イベント・舞台挨拶

監督デビュー30周年記念「月刊ホン・サンス」第1弾『旅人の必需品』トーク付き先行上映

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 登壇者:主演イザベル・ユペール×筒井真理子

 2025年11月から2026年3月までの5ヵ月間、韓国の名匠ホン・サンス監督のデビュー30周年を記念して、新作5本を5ヵ月連続で公開する「月刊ホン・サンス」が開催される。11月1日(土)より第一弾となる『旅人の必需品』がユーロスペース他にて全国公開する。

 ホン・サンス監督の31作目となる『旅人の必需品』は、第74回ベルリン国際映画祭で5度目の受賞となる 銀熊賞(審査員賞)を受賞。『3人のアンヌ』(12)、『クレアのカメラ』(17)に続き、3度目となるイザ ベル・ユペールとのコラボレーションは、「現代映画界屈指の独創的で刺激的な俳優×監督コンビが生んだ傑作!」(IndieWire)と絶賛。この度、映画の公開を記念して、10月13日(月・祝)ユーロスペースにて、主演のイザベル・ユペールと俳優の筒井真理子のトーク付き先行上映が行われた。

筒井が語る『旅人の必需品』の魅力

 ホン・サンス作品の長年のファンであり、2023年に刊行された『フィルムメーカーズ』(オムロ)のホン・サンス巻で責任編集を務めた筒井は、本作の感想を尋ねられるとこう語った。「今回の作品を観て、ホン監督の死生観が見えた気がしました。イリスが持っているものはほとんどなく、カバンもペタンコで、物欲のようなものもほとんどありません。そういう透明になっていく感じが、まさに“旅の必需品”だと思ったのです。例えば、死ぬときの旅には結局何も持って行けないですよね。そのことが一番印象に残りました」。これに対してユペールは、「真理子さんの仰ってくださったことはとても美しいので、真理子さんのお話をずっと聞いていたいぐらいです」と感謝を述べた。そして、イリスという人物について、「妖精であると同時に魔法使いの女の人という響きがあるので、確かに人間という枠から少し外れて行った人。だから現実味のない、超自然的な雰囲気の存在なのだと思います」と共感を示した。

ユペールが語るホン・サンス監督の映画世界

 ユペールはさらに、ホン・サンス監督の映画について語る。「彼は世界や人生のことを語りつつ、本当にたくさんのことを描いているんですけれど、その語り口は、私が演じる人物を通して彼自身が表現しているんですよね。独特な映画の言語で、彼は自国を見つめています。そのために、私の姿・存在を借りているのではないでしょうか。彼の映画に似たような作品はありません」と語った。さらに監督の創作スタイルについても明かす。「今回が3作目の出演ですが、スタッフの数も減り、カメラの大きさも小さくなり、唯一録音技師の女性がいるくらいで、ミニマルな機材と少人数で映画を撮ります。でも、彼の映画はとても奥深く壮大です。壮大な撮影をして大したことのない作品を作る監督もいますが、その逆ですね」と笑いを交えて語った。

筒井が問う、ユペールの役作りについて

 続いて、筒井からユペールに、役作りについての質問があがった。筒井は、「『ピアニスト』や『エル ELLE』などの素晴らしい作品もありますが、ホン・サンス監督の作品に出演されているときは、どこかリラックスしているように見えます。その役作りの違いについてお聞かせいただけますか」と尋ねた。ユペールは、自然にくつろいで見えるという意識はほとんどないと前置きした上で語る。「おそらく、私が外国人としてホン・サンス監督の映画に参加すると、目の前に起こることは驚きの連続なんです。韓国語も分かりませんし、自分の国からはかなり遠い場所です。そういう状況の中では、感動よりもびっくりしていることのほうが多いですね。常に目の前で起こることがサプライズで、その驚きがイリスというキャラクターに、ちょっとしたコミカルさや浮遊感を与えているのだと思います」。さらに、俳優は作品ごとにアプローチを変え、精神状態によって身体の動きや表情も変わると説明した。筒井がさらに「もっと役作りについてお聞きしたいです」と問いかけると、ユペールは役作りの秘訣について語る。「まず動く前に考えることです。私が演じる人物のイメージを膨らませ、そのイメージが思考を豊かにして、フラッシュのように感覚が生まれてくるんです。それは決して具体的なものではなく、唯一具体的なのは衣装。衣装には本当に助けられます。でも、最も大事なのはやはり考えることです」と強調する。さらに筒井が「役を演じる上で、一番大事にしていることは何ですか」と尋ねると、「大切なのは、私の内側から演じる人物のイメージが見えるかどうかです。その確信がないと役作りは難しい。でも、撮影を進める中で、その確信は少しずつ強固になっていきます。とてもミステリアスなことですが、脚本に書かれたストーリーを自分で組み立てるのではなく、撮影を通してストーリーが語りかけてくる。その全貌が徐々に見えてくるのです。それは観客としても同じで、スクリーンにはさまざまな情報があります。美術セットや場所、人物の関係性、環境などを通して、物語が見えてくる。それらを私は演じながら現場でキャッチしています」と語った。

ホン・サンス監督との出会いや好きな作品

 MCから最初に出会ったホン・サンス監督の作品や印象に残った作品について尋ねられると、ユペールは、「最近特に好きだったのは、2022年の『小説家の映画』です。モノクロ作品なのですが、途中で突然花の色がカラーになる瞬間があり、本当に涙が出るほど感動しました」と語った。筒井も共感し、「本当に『慈しみ』という言葉を切り取ったようで、私も思わず涙が出ました」と話す。一方、筒井はホン・サンス監督に最初に出会った作品として『ヘウォンの恋愛日記』『ソニはご機嫌ななめ』を挙げ、「あの頃、“おばかズーム”と言われたズームを見たとき、発明だと思い完全に惹かれてしまいました。それからずっと追いかけ、最初の長編作『豚が井戸に落ちた日』を観たとき、天才だと直感しました。才能があふれ、それを惜しげもなくどんどん捨てていく――そんな作り方は、才能のある人にしかできません。それから完全に中毒になってしまいました。ただ、私はホン・サンス監督にお会いしたことがないので、片思い状態です」と笑いながら付け加えた。ユペールも、自身の経験を振り返る。「私も彼をよく知っているわけではありません。3作品一緒に仕事をして、彼のアイデアがどこから生まれるのか、とてもミステリアスです。机に向かってアイデアが出るタイプではなく、物語との関係性がユニークで唯一無二です」と話し、具体的なエピソードも披露。「『3人のアンヌ』の撮影少し前、偶然に近い形で彼とランチを取る機会がありました。その時彼に、『新作はどんな作品ですか?』と聞いたら、分からないと。でも、どこで撮るかは決めたそうです。ソウルから車で6時間ほどの海辺でした。気に入った場所から物語が始まり、『3人のアンヌ』が生まれました。そのランチの席で、『君も映画に出演したいかい?』と聞かれ、『はい』と答え、1ヵ月後に撮影することになりました」。

衣装選びにも映る監督の色彩感覚

 さらにユペールは、衣装選びについても語る。「衣装の選び方に関しては、色なんです。画家が絵の具を選ぶように、まず白いキャンバスにどの色を乗せるかを正確に分かっているんです。まさに画家の目を持っていると感じます」。筒井が、ユペールの衣装や立ち振る舞いについて「『旅人の必需品』でも、ワンピースと緑のカーディガンがとても素敵で、緑の屋上に行くシーンがあります。そのときのふわふわした歩き方がとても印象的ですが、どうしてあの歩き方をされるのですか?」と尋ねると、ユペールは少し考え込みながら微笑む。「私自身も分かりませんが、ホン・サンスの映画では、ふわふわした歩き方をするんです。おそらくイリスという人物は、この世界で地に足がついていない、安定していない、どこか浮遊しているような存在なので、私自身が自然に表現したのだと思います」と語った。続いて、今回の衣装が選ばれた経緯も披露された。「ホン・サンス監督の他の作品でも、『こんなのはどうですか?』って自分の衣装の写真を撮って監督に送るんです。『旅人の必需品』のときは、まだ考えがまとまっていなかったので、ソウルに行く前にスーツケースをいっぱいにして行こうと思っていましたが、夜のフライトまで時間があったので、近所を歩いていたらブティックがあって、そのショーウィンドに花柄のワンピースがあったんです。試着して写真を撮り、監督に送ったら『これだ!』と。そしてグリーンのカーディガンも同じように送ると『パーフェクト』。まだソウルに行く前に、監督と連絡を取りながら衣装が決まったんです。その後、帽子だけはキム・ミニさんと一緒に買いに行きました」と、自然に笑みがこぼれるようなエピソードを語った。

出演作を選ぶ軸について

 続いて、出演作を選ぶ際に大切にしていることについても語られた。ユペールは、「今、俳優として特権的な立場にあると感じます。自分で作品を選べる自由があるのは、非常に恵まれたことです。選ぶ基準は監督への敬意やその世界観への共感です。時には理由が分からず、ただ直感的に『この映画をやりたい』と思うこともあります」と語る。筒井も、自身の基準を語る。「私もご一緒したい監督は世界中にいますが、まだほとんど会えていません。脚本が面白いこと、座組や役者と監督の関係性で必ず面白くなるだろうという感覚が頼りです。本を読むと全部やりたくなってしまう性分で、スケジュールがなくても役が好きになり演じたくなってしまいます」。

 舞台挨拶の終盤、ユペールは観客に向けて「ホン・サンス監督とこの作品を撮れて本当に幸せです。彼はユニークで大好きな監督の一人です。まだ日本人監督とは仕事をしたことがないので、それも私の夢の一つです。真理子さんは素晴らしい俳優で、こうしてお話できたことも幸せです。いつか共演できればと切に願っています」、筒井氏も応じる。「今日は本当に素敵な時間を過ごせました。ユペールさんと共演できる日を楽しみにしています」と笑顔で締めくくり、会場には温かい拍手が広がった。

公開表記

 配給:ミモザフィルムズ
 2025年11月1日(土)より、ユーロスペースほかにて新作を5カ月連続で順次公開

(オフィシャル素材提供)

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