イベント・舞台挨拶

『RHEINGOLD ラインゴールド』ファティ・アキン監督オンラインQ&A

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 『女は二度決断する』でゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞したほか、世界三大映画祭で主要賞を獲得するなど、世界中で高い評価を受けているドイツの若き才能、ファティ・アキン監督の最新作『RHEINGOLD ラインゴールド』。3月29日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート新宿、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国で絶賛上映中だが、ドイツと繋いでファティ・アキン監督がオンラインQ&Aに登壇! 事前にSNSで募った質問や、上映後の熱もまだ冷めやらぬ会場で挙がった質問にひとつひとつ真摯に回答した。

 会場の観客を前に「お会いできてとても嬉しいです」と丁寧なご挨拶からQ&Aはスタートした。

リールをセットして、照明を落として、上映する……上映プロセスにハマった!! 映画監督を志すきっかけとは?

 まずは、「映画監督を志すきっかけになった映画を教えてください」という質問。「5歳ぐらいの頃、イトコが8mmカメラの“スーパー8”を持っていて、遊びに行った時に壁に映して上映しているのを観たのが初めての映像体験だった」という初めて観た映画は、ブルース・リー主演の『ドラゴン怒りの鉄拳』(72/ロー・ウェイ監督)。本当にパワフルでマジカルな体験だった。もちろんブルース・リーはめちゃくちゃかっこいいしね」と初めての映画鑑賞体験を振り返る。「なにより『映像を自分で上映する』という体験がものすごくぐっときたんです。その頃はまだ映画はリールごとに分かれていたのですが、それをセットして、壁に向けて映写して、上映前にはカーテンを閉めて光を遮って、上映が終わったらカーテンを開けて、セットを外して……そんなプロセスすべてが映画の神様からのキスのように感じた。そこから映画に対する興味が生まれました」と映写のセッティング・プロセスに心惹かれたことがきっかけだったことを明かした。トルコ移民としてドイツで生活しているひとたちのほとんどが、上映機器を持っていて、特に移民たちは自国の文化やお互いのことを知る手段として、映像を鑑賞する習慣があるそう。アキン監督もまた、ドイツに住みながら、トルコ映画も吸収していったそう。また、「夜にホラー映画がテレビで放送されたらVHSで録画して、擦り切れるぐらい何度も観ていました。それが映画製作に興味を持つ入口になったと思います」という監督を志したきっかけを語る。

「お前は長い道をかけて今の場所に立っているんだ」
撮影中に亡くなった父が遺した言葉

 「『RHEINGOLD ラインゴールド』は家族の繋がりを強く感じるが、監督自身の家族、特に父親から影響を受けていることは?」という質問。実は、監督のお父様は本作の撮影中に亡くなっている。「自分の家族を撮影中に亡くすということは、とても辛い体験でした」と監督。「父は出稼ぎ移民で、母も小学校の教師。芸術と無関係の家でした。そういう環境の中で自分がアーティストになることにフラストレーションを感じていました。カンヌなどに行くと、世界中の映画作家は高等教育を受けていたり、両親がアーティストや監督や画家だったりする方が結構いる。実は僕も劣等感がないわけではなかったんです。『セラピストにその想いを話した』と母に伝えたとき、母は『私たちのことを恥ずかしく思っているのか!』と怒りました。僕は『違うんだ! ただ自分の中にそういう感情もあるんだ』と伝えたことがある」と我々が思いもよらないエピソードを聞かせてくれた。その後、『RHEINGOLD ラインゴールド』のロケハンのため父親が空港まで送ってくれた際に、母ともめた理由を聞かれて伝えると、父親は「お前は長い道をかけて今の場所に立っているんだ。もしかしたら、アーティストや監督になるために生まれてきた人もいるかもしれないけど、自分はそれだけ長い時間をかけてそこに立っているということを決して忘れるな」と励ましてくれたというエピソードを披露した。

「暴力は自分にとって映画的表現ツールのひとつ……この表現は好きじゃないんだけど(笑)」
映画に『暴力』をどのように反映させたのか

 「『RHEINGOLD ラインゴールド』に登場する『暴力』をどう捉えて、どのように本作に反映させたのか」という質問。「暴力とは人生の一部になっている部分があります。というのも、僕が生活していたエリアで大学に進学したのは自分ぐらいで、周りはギャングだらけ。特に幼かった頃には暴力は常に身近に合って、それを自分は観察していました」と監督自身が育ってきた環境を語る。実は、アキン監督はまもなく第二次世界大戦時の家族を描いた新作の撮影に入るところだという。その新作は「子どもたちはみんな健全で、空は青く、花は美しく咲いている。ただ、その世界観を自分で描こうとすると『なんか違う』と思いました。物語を完成させることがミッションではあるんだけど、やっぱり、誰かが自死したり、爆死したり、誰かの首を切ったり、灰皿で相手をボコボコにしたり……そういうのが自分の映像表現であり、世界観なので、新作で全く別の世界観を描くのが、ひとつの課題かなと思います」と対照的な世界観に翻弄されている様子。「父親もバイオレントな部分が無いわけではなかったので、暴力は自分にとても近しいもの」だという監督。一方で、「あまり好きな表現ではありませんが(笑)、暴力とは“表現方法のひとつのツール”ではあると思うんです。暴力によって映画的に表現することができる。それはパゾリーニを見てもハネケを見ても、画によっては暴力を感じる撮影だと思っています。でも、“映画的表現”という意味では暴力表現がなくても、ヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』(23)はものすごく映画的な作品でした。ただ、自分の場合は暴力が常に近い存在だったので、自分の描く映画の中では、影響を与えてきてしまうのではないかと思います」と“暴力”は自身の映像表現にとっては切り離せないものであると語った。

「ヒップホップはある種の口承文化」
ヒップホップをテーマに映画製作した理由とは?

 「カターやヒップホップをテーマにした理由を教えてください」という質問。「ドイツで暮らす移民の子どもたちは、おそらくみんな『ヒップホップを通して自分たちの可能性が広げられている』と思っている」と、幼いころからヒップホップ文化が身近にあったという監督。「そもそもヒップホップとは、70年代のアフリカ系アメリカ人たちがマイノリティ、あるいは移民として、自分たちの物語や体験、フラストレーションを語っているところから始まっている」と語り、「文化として世界中に広がり、ドイツにも届いて、日本にもおそらく同じように根付いていると想像しています」と監督。ヒップホップの音楽的に面白いところについて、「もともとアメリカ発祥だからと言って、模倣にならない。自分たちの文化で脚色されていくところが非常に興味深い」と話す。ドイツでは、アラブ系、トルコ系、ムスリム系のヒップホップ・アーティストが牽引しているそうだが、「僕もいまは年を重ねて、ちょっとドイツのヒップホップからは離れていたのですが、今回カターの伝記を読むことをきっかけに再びその世界に興味を持ちました。最初はラップへの興味というよりも、やはりカターがクルド人で犯罪に手を染めていて、いろいろなネットワークがあるという彼の物語がとても興味深いと思ったところから始まったのですが、そこからリサーチの一環として音楽も聴いていきました。その時にはっと気がついたのが、『いかにヒップホップは口承の歴史なのか』ということでした」と、ギャングスタ・ラッパー、カターを主人公にしたことで得た気づきを語る。さらに、「音楽は僕のフィルモグラフィーの大きな部分を占めているので、ヒップホップをどうやって料理していくのかを考えました。カターは大スターなので、彼のファンに熱く受け入れてもらいたい想いと同時に、彼のことをまだご存知でない日本の方も、誰でも満足してくれる映画をどうやって作ることができるのかという点が挑戦でした」と語る。

 最後に、「本当にありがとうございます!」と日本語でご挨拶した監督。今回は2週間後に新作クランクインという状況で来日が叶わなかったが、「新作はまた違う雰囲気の作品なので、その時にまたお目にかかれたら嬉しいです!」と監督は笑顔で手を振って、観客が拍手をする中オンラインQ&Aは終了となった。

ファティ・アキン監督 プロフィール

©Linda Rosa Saal

 1973年8月25日、ドイツ、ハンブルク生まれ。
 両親はトルコ移民。『愛より強く』(04)でベルリン国際映画祭金熊賞、『そして私たちは愛に帰る』(07)でカンヌ国際映画祭脚本賞とエキュメニカル審査員賞、『ソウル・キッチン』(09)でヴェネチア国際映画祭審査員特別賞受賞と、30代にしてベルリン、カンヌ、ヴェネチアの世界三大映画祭主要賞受賞の快挙を成し遂げる。その後も、ダイアン・クルーガー主演『女は二度決断する』(17)ではダイアンにカンヌ国際映画祭女優賞をもたらし、ゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞とその演出手腕は高く評価されている。
 『RHEINGOLD ラインゴールド』はドイツで1000万ドル近い興行成績をマーク、ファティ・アキン作品で最も成功した作品となった。数々の映画祭を席巻し続ける、ドイツを代表する名匠監督である。

公開表記

 配給:ビターズ・エンド
 ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート新宿、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか絶賛上映中!

(オフィシャル素材提供)

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