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片渕須直監督最新作『つるばみ色のなぎ子たち』MAPPA STAGE 2023 ステージ

©つるばみ色のなぎ子たち製作委員会/ クロブルエ/©The Mourning Children Production Committee/ KUROBURUE

 死んだら人はどこへ行ってしまうのだろうか。消えてしまうのだろうか。
京都で死者数万人、死体は山に置かれ、町の外には野犬が蔓延る――。
煌びやかな十二単に身を包み風情を重んじ和歌を詠んで蹴鞠を蹴りながら優雅な日常を送る。
教科書に記されたそんな千年前の姿。けれど、旅路の最中見えてきたのはもっと異なる新しい景色でした。
彼女たちの軌跡を拾う千年の旅路に挑む片渕須直監督最新作『つるばみ色のなぎ子たち』。

©つるばみ色のなぎ子たち製作委員会/ クロブルエ/©The Mourning Children Production Committee/ KUROBURUE

 5月21日(日)に都内で開催されたアニメーションスタジオ MAPPA主催のスペシャルイベント「MAPPA STAGE 2023」にて、片渕須直監督と大塚学プロデューサーが登壇し、トークセッションを開催。
 会場に訪れた5000人を超えるアニメ・ファンの前で、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(2019)ぶりとなる、片渕須直監督最新作『つるばみ色のなぎ子たち』に関する情報が解禁された!
 MCの呼び込みで片渕須直監督と大塚学プロデューサーが登壇すると会場は大きな拍手に包まれた。

まず挨拶をお願いいたします。

片渕:この映画は2017年に構想を始めて、既に6年になるのですが、やっと「題名」を皆さんに発表できるところまでたどり着きました。もちろん、映画を作るだけではなくコントレールという会社・スタジオ自体を作って、この映画のためのスタッフを養成しながらここまで来たという年数でもあります。
大塚:MAPPAの代表兼コントレールの代表でもある大塚です。この度はMAPPAステージに足を運んでいただきありがとうございます。最後まで楽しんでください。

MAPPAとは別に「コントレール」という会社を立ち上げた意図について

大塚:実は片渕監督は僕よりMAPPA歴が長いんです。片渕監督は僕が入社した時からずっと『この世界の片隅に』の映画作りを丸山(現MAPPA代表取締役会長)と一緒にやっていて、僕はテレビシリーズの方をたくさん作っていました。
 それが2016年の『この世界の片隅に』の公開と僕が社長をやらせていただく、というところで交わっていきました。
 その結果、MAPPAはいろいろな監督・クリエイター・役者・原作といろいろな作品を作るスタジオですけど、片渕監督の作品作りをMAPPAの一本の“ライン”として作っていくことに「この世界の片隅に」で限界を感じました。片渕監督の作品を作る、そのためのスタジオを新たに作ろう!と2019年に始まったのがコントレールです。

 その後、会場では題名公開PVが上映され、ティザービジュアルと共に作品タイトル「つるばみ色のなぎ子たち」が発表された。

『つるばみ色のなぎ子たち』はどんな作品でしょうか?

片渕:平安時代の話ですけど、ご覧頂いた今のビジュアルでも分かる通り、雅やかな十二単を着ていないグレー色です。「つるばみ」というのはクヌギのどんぐりのことです。どんぐりの上には帽子があるんですけど、その帽子を集めると黒い染料になります。黒つるばみ、というのは布を黒く染めた、つまり喪服の色のことです。
 「なぎ子」というのは以前作った『マイマイ新子と千年の魔法』(09)という映画があるんですが、その映画には“千年前の少女なぎ子ちゃん”という子が出てきます。彼女と関係があるかもしれません。
 もうひとつ、今回は海外にもお伝えするために英語のタイトルも作りました。「Mourning Children」、Mourningというのは朝という意味ではなく「喪に服す」という意味です。「Nagiko And the Girls Wearing Tsurubami Black」、日本語でいう「たち」は英語のタイトルでは「Girls」です。なぎ子と少女たち、そして喪に服す子どもたち。そういういろいろな内容についての片鱗を散りばめました。今日はここまでに留めたいなと思います。
 また、平安時代というのは、色とりどりの十二単を来て、歌を詠んでのどかに暮らしていたのではないかと思われるかと思いますが、今ご覧いただいたように喪服を常に着ていて、その喪服を脱げないような時代でもありました。つまり常に人が次々と亡くなっているから喪服が脱げない時代でした。そういうことを我々はひとつひとつ当時の時代ってこうだったんだなと解き明かして、じゃあその中にいる人たちってこんなふうだったんじゃないかな、というところから物語を起こしています。
大塚:平安というと歴史の勉強をしないと見られないようなものなのかな?と僕も最初は思ったのですが、本当にとっても尖った映画。現代の物語としてもヒリヒリするようなものだなと思って非常に楽しみだと思っています。

スタッフ陣についてもお聞きしたいです。

片渕:監督補の浦谷千恵さんは『マイマイ新子と千年の魔法』から『この世界の片隅に』『BLACK LAGOON』でも監督補として一緒にやってきました。
 作画監督は安藤雅司さん。安藤さんはかなり昔に一度仕事したことがあったのですが、本格的にタッグを組ませていただくのは初めてです。『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』、最近出た『鹿の王 ユナと約束の旅』(21)も作っていらっしゃる作画の大ベテランです。
 今日のタイトルを発表する時にかかっていた印象的な曲なのですが、これは千住 明さんの作曲によるものです。千住さんとは平安時代をどんなふうに音楽として作るのか一緒に研究させていただいているんですけど、何よりも2000年に作った『アリーテ姫』(※劇場公開は2001年)という作品で初めて仕事させていただいて、世界を描く客観性というものが秘められている作りに、今回はまさに千住さんがぴったりだと思ってお願いしました。今まで自分が仕事させていただいて、この作品にはこういう人たちと一緒にやりたいなと思った人たちに集まっていただきました。

 その後、会場ではコントレールのスタッフたちとの制作風景を収めた映像が放映された。色とりどりの十二単を実際に着用したり、現代と違って電気が通っていない平安時代の松明を実際に実践している様子や、「つるばみ色」の染色に挑戦する様子も収められ、それらがアニメーションに落とし込まれていく過程を垣間見ることができた。

深いリサーチの上で制作されているんですね。

片渕:そうですね。最後にやっていたのは十二単を来て、歩いてきて座れるのかな?という実践をしました。初めはコスプレ衣装の十二単を着ていたのですが、本物とは全然大きさが違うので次には正しい大きさのものを取り入れてやってみたんですけども、それをするのがうちのスタッフだもので座る時にモタモタして上手くいかなかったんです。そこで狂言を演じておられる日本の古来の身のこなしを普段から行っておられる方にお越しいただいて、十二単を着て座っていただいたらスっと一挙動で座られました。着慣れているというのはこういうことなんだなと思いました。
 松明は棒に布が巻いてあって、その布に油が浸してあって、それが燃えるのかなというイメージがあるのですが、実際は全然油は使わないんです。中で松とか杉とかの葉っぱが燃えていて、いろんな配合でどれくらい燃えるのかなと試してみたのですが、ビックリするくらい長く燃えて驚きました。それを僕と安藤(作画監督)くんが持って歩いているフリをしている映像があったのですが、松明を持って歩く時に、どうやって火を揺らさないように歩くのかな、というところから作画に起こすということをやりました。
 あと虫の培養をやっていました。平安時代に黒つるばみの服を着ているのと関係があるのですが、マラリアが流行ってたくさんの方が亡くなっているんです。マラリアは蚊が媒介するのですけど、蚊の幼虫はボウフラです。会社の中でボウフラを養殖して、それを観察してそこから作画を起こしました。(会場からは小さく悲鳴が起きる)めちゃくちゃ大変ですが、想像で描くのと違っていて、それを描いていたスタッフはコントレールで初めて仕事を始めた新人の方だったんですけど、そういうふうに原画を描くまでに成長しました。
 ひとつひとつのことは画に起こしていたら通り過ぎてしまうようになるかもしれないんですけど、以前作った『この世界の片隅に』がひとつひとつ戦争中のものを解き明かして画にしていった時に、そこに住んでいる、その中に生きていた人たちの気持ちとか人間性が分かってきました。今回も調べていく中で1000年以上前の遠い昔の平安時代に住んでいた人たちが、我々とどこが同じでどこが違うのかというのが見えてきて、その見えてきた人々の物語にしたいなと思っているわけです。

作品への意気込み

大塚:見ていただいた通り、アニメのスタジオって机に向かって画を描いているイメージが多いとは思うのですが、本当に1000年以上前に生きた人たちを研究して実践して体感して、それを画にしていくという作業を今現場の人たちはしてくれていて、その説得力はスクリーンでも伝えることができるんじゃないかなと、今からでも自信があります。ぜひ公開を楽しみにしていてください。


片渕:「絵を描く」というその前に、「何を描くのか?」というところから始めていて。それだったらこんなふうに書いていくべきだなという発見から始めていってるスタジオです。そういうことをやっているからではなく、これから画面を作っていくのに大変な作業が待っているので、題名をお披露目しましたけれど、完成はまだまだ何年かかかることになる……(大塚:あんまりかかると困っちゃいます!)かからないようにしたいけど、かかってしまうことになるんです。そういう時に一緒に仕事してくださるスタッフを募集しながら、まだまだ人の層を厚くしながら作っていきたいと思います。
 「コントレール」というのは飛行機雲という意味なんですけど、僕は早いものでアニメーションを始めて40年以上経って、60歳を超えてしまったのですが、そんな50代・60代のベテランと20代の若い人たちが一緒にやっていくスタジオです。僕たちは前を飛んで後ろに飛行機雲を残すけど、それを自分の糧にして成長して頂いて素晴らしいアニメーション映画の作り手たちになってもらえるといいなと思って若い人たちと仕事をしています。まだまだそういう人たちと仕事をしていって、完成するまでには時間がかかりますけども『つるばみ色のなぎ子たち』をよろしくお願いいたします。

 片渕と大塚が観客の盛大な拍手と共に見送られ、イベントは終了となった。

 登壇者:片渕須直(監督)、大塚学(プロデューサー)

キャスト&スタッフ

 原作・監督・脚本:片渕須直
 監督補:浦谷千恵
 作画監督:安藤雅司
 制作:コントレール

 (2023年、日本)

オフィシャル・サイト(外部サイト)

映画「つるばみ色のなぎ子たち」公式サイト
千年前の記憶に思いを馳せ、片渕須直監督最新作「つるばみ色のなぎ子たち」

公開表記

 配給:コントレール

(オフィシャル素材提供)

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