イベント・舞台挨拶

『ティル』トークセッション

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 1955年に起こった14歳の黒人少年が殺された事件で、のちの公民権運動を大きく前進させるきっかけともなった「エミット・ティル殺害事件」を描いた映画『ティル』の試写会が11月30日(木)に開催。上映前に音楽プロデューサーの松尾 潔とフォロワー数7万人を誇る映画ライターのISOによるトークセッションが行なわれた。

 ひと足先に映画を鑑賞した松尾は「いままで、十分な知識がなかったんだと目を開かせてくれるような映画でした。(史実が)映画になったことで、つまびらかになることが、たくさんあると感じましたし、そういう感動や気づき、未来への眼差しを皆さんと共有できたらと思い、やってきました」と挨拶。

 ISOはSNSで7万人のフォロワーを抱える人気ライターだが、意外にもこうしたリアルな映画トークイベントに出席するのは今回が初めて。松尾とISOが、直接顔を合わせるのもこの日が初めてだが、2人は示し合わせたかのように、白いTシャツを着用し、足下はナイキの「エアフォース 1」(※黒人差別への抗議を示したことでNFLから事実上、追放されたコリン・キャパニック選手をナイキが広告に起用した)を履き、ブラック・カルチャーへの敬意、そしてブラック・ライブズ・マター(BLM)への共鳴を示す。

 ISOは映画を観て「エミット・ティルの事件自体は、ボブ・ディランの楽曲(『The Death of Emmett Till(エミット・ティルの死)』)で知っていましたが、その裏でこんなことがあったんだと改めて知りました。BLMの動きが大きくが広がったいま、作られるべくして作られた、見られるべき作品だと思いました」と語る。

 ISOは特に本作の映画としての魅力として「事件は非常に凄惨なのですが、この映画は焦点を凄惨な部分ではなく、(エミットの)母親のLOVEの部分に置いている」と指摘し、松尾も「そこに救いがありますよね」と頷く。

 つい先日、BLMのきっかけともなったジョージ・フロイド殺害事件で有罪判決を受けて服役中だった白人の元警官が刑務所内で刺されたことが報じられたが、ISOはこのニュースに触れつつ「そんなことをしても何もならない。ヘイトにヘイトで返しがちなこの時代に、ヘイトにLOVEで立ち向かうというこの作品に救いがあると感銘を受けました」と語る。

 松尾も、この映画で描かれている内容が、現代と“地続き”で考えることの重要性を指摘。エミット・ティルの殺害事件は、北部の都会に暮らすエミット少年が、母の故郷の南部を訪れた際に、白人女性に口笛を吹いたことから白人の怒りを買ってしまい起きた悲劇だが、松尾は「50年代のアメリカの歴史の話ですが、2023年のいま、東京でこの映画を観ることの意味――僕らがいま暮らしているこの時、この場所で、これをどう活かすのか? 分かりやすく言うと、この事件は、北部の黒人が、日常の延長でやった悪気のない所作、親愛の情を示すためにやったことが、南部では失礼であり、不敬罪にあたるとなり、ボタンの掛け違いで悲劇が起こるわけです。でもこれは、僕らが日常で体験していることだと思います。暮らす場所を変えたり、生業や学校を変えると、その地域のローカル・ルールがあって、前の流儀が通じないことがある。似たような体験を我々もしてるはずです」と語る。

 そして松尾は「似たようなことを我々は起こしちゃいけない。そのためにまず、起こったことから目を背けてなかったことにしてはいけない。起こったことを認識して、そこから何を学べるのか? 悲劇の連鎖を止めて、悲劇を悲劇で終わらせない。過去を変えることはできないけど、過去の“意味”を変えることはできると、この映画の制作者は言いたいと思うし、エミットのお母さんは、それを実行したということで、非常に勇気づけ、エンパワメントしてくれる」と熱く訴える。

 ISOは、BLMをはじめ、差別への抗議活動における、スマホとSNSの普及の影響についても言及。「BLMに限らず、差別問題に関して、スマホとSNSの普及はすごく大きい。差別というのは権力によるものであり、クローズドな場で暴力や差別が行われたら、必ず権力に有利に働いてしまうけど、携帯とSNSの普及でそれができなくなって、差別の抑止力となると同時に、かざすだけで防御になるようになったのはすごく大きい」と語る。一方で「間違った情報が拡散されることもある」とその功罪の両面を指摘。また、映画の中でエミットの母親のメイミーが、メディアをうまく利用して、抗議の声を盛り上げていく点についてもISOは「メディアを使って闘うというのは、現代のBLMと地続きで、現代性がある」と語る。

 松尾も「大衆の抗議運動が容易になったけど、代償として、真偽の入り乱れたニュースを取捨選択しないといけなくなって、かつてより複雑化している」と同意する。そして「いつの時代も正しいかどうかジャッジするのは難しい。肌の色で善玉・悪玉みたいな見方をしちゃうかもしれないけど、肌の色がどうであれ、みんな“普通の人”だと思うし、悪人に生まれたわけではなく、環境がそうさせたんだと思う。何が言いたいかというと、立っている場所によって、正しいか正しくないかは違って見えるということ」と語り、その上で「僕が、ひとつのヒントとして提案したいのは『Right(正しい)とWrong(間違っている)』、もしくは『RightとNot Right』ではなく、『フェアかアンフェアか?』で見た方が、まだ精度の高いジャッジができるんじゃないかということ」とフェアネス(公平さ)を基準に考えるという視点を提案する。

 松尾は音楽プロデューサーとして、本作で使われている音楽についても着目。「(グラミー賞受賞ミュージシャンである)ジャズミン・サリヴァンが、オリジナルの曲を歌っていて、それを世界No.1と言ってもいい、引っ張りだこのプロデューサーであるD’Mileが手がけています。この映画の音楽は、基本的に当時の音楽が多いんですが、そこに現代と地続きと示すかのように、現代のトップ・ランナーが起用されているわけです」と制作陣の意図を汲み取る。

 ジャズミン・サリヴァンがグラミー賞最優秀R&Bアルバムを受賞した「Heaux Tales」は女性をエンパワメントした作品として高い支持を集めたが、その彼女を本作で起用することは、本作がエミット・ティルの話であると同時に、母・メイミーの物語でもあるというところとつながるとも言える。松尾さんは「子どもがいない人はいるけど、関係性はともかく、母親がいない人はいないわけで、母というものについて考える映画であると思います。母が子を失うというのは、この世で最もつらいことのひとつですが、その悲しみに直面した時、メイミーはこの悲しみをほかの人に味わわせることをすまいと立ち上がる――そこに胸を打たれるし希望がある」とその偉大さを称える。

 最後に松尾は「悲しみや憎しみといった、人間の感情にとって、なくてもよいものの連鎖、憎しみのリレーみたいなものがあって、いまこの瞬間もそのリレーが続いているかもしれません。でも、それを見過ごし、あきらめるんじゃなく、自分はその最終走者になるという気概で、いままでの歴史を受け止めないといけないと思います。そして新たなリレーの起点となるような行動がとれるといいですね。メイミーはまさに悲しみのラスト・ランナーであり希望の第一走者になったと思います」と語り、「ほとんどの人が詳しく知らなかったティルの映画が作られたこと、そして、それが日本公開されてよかったです」としみじみと語る。

 ISOも、その言葉に深く頷き黒人差別の問題を扱った本作が、日本で劇場公開されることの意義を強調。「なかなかブラック・カルチャーの映画って日本では公開されずづらいところがあるので、この映画の公開は本当に希望だと思いますし、どんどん広めていただけたら、次にもつながると思います」と呼びかけ、会場は温かい拍手に包まれた。

 登壇者:松尾 潔(音楽プロデューサー)&ISO(ライター)

公開表記

 配給:パルコ ユニバーサル映画
 12/15(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー!

(オフィシャル素材提供)

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