イベント・舞台挨拶

『ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスター』公開記念トークショー

© 1992 JAN CHAPMAN PRODUCTIONS&CIBY 2000

 第66回アカデミー賞® 主演女優賞・助演女優賞・脚本賞受賞、第46回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞をはじめ、世界中の数々の映画祭を席巻し多くの喝采を浴びた映画『ピアノ・レッスン』。この度、日本での公開から30年の時を経て4Kデジタルリマスターとして蘇り、3月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国公開する。
 この度、公開に先駆けて3月5日(火)に都内会場にて先行上映会が開催された。
 上映前には、文筆家・映像作家・俳優の小川紗良と、映画研究者・批評家の北村匡平の二人が登壇し、本作の魅力を語ると共に、鑑賞する際により本作を楽しめるヒントを話した。

「全てが容赦なくて驚きました」
女性監督として時代を切り拓いてきたジェーン・カンピオンの“力強さ”

 あいにくの雨にもかかわらず、会場は超満員の盛況ぶり。2人は大きな拍手に迎えられ、まず北村が「この映画は今日の天気に似合う作品で、雨のシーンが本当に素晴らしいです。美しい雨、悲しい雨……いろいろな表情の雨が映っています」と天気に触れて挨拶をした。

 30年の時を越えて4Kリマスターとして蘇る『ピアノ・レッスン』。元より作品を観ていた北村は「当時はよく分からないまま観ていて、家父長制下における女性の悲劇、くらいの感想しか持たなかったんです。今回改めて見直し印象が全く違い、今こそ観るべき現代的映画だと思いました」と語った。

 一方、名作として存在は知りながらも未見だった小川は、「官能的な映画という印象があって、それが壁になっていました。今回やっと観て、なんて荒々しくて力強い映画なのだろうと。先ほど雨のシーンについて北村さんも触れていましたが、冒頭から大荒れですよね。海も山も天気も、全てが容赦なくて驚きました」と『ピアノ・レスン』から受けた衝撃を告白。北村も「ワンショットに込められている力強さが凄まじいですよね。めちゃくちゃこだわって作っているのが伝わってきます」とコメントした上で、「自分たちの時代を生きる女性監督という視点で初めて意識した監督です。女性作家が次第に盛り上がっていく中でも、カンピオンは先駆的な存在で、まさに時代を切り拓いてきた人」と評価した。

自分の生き方は自分で決める————
『哀れなるものたち』へも通ずる、身体や理性の“揺らぎ”や“曖昧さ”
「この映画が4Kリマスターになったことに必然性を感じる」

 自らの意思で声を発さないことを選んだ主人公・エイダ。北村は、映画が作られたあとに出版された『ピアノ・レッスン』小説版を持参し、それが作品を深く読み解くヒントになったと言う。エイダの声の代わりとも言えるピアノと共にニュージーランドの孤島へやってくる冒頭のシーンを挙げ、「エイダの夫となるスチュワートが彼女を出迎えて早々に“Can you hear me?(=聞こえるか?)”と抑揚をつけて大声で問いかける。エイダは、わざとゆっくり大きな声で話したことに侮辱された、と小説には書かれています。対してベインズは“She looks tired.(=疲れているようだ)”と、彼女自身をしっかり見つめている。そのような細部へ目を向けてみると、いろいろなものが立ち上がってきます」と登場人物それぞれが発するセリフや心の動きが繊細に描かれている本作の魅力を語った。

 小川が「エイダは不自由な状況にいる女性ですよね。お見合いというか、写真だけで結婚を決められて、ピアノ一台と娘と一緒に海を渡る。彼女に決定権はいつもなくて、音楽だけが声を表すものになっていくわけですが、映画全体から受け取ったのは悲劇ではなくて、女性が主体性を取り戻していくということです。主体性を取り戻すなかのひとつとして性愛も大切ですし、そういう意味での官能表現だということに気づきました」と話すと、北村も「19世紀、女性が男性に従順でなければならなかったり、非常にがんじがらめな時代ですよね。だからこそ、エイダがどういう選択をするか確かめてほしいです。カンピオン監督には『ある貴婦人の肖像』や『パワー・オブ・ザ・ドッグ』でも一貫してジェンダーを問い直そうとする視点がしっかりとあります」と時代性にも絡めながら監督自身が歩んできた作家としての在り方へも言及した。

 声を発さずとも、次第にさまざまな表情を見せるエイダについて、小川は「現住民族に触れることでエイダの心がほどけていくというストーリーも素晴らしいと思いました」とコメント。
 北村は「人と人との繊細なコミュニケーションのなかで、どうほどけていくのか注目してほしいですね。僕は、この映画の延長に『哀れなるものたち』があると思います。『哀れなるものたち』以上に本作では、身体の揺らぎや理性の曖昧さといった生々しさまで描いているんですよね」と現代へも通ずる普遍的なテーマを描く2作を対比。イベント終盤には、小川が「日本でも世界でも女性監督が増えている中、この映画が4Kになって観られるというのは必然性を感じます」と締めくくり、イベントは幕を閉じた。

 登壇者:小川紗良(文筆家・映像作家・俳優)×北村匡平(映画研究者・批評家)

公開表記

 配給:カルチュア・パブリッシャーズ
 3月22日(金) TOHOシネマズ シャンテ 他、全国ロードショー

(オフィシャル素材提供)

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