インタビュー

H・P・ラヴクラフト原作『宇宙の彼方より』フアン・ヴ 監督 オフィシャル・インタビュー

©SPÄRENTOR, Studio / Produzent / Cinemago

 2023年6月3日(土)より下北沢トリウッドほかで全国順次公開を迎える映画『宇宙の彼方より』を手掛けたフアン・ヴ監督のオフィシャル・インタビューが公開された。また、第2弾応援コメントも到着いた。

 『宇宙の彼方より』は、クトゥルー神話の生みの親として知られるH・P・ラヴクラフトが1927年に発表した小説『宇宙の彼方の色(原題:The Color Out of Space)』を原作としたドイツ映画。
 本作は「映画史上、最もラヴクラフト=“原典”の魅力を忠実に描いた作品」という呼び声も高い。クトゥルー神話を愛するベトナム系ドイツ人のフアン・ヴ監督は“原典”を崇拝しつつも、ラヴクラフトが唱えた“宇宙的恐怖”をより拡大すべく、フアン監督の両親が移民を決意したベトナム戦争下の1975年のアメリカと第二次世界大戦下のドイツを新たに作品の舞台にするなど、独自の解釈を盛り込んだ野心作だ。
 製作から10年経った今なお、ヨーロッパの数多くの映画祭に入選。2022年11月に開催された28年の歴史を持つフランスの映画祭、レトランジュ・フェスティバル・パリでも上映されるなど、今も世界各地を魅了し続けている本作が、原作小説発表から95周年の現在、ついに日本の劇場へと辿り着いた。
 今回の劇場公開にあたり、新字幕監修を日本のクトゥルー神話研究の第一人者にして作家の森瀬 繚が担当。より鮮明となった『宇宙の彼方より』の恐怖が今、日本に襲いかかる!

脚本/監督/編集:フアン・ヴ

 1982年生まれ、西ドイツ・シュトゥットガルト出身。
 1970年代にベトナムからの留学生として渡独、サイゴン陥落後もドイツに滞在した両親のもとに生まれ、幼少期は国境による分断と民族アイデンティティについて葛藤する日々を過ごした。
 2008年にシュトゥットガルト・メディア大学在学中にフアンは、人気TRPG「ウォーハンマー40,000」を原案としたファンフィルム「Damnatus」を制作。長編第2作『宇宙の彼方より』は2010年に完成。複数の国際ジャンル映画祭で賞を獲得した後、北欧や北米にて自主流通で販売された。(現在は廃盤となっている)
 現在、ラヴクラフトのクトゥルー神話を原作とした新作『The Dreamlands(原題)』を制作中。

『宇宙の彼方より』がどのようにして制作されたのか教えて下さい。

 プロデューサーであるヤン・ロスとの出会いがきっかけです。
 ヤンは、日本IBM会長、マーティン・イェッターなどを輩出したシュトゥットガルト大学で出会った親友のひとりで、映画、漫画、ボードゲームなどの趣味が同じで直ぐに意気投合しました。彼は学生時代から書物を熟読するほど、怪奇SF作家、H・P・ラヴクラフトの大ファンでした。一方、私はメタリカの曲「The Call of Ktulu」やドラマ「Xファイル」やTRPGのような、影響を受けたポップ・カルチャーを通してラヴクラフトを知っていた程度でした。
 私たちは当時、同じVFXの会社でインターンとして働いていました。会社に向かう電車の中でヤンがくれたラヴクラフトの小説を読んでいました。会社に着き、ヤンが私の隣に座ると、車内で読んだばかりの物語について彼と話すのが日課になり、ラヴクラフトの世界に夢中になっていきました。
 しばらくして卒業制作としてラヴクラフトの映像化の企画がどちらからともなく上がりました。しかし、大学生が映画を作るには規模が大き過ぎる。結局、自分たちでスタジオを立ち上げた後、映画に着手をしました。
 私がヤンに「すごいぞ、この物語はこれまで読んだ中で最高のものだ」と話したのは、『宇宙の彼方の色』を読み終えた日のことです。色彩の物語がとても気に入り、それからすぐにどんな映画になるか考え始めました。
 「信じられないものを見た」という描写をどのように映像化すべきか。白黒で作って部分的に色を付けようというアイデアが出てきました。 その時点では何色なのかは決まっていませんでしたが、このような流れからすべてが始まったのです。

原作小説に記された「色」を映像化するにあたり、どのような苦労がありましたか。

 本作に登場する「色」という抽象的な恐怖対象を、視覚効果によってどこまで印象的なものを作れるかが課題でした。 まず頭に浮かんだのは、アニメ映画『ヘヴィメタル』(1981)に登場した、泡のような緑色の球体です。 この映画を10代の頃に観て、緑色の球体を何か邪悪なイメージとして思い出しました。ラヴクラフトの著述した「色」にも近い印象を受けました。
 しかし、それを再現するのに当時は莫大な時間を要し、諦めざるを得ず、泡の塊が固まりになって動くという描写が精一杯でした。今ならヤンがハリウッド超大作でやっているように、「色」にもっと細かい動きをつけたり、エフェクトをかけることができます。
 私たちが頭で考えていた通りのものが描けなかったので、この15年で我々が身につけたノウハウと最新のテクノロジーを駆使して、新しく作り変えたいと今でも悩むことがあります。
 しかしながら、この映画は、2008年に作られた思い出として作り直さないほうがいいのかもしれない。かつてジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ』(1977)に最新のCGを加え、特別版として1997年に新しく作り変えましたが、それが映画にとって必ずしも良い結果を迎えないことは、すでにお分かりでしょう。

本作の視覚効果を演出したヤンさんは現在どのような仕事をされていますか。

 ヤンは現在もVFXの分野で活躍していて、シュトゥットガルトにあるRISE visual effects studiosで働いています。シュトゥットガルトにはアニメーションやVFXの制作スタジオが多く存在し、才能のある人々が集まっていますが、ヤンが勤めるスタジオは映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)、『エターナルズ』(2021)、ドラマ「ホークアイ」(2021)など、多くの大作映画に携わっています。視覚効果部門でアカデミー賞®を受賞するなど大成功を収め、ヤンは今も超大作のプロダクションに関わっていますが、機密保持によって明かすことができません。
 私が彼の仕事場へ打ち合わせをしに行くと、彼は私に見えないよう、自分のモニター画面のスイッチを切るか、何の仕事をしているのか隠さなければならないのです。あくまで想像ですが、まだ発表されていないマーベル・スタジオの新作でしょうね。

世界初の劇場公開を日本で行うにあたり、どのような心境ですか。

 この映画を完成させた当初、私は「日本でも多くの方に観てもらいたい」と考えていました。しかし言語の壁だけでなく、海外配給のパートナーを探すのにも難航し、完成から多くの月日が経過した中で「古い映画」となってしまったことから、次第に日本での劇場公開は諦めてしまいました。ですが今回、日本での劇場公開、それも“世界初”の劇場公開がついに実現できた。これ以上の嬉しいニュースはありませんし、10年以上も前に作られたこの映画が今、新たな観客の元に届けられるチャンスを得られたことは、本当に素晴らしいと感じています。

第二弾応援コメント

小川あん(俳優)
 SF映画として身構えていたら、遥かに超えてきました。クライム・サスペンスのようなオープニングに目が離せなくなり、退廃的な空間を彷徨うカメラ・ワークと物語の美しい構造に魅了される。そして現れる、紫の光。それこそがSFという名を被せた解明できない、フアン・ヴのセンスの塊。観客は確実にその光に取り込まれる。

田中晴菜(映画監督)
 まもなく水底に沈む寒村に古井戸、さらにその底に潜む何か。
 「色」と呼ばれたそれは、1927年に発表されたラヴクラフトの原作から、2010年フアン・ヴ監督によって引き揚げられ、今劇場の暗闇に蠢き、我々の前に迫り上がる。

小川深彩(映画監督)
 容赦なく襲いかかる静かで不可思議な恐れと絶望……。
 最後まで惹き込まれてやまないラヴクラフトの世界。
 こんなダークで美しいコズミック・ホラーを私はずっと待っていた。

永野絵梨奈(女優)
 白黒の世界の中、襲ってくる静かな恐怖……この作品はただのSF映画では無い。
 今までに感じたことの無い新しい映画体験をさせてくれる作品です。

公開表記

 配給:Cinemago
 2023年6月3日(土)より下北沢トリウッドほか全国順次公開

(オフィシャル素材提供)

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