
1975年、『アダプション/ある⺟と娘の記録』で⼥性監督として初めてベルリン国際映画祭の最⾼賞<⾦熊賞>を受賞、アニエス・ヴァルダ、アンナ・カリーナ、イザベル・ユペールら錚々たる映画⼈らからも熱い注⽬を集めるメーサーロシュ・マールタ。
この度、2023年に開催され好評を博した第⼀弾特集上映に続き、⽇本で劇場初公開となる全7作品を新たにレストア/HD デジタルリマスターした珠⽟の作品群を⼀挙上映する<メーサーロシュ・マールタ監督特集 第2章>が11⽉14⽇(⾦)より開催決定︕ この度、アンナ・カリーナを筆頭に、本特集上映7作品より劇中を彩る<⾃分であることを貫いた>美しく聡明な⼥性たちを切り取った合計24枚を⼀挙解禁!
1931年、ハンガリーに⽣まれ、同国を代表する名匠ヤンチョー・ミクローシュの⼿引きで、⻑編劇映画デビュー作となる『エルジ』を監督したメーサーロシュ・マールタ。その後も、サボー・ラースロー(ラズロ・サボ)やアンナ・カリーナ、イザベル・ユペール、デルフィーヌ・セリッグなどの名優がこぞって出演する作品を⼿がけ、アニエス・ヴァルダに⾄っては⾃⾝の映画制作の参考にしたことを明かすなど、その影響は計り知れず“東欧の奇跡“との呼び声も⾼い存在として、今なお語り継がれている。
解禁される写真は合計24点。『ジャスト・ライク・アット・ホーム』からは、⾎のつながらない男と少⼥の奇妙な愛の狭間で、⼤⼈の⼥性として⽴ち回るアンナ・カリーナの電話⼝での物憂げな表情を。『エルジ』からは、お揃いのエプロンを⾝に着けた可憐な少⼥たちを。そして『⽇記』シリーズからは、成⻑したユリ(ツィンコーツィ・ジュジャ)が美しくドレスアップした横顔を切り取った⼀枚を収めている。
1968年のデビュー以来、⼀貫して<⼥性の⽣き様>を描き続けてきたメーサーロシュ監督。抑圧や不条理の中でもなお、⾃らの意志で⽣き抜こうとする⼥性たちの誇りと哀しみ、そして確かな光―今よりもさらに⼥性が⽣きることの難しかった時代に、懸命に「⾃分であること」を貫いた彼⼥たちの姿が、どのカットにも静かな強さと共に、美しく焼きつけられている。
今回の特集上映のラインナップは、監督⾃⾝の初期―中期作品を中⼼に、⽇本で劇場初公開となる全7作品。軍靴の⾳が⽿をつんざくなか、⽣き別れた両親への思いがこだまするメーサーロシュ・マールタの代表連作の第1作⽬『⽇記 ⼦供たちへ』(第1回東京国際映画祭でのみ上映)は、第37回カンヌ国際映画祭 審査員特別グランプリを受賞︕ 冷戦下の恐怖政治を⽣き抜いたメーサーロシュ⾃⾝の記憶が刻まれたパーソナルな⼀⼤叙事詩『⽇記』三部作や、孤児として育った⼥性が両親を追い求めるデビュー作『エルジ』、中年の危機に瀕した未亡⼈の息苦しさをシスターフッド的に描破した『⽉が沈むとき』、階級格差が男⼥の結び付きを蝕む『リダンス』など彼⼥の作家性が際⽴つ初期作品のほか、アンナ・カリーナを共演に迎え、⾎の繋がらない男と少⼥の、親⼦のような親密さにカメラが向けられた中期の傑作『ジャスト・ライク・アット・ホーム』など、メーサーロシュ・マールタの⽬を通した<家族>の形、有様が問い直される珠⽟の作品群となっている。
「⾃由の問題も⼥性の状況も私が映画を撮った頃からあまり良くはなっていないのですから、これらの作品はきっと、今の時代にも有効でしょう」。2023年に開催された特集上映に寄せて、メーサーロシュから届いたレターの⼀⽂だ。まだまだ届けたい彼⼥の作品はたくさんある。
<メーサーロシュ・マールタ監督特集 第2章>ラインナップ
『エルジ』

英題:The Girl 原題:Eltávozott nap
監督:メーサーロシュ・マールタ
脚本:メーサーロシュ・マールタ
撮影:ソムロー・タマーシュ
出演:コヴァーチュ・カティ
(1968年/ハンガリー/スタンダード/モノクロ/84分/HD デジタルリマスター/G)
<story>
児童養護施設で育ったエルジは、24年ぶりに⼩村で暮らす実の⺟を訪ねる。再婚していた⺟は、娘の来訪に⼾惑い、彼⼥を姪と偽って新しい家族に引き合わせた。家族関係の修復も曖昧なまま街へ戻ったエルジは、⾏きずりの男と交際しながら、鬱々と⽇々を過ごす。ある⽇、素性の知れぬ中年男性がエルジの前に現れ、「君の両親は死んだ」と告げる。
⻑編デビュー作であり、のちに繰り返し描かれる“養⼦”をテーマとした⾃伝的作品。


『⽉が沈むとき』

英題:Binding Sentiments 原題:Holdudvar
監督:メーサーロシュ・マールタ
脚本:メーサーロシュ・マールタ
撮影:ケンデ・ヤーノシュ
出演:トゥルーチク・マリ、コヴァーチュ・カティ、バラージョヴィチ・ラヨシュ
(1968年/ハンガリー/シネマスコープ/モノクロ/86分/2K レストア/G)
<story>
政治家の夫に先⽴たれたエディトは、保険⾦や邸宅の相続を頑なに拒む。⽗の名声が汚されることを恐れた息⼦は、⺟エディトを別荘に軟禁した。息⼦の婚約者も「看守」として⼿を貸すが、壊れていくエディトを⾒るうち、結婚という結び付きに違和感を募らせていく。
「家」に囚われた⼥性の苦しみと、彼⼥に寄り添う⼥性の交流が描かれたシスターフッド映画。



『リダンス』

英題:Riddance 原題:Szabad lélegzet
監督:メーサーロシュ・マールタ
脚本:メーサーロシュ・マールタ
撮影:コルタイ・ラヨシュ
出演:クートヴェルジ・エルジェーベトゥ
(1973年/ハンガリー/スタンダード/モノクロ/81分/4K レストア/PG-12)
<story>
⼯場勤務のユトゥカは、ダンスパーティーで出会った⼤学⽣アンドラーシュと恋に落ちる。彼に拒絶されることを恐れたユトゥカは、⾃分も学⽣であることを装い、名前も偽る。やがてアンドラーシュはユトゥカの素性を知るが、両親には真実を告げられずにいる。
両家合同の⾷事会。アンドラーシュ家の階級意識が剥き出しになっていく。
アニエス・ヴァルダがそのシャワーシーンに強く魅了されたという、労働者階級とインテリの格差を背景に⼥性の選択を描く静かな⼒作。
撮影はジュゼッペ・トルナトーレ作品で知られるコルタイ・ラヨシュ。


『ジャスト・ライク・アット・ホーム』

英題:Just Like at Home 原題:Olyan, mint otthon
監督:メーサーロシュ・マールタ
脚本:コーローディ・イルディコー
撮影:コルタイ・ラヨシュ
出演:ヤン・ノヴィツキ、ツィンコーツィ・ジュジャ、アンナ・カリーナ、サボー・ラースロー(ラズロ・サボ)
(1978年/ハンガリー/ビスタ/カラー/109分/4K レストア/PG-12)
<story>
アメリカからハンガリーへ帰国したアンドラーシュ。根無し草状態の彼は、放し飼いにされていた⽝に惚れ込み、飼い主の少⼥から強引に買い取った。わだかまりを残したふたりは、やがて親⼦とも⾔い切れぬ親密な関係を育んでいく。アンドラーシュのかつての恋⼈アンナも、そんなふたりを気に掛けている。彼⼥はアンドラーシュに、愛を告⽩するが……。
⽗への献辞で始まる本作は、メーサーロシュにとって⾮常に個⼈的な⽗との物語だといえる。アンナ・カリーナがふたりの関係に揺らぎを与える⼈物を好演。



『⽇記 ⼦供たちへ』

英題:Diary for My Children 原題:Napló gyermekeimnek
監督:メーサーロシュ・マールタ
脚本:メーサーロシュ・マールタ
撮影:ヤンチョー・ニカ
出演:ツィンコーツィ・ジュジャ、ヤン・ノヴィツキ
(1980-83年/ハンガリー/スタンダード/モノクロ/108分/4K レストア/G)
<story>
1947年、ソ連からハンガリーへ帰国したユリは、共産党員の養⺟マグダの保護下で育つ。⽗は秘密警察に捕らわれ、⺟はこの世を去っていた。恐怖政治が布かれるこの国で、ユリは不安定な⽣活を強いられる。ある⽇、ユリはヤーノシュと名乗る男と出会
う。彼は⽗と⽠⼆つの⼈物だった。
「⽇記」三部作の第⼀部。冷戦下の⾃⾝の苦難を描き、1984 年のカンヌで審査員グランプリを受賞。撮影は義理の息⼦ヤンチョー・ニカが担当した。
『⽇記 愛する⼈たちへ』

英題:Diary for My Loves 原題:Napló szerelmeimnek
監督:メーサーロシュ・マールタ
脚本:メーサーロシュ・マールタ、パタキ・エーヴァ
撮影:ヤンチョー・ニカ
出演:ツィンコーツィ・ジュジャ、ヤン・ノヴィツキ
(1987年/ハンガリー/スタンダード/カラー・モノクロ/132分/2K レストア/G)
<story>
マグダの元を離れたユリは、織物⼯場で働いている。映画監督を志すユリは、モスクワの⼤学で映画制作を学ぶことになった。スターリンの死後、ユリは卒業制作として、労働者の実情を捉えたドキュメンタリー映画を完成させたものの、反-社会主義リアリズム的な内容から、再編集を命じられた。そしてユリは⽗がすでに死去したことを知らされる。
「 ⽇記」三部作の第⼆部で1987年のベルリンで銀熊賞を受賞。モスクワ留学から1956年のハンガリー事件前夜までを描く。ユリが⽗と⽠⼆つの男に抱く愛情は複雑になり、ふたりの関係は次第にメロドラマ性を帯び始めていく。


『⽇記 ⽗と⺟へ』

英題:Diary for My Father and Mother 原題:Napló apámnak, anyámnak
監督:メーサーロシュ・マールタ
脚本:メーサーロシュ・マールタ、パタキ・エーヴァ
撮影:ヤンチョー・ニカ
出演:ツィンコーツィ・ジュジャ、ヤン・ノヴィツキ、トゥルーチク・マリ
(1990年/ハンガリー/スタンダード/カラー・モノクロ/117分/2K レストア/G)
<story>
1956年10⽉23⽇、ブダペシュトで⺠衆が蜂起する。モスクワで⾜⽌めを⾷っていたユリは、12 ⽉に⼊りようやくハンガリーへの帰国を許された。ユリはカメラを⼿に、荒廃した街並みや犠牲者を⾒つめていく。その年の⼤晦⽇、ユリたちは⼀堂に会する。政治的⽴場を異にする者たちも、仮装や⾳楽、ダンスに耽る。しかし反動分⼦の弾圧はとどまるところを知らず……。
「⽇記」三部作の最終作。1956年のハンガリー事件から⺠主化運動の挫折までを描き、戦争の余波と闘いの⾏⽅を問う。

公開表記
配給:東映ビデオ
後援:駐日ハンガリー大使館/リスト・ハンガリー文化センター
2023年5月26日(金) 新宿シネマカリテほか全国にて順次公開