にするのとは違いますね。マイキーという、口が達者で適当なキャラクターによって、どこか呆れながらも笑ってしまうような」と、本作の独特なコメディ要素について分析した。

これはマイキーの話だが、彼の妻レクシーの物語でもある。

 ショーン・ベイカー監督の最大の特徴のひとつといえる、演技未経験者やロケ地の実際の住民をスカウトする「ストリート・キャスティング」にも話が及び、実在感たっぷりの個性的なキャストが生み出すアンサンブルも重要なポイントだと語られた。月永氏は「映し方や物語の在り方を見ても、主人公一人の映画ではなく、周囲の人たちにも同じくらい光が当たっています」と、山崎氏は「集団劇になっていますね。ただ、ウィレム・デフォーがヒューマニティを象徴する存在として登場した『フロリダ・プロジェクト~』と違って、今作はそういった安心して観られる補助板のようなものがない。そこが賛否両論を呼ぶところで、だからこそ揺さぶられるのだと思います。本気で主人公に腹が立つ人もいるだろうし、それもおかしくないと思います。でも補助なしでもこういう人間を描くということが成り立つという自信が監督にはあったんじゃないでしょうか」と語った。
 インディペンデント・スピリットアワードの主演男優賞の受賞ほか世界中で絶賛を浴びた主演サイモン・レックスの熱演について、山崎氏は「彼の代表作は『最‘狂’絶叫計画』で、『絶叫計画』シリーズの3、4、5。1でも2でもない(笑)。それでも業界でやっていけるくらいの知名度だったんですが、無名時代に出演したポルノ映像が流出して、一度キャリアはつまずいたんですよね。そんな彼を起用したというベイカー監督がすごい。サイモン・レックスも役をもらってすぐに心を入れて、エージェントにも言わずに出演を決めて、撮影現場に来たときには、マイキーの膨大な台詞が全部頭に入っていたそうなんです。それは感動的ですよね。こんな魂がないような男を、彼は魂を入れて演じている。『これが自分の役なんだ』というサイモン・レックスの祈るような気持ちというのが、最低な男に輝きを与えているんです」と語った。
 キャストたちの演技や撮影、演出によって醸しだされる、登場人物たちそれぞれが抱える複雑な人生や背景について、月永氏は「もちろんこれはマイキーの話ではありますが、彼の妻レクシーの物語でもあるんです。彼女の物語も同時に見えてくるところがとても素晴らしいなと思いました。本作はズームがよく使われていますが、マイキーがひたすら自分のことをしゃべりまくっている間、実はカメラがふと捉えるのは、マイキーではなくレクシーの顔だったりするんです。ピントもマイキーがしゃべっている間に、レクシーに合っていたりする。この映画の中ではっきりとは描かれませんが、彼女が歩んだ何十年間が徐々に浮かび上がってくるんですよね」と語った。
 30分間にわたって本作の魅力やベイカー監督の作風を語り合い、最後に、月永氏は「ベイカー監督の映画って、人が歩いているだけでどうしてこんなに魅力的なんだろうと思うんです。歩いているところをずーっと見ていたくなるくらい。マイキーと妻レクシー、義母リルがドーナツ屋さんを往復しているだけのところでも、『ああショーン・ベイカーの映画は“歩く映画”だな』と思いました。この映画が本当に面白いのは、両方に引き裂かれるところだと思います。マイキーは憎たらしいし、最低の男なんですが、どうしようもなく惹かれてしまう。ちょっと複雑な思いもありましたが、やっぱりいい映画だなと思いました」と語った。山崎氏は「映画を観て本気でマイキーを嫌いになる人って、マイキーを好きになりそうなところがあって、『好きになってはいけない』と思うから余計嫌になってしまうのかもしれませんね。でも補助線を引かれてもいなければ、善悪もない世界の中で、人間を魅力的に描いている作品で、私自身はすごく好きです。アンビバレントな気持ちで帰ってほしいですね」と観客へ語りかけ、締めくくった。

 登壇者:山崎まどか(コラムニスト)×月永理絵(ライター/編集者)

公開翌日となる4/22(土)には、ヒューマントラストシネマ渋谷にてショーン・ベイカー監督によるオンライン舞台挨拶を開催!

 アカデミー賞®ノミネートほか世界中の映画賞を席捲した前作『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』の日本公開から約5年、待望の最新作となる本作『レッド・ロケット』。ショーン・ベイカー監督の新境地であり原点回帰ともいえる本作は、社会の片隅に生きる登場人物たちを生き生きと映し出す丁寧な描写、彼らを取り巻く厳しい現実をもユーモアをもって語る独自の視点、アメリカの広大な空や風景をまぶしいほど鮮やかに切り取ったシーンの数々など、“これぞショーン・ベイカー監督作品”という彼らしさが凝縮された一作となっている。日本の映画ファンからも熱狂的な支持を集めるベイカー監督がオンライン登壇するという貴重な機会となる今回、ベイカー監督に答えてもらいたい質問を事前に応募フォームから一般募集。当日、時間の許す限り監督が返答する予定だ。
 本作の舞台は2016年のテキサス。2016年といえばアメリカでトランプ大統領が選挙で誕生した年だ。その選挙期間中の設定である本作は、コロナ禍まっただ中で撮影・制作が行われた。そんな本作に監督が込めた思いや撮影時のエピソードなどを監督から直接聞くことのできる、映画ファンには絶対に見逃せない機会になっている。質問の〆切は4/21(金)23:59。

『レッド・ロケット』公開記念 ショーン・ベイカー監督 オンライン舞台挨拶

 日時:4月22日(土)、10:00の回 上映終了後(上映時間130分)
 場所:ヒューマントラストシネマ渋谷 スクリーン:シネマ1(東京都渋谷区渋谷1丁目23-16 ココチビル 8F)
 登壇:ショーン・ベイカー監督(オンライン)
 チケット発売中:劇場窓口もしくはオンライン(上映開始の20分前まで:https://ttcg.jp/human_shibuya/(外部サイト))にて
 料金:通常料金 ※各種割引適用可 ※特別興行につき、株主優待券、各種ご招待券はご利用いただけません。
 監督への質問応募フォーム:https://docs.google.com/forms/d/1CssahJGsT-(外部サイト)

公開表記

 配給:トランスフォーマー
 4月21日(金)、ヒューマントラストシネマ渋⾕、シネマート新宿ほか全国順次公開

(オフィシャル素材提供)

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