インタビュー

『奈緒子』古厩智之監督 単独インタビュー

©2008「奈緒子」製作委員会

この映画を観た後は、ちょっとだけ走りたくなるんじゃないかなと思います

 『まぶだち』『ロボコン』『さよならみどりちゃん』などの作品で、多くの映画ファンから支持されている古厩智之監督が、3年ぶりとなる新作『奈緒子』を完成させた。上野樹里・三浦春馬・笑福亭鶴瓶を主役に迎えて描いた本作は、駅伝をモチーフとした青春映画だ。公開を前に、完成までの道のりを監督に聞いた。

古厩智之監督

 1968年長野県生まれ。92年、日本大学芸術学部時代に監督した『灼熱のドッジボール』でぴあフィルムフェスティバルのPFFアワードグランプリを受賞。94年に『この窓は君のもの』で劇場長編映画デビュー。以降、『まぶだち』(2001)、『ロボコン』(03)、『さよならみどりちゃん』(04)を次々と発表。また、宮崎あおい、堀北真希、黒川芽以、夏帆らを輩出したBSiの人気ドラマ『ケータイ刑事』シリーズの演出にも携わっている。

監督の劇場用映画としては、『奈緒子』は『さよならみどりちゃん』以来となりますが、3年間のブランクがあったのは次回作をじっくり選んでいたからですか?

 いや、なかなか実現できなかったからです。公開は3年ぶりですが、何をやっていたんだろうという感じですね。すぐに時は経ってしまう。他にもいくつか企画があるのですが、たまたま『奈緒子』はうまく進みました。でも、こんなに間を空けてはいけないですね。3年もブランクがあったんだ。そうか、落ち込みますね。

『奈緒子』を映画化しようと思った理由は?

 『奈緒子』は他の方からいただいたお話です。実は、駅伝というものにはあまり興味がなかったのですが、人が走るのを見たり撮ったりするのは大好きだったので、“走っているから良いか?”と思いました。子供たちが走る姿、走るという運動を撮れることに大きな魅力を感じてやろうと思いました。

以前はマラソンや駅伝には興味を持っていなかったのですね?

 はい。映画を撮る時には必ず人が走るシーンを入れようというように、走るところを撮るのが好きなのです。こっちが一緒に動いたり、こっちが止まっているところを通り過ぎたり、人が走るというアクションが好きだということですね。マラソンも駅伝も、競技自体に興味があるわけではありません。

日本人はマラソンや駅伝が好きですが、このような単調なスポーツを描くにあたり、何か工夫をされましたか?

 先日も箱根駅伝の中継をやっていたので見てしまいましたが、9割5分ぐらいのシーンでは何も起こらないから、何かが起こるところにカメラが居合わせることがすごく少ない。何かが起こるシーンは、後で放送する特集映像のほうが撮れています。駅伝などの中継映像は、そういうものです。本当に何かが起こるというのは、誰かが誰かを抜かす、体調が悪くなって転ぶ、そのくらいしかありません。でも、映画だから、そういう場面をつなげていけば、それなりには見えるかなと思いました。
 でも、箱根駅伝は、9割5分は何も起こらないのに耐えているからこそ、何かが起こった時は冷や汗ものだという感じがするから皆が見ているのではないですか? だから、映画も、お正月の『赤穂浪士12時間スペシャル』みたいに12時間ぐらいかけてやりたいですね。ずっと何も起こらない姿を撮れれば、一番駅伝ぽいじゃないですか? 出来ないでしょうが(笑)。

前作に続き漫画が原作となりましたが、漫画を映画化する際ならではの苦労はありますか?

 漫画には2種類あります。『NANA』や『ハチミツとクローバー』みたいに皆がビジュアルを知っていて、起こる筋立てにすごく思い入れがあり、その世界観自体に多くのファンがいるといった種類の漫画は、ある程度完成された世界観を持ち、それを皆が共有しています。一方、世界観全てを大切にして欲しいという要求が多くない漫画もありますが、今回の『奈緒子』はどちらかというと後者だと思います。たまたま漫画が原作だっただけで、小説の場合と同様に楽ではありませんでしたが、“こういうテーマのお話ですよ”とか“こういうことが起こるお話ですよ”みたいなことだけを守れば良かったので、漫画とは同じことはやろうとしませんでした。そういう意味では、小説が原作の場合と同じように撮れたと思います。

2次元とはいえ漫画は映像化されていますが、そういった点では映像化の際に苦労はありますか?

 直接、その質問の答えにならないかもしれませんが、漫画の『奈緒子』は波切島が舞台です。波切島は長崎県の壱岐島がモデルで、ほぼ壱岐そのものです。原作に登場する多くの舞台は、そのほぼ全てが実在しています。陸上部のある高校や、何回も出てくる猿岩という岩、港や合宿所、それらは全て実在します。そういった舞台の、漫画の中のコマと実在の写真を並べているホームページもあったので、撮影前にそれを見て「何だ、全部あるじゃん、良かったね」と安心したので、ロケハンはゆっくりスタートし、あまりまじめにやらなかったですね(笑)。でも、実際に行ってみたら皆小さいんですよ。漫画は表現主義でどーん! と書いてあるのですが、実際には小さかったので“しまった!”と思いました。そこから焦り始めたのかな。だから、なかなか漫画どおりの場所で撮れなかったので、原作に思い入れのある方を“モデルとなった場所が実在するのに何でそこで撮らないんだ!”といった気持ちにさせてしまうこともあるかと思います。やはり、漫画はすごいですよ。

2004年にはANIMAX(アニメ専門チャンネル)の『アズサ、お手伝いします!』でアニメのスーパーバイザーもなされていますが、アニメや漫画について新しい発見はありましたか?

 これは東京ムービーの仕事で、全体のストーリーの構成を、結局実現しなかったのですが何クール分かのシリーズ構成をやりました。長いお話を考えるということでしたが、アニメや漫画は好きなので、絵作りみたいなこともやれればやりたいですね。僕は、BSアニメアワーにも出ているんですよ。アニメも語らせたらうるさいんです。絵が描ければ、ちょっとやってみたいですね。

『奈緒子』では、映画やドラマで人気の高い上野樹里さんと、昨年の大ヒット作品『恋空』に出演していた三浦春馬さんを主演に起用されましたが、その理由は?

 樹里ちゃんのイメージは、奈緒子よりもっと明るい感じですが、今回の彼女の“全く違うほうをやってみたい”“今までのイメージとは逆のほうをやってみたい”といった気持ちはすごくよく判るなと思いました。彼女にとってはチャレンジだろうし、それに立ち会うことができればすごく面白そうだなと思ったので、お会いするのを楽しみにしていました、実際に撮影を始めてみると、樹里ちゃんとやるのはものすごく面白かったですね。今回の奈緒子は、基本的には『巨人の星』の明子お姉ちゃんみたいな存在で、“がんばって、飛雄馬!”って雄介を見ているだけなんです。ただいるだけ。『奈緒子』というタイトルなのに、実際に走っているのは雄介です。奈緒子はどこか物語を引っ張っていく狂言廻しとまではいきませんが、雄介に付き添っていく役目のようで、自分からアクションを起こすというよりも、何かをやっている雄介を見てリアクションを起こす役割だったんですね。樹里ちゃんとやってみると、すごく揺れるんですよね。池に石を投げ込むと水面がさっと揺れるように、春馬が動くと揺れるような感じがありました。こんなに揺れたり動いたりする役者さんはあまり見たことがありませんでしたが、もし彼女が揺れなかったら、リアクションが主である今回の主役にはなれないわけです。ですから、そんな樹里ちゃんを見て“あっ、これなら撮れるかな?”と思いましたし、ものすごく面白かったですね。“あっ、これを撮っていればいいのかな”って思いました。
 春馬は、今は『恋空』ですごい人気ですが『奈緒子』の撮影前はそれほどメジャーではないですし、僕も知りませんでした。雄介みたいな子はあまりいないので大丈夫かなと思っていたのですが、初めて会った時には、まだ『恋空』の髪のままで銀髪にしていたのに撮れると思いました。春馬は全く雄介の色ではなく、普段はきょとんとしているんですよね。そのきょとんとし具合から、こせこせしていないというか、「おはようございます!」みたいなタレント感のかけらもないというか、“あぁ、雄介ってこういう感じで良いのかな”“これなら撮れるな”と思いました。撮影を始めてみると、春馬が実際に走れるようになったし、良かったですね。実は、春馬はクランクインの直前に怪我をしたので、足が痛いから練習も辛いのですが、それでもやってくれました。途中で春馬がリタイヤしたら撮るものがなくなるので、大丈夫かなと心配していましたが、どんどん足の形も変わってくるのです。それまで知らなかったのですが、ボディビルの筋肉は前に付いていくのですが、長距離の筋肉はモモなど横に広がっていく感じなのです。春馬は、まさにどんどんそうなっていったので驚きました。実際に全部本人が走っているわけですし、面白かったな。

笑福亭鶴瓶さんも若い二人に勝るとも劣らないような存在感でしたが、なぜ起用されたのですか?

 日本には繊細な人は多いですが、鷹揚だったり大らかだったり、太っ腹な人はあまりいないじゃないですか? 鶴瓶さんの他に誰がいるんですかね? 本当にいないんですよ。原作の西浦役は大らかなところと怖いところを併せ持っていますが、これができるのは鶴瓶さんしかいないのではないかなと思いました。
 インドなど第三世界の映画を見ていると、皆ふくよかじゃないですか? 貧乏だと、やはりふくよかなスターを求めますよね。小林 旭だってふくよかだったし、高度経済成長ぐらいまではまだ日本でも。韓国も、最近は細くなってきたけれど、ついこの間まで皆がっしりしていたじゃないですか? そう考えると、今は本当にいないですね。いればそっちでやりたいけれど、皆こんなに細くなっちゃって。そういう人が好きなんですよね、骨が太い人が。

前作『さよならみどりちゃん』はBSiの番組の延長線上にある映画ですし、宮崎あおいさん・堀北真希さん・黒川芽以さん・夏帆さんを輩出した同局のドラマ『ケータイ刑事』シリーズにも関わられていますが、ご自身の活動の中でBSiでの仕事はどのような位置づけですか?

 BSiでは素晴らしいプロデューサーと出会うことができました。その人との出会いで『さよならみどりちゃん』を撮ることができ、たくさんの仕事ができるからいろいろな役者との出会いもある。例えば、50代の人の恋といった今までやったことのない題材をたくさん経験することができるから、本当に経験値を増やせるので、欠かすことが出来ないですね。それに、BSiの仕事がないと、本当にただの無職ですから(笑)。特に、BSiは多くの番組を自社製作している局なので、すごく忙しいですが良いですね。数を撮れるということは幸福なことです。

ところで、『さくらん』へ出演されていたそうですが?

 ちょっとだけ、4秒ぐらいです。ちょんまげをつけてスクリーンに出てきたら「俺だ!」と言うだけです。(花魁役の)土屋アンナさんが半玉から一本立ちする時に、初めて誰か旦那を取る、セックスをすることになるのですが、その相手は「俺だ!」と。撮影現場に行ったら大森南朋さんと忌野清志郎さんがいて、その次が僕だったので、目の前にカットラインが見えていましたが、残っていました。ちょんまげをつけたかっただけです(笑)。

以前、路面電車が好きだと言われていましたが、終盤近く、路面電車と三浦春馬さん、綾野 剛さんが併走するシーンが印象的でしたね。

 ロケ地が長崎だから、やりたいなと思いました。路面電車は絵になるというか、すごく好きなんですよ。鉄道本体も好きですが、駅が好きですね。地方に行ったら、必ず駅前のホテルに泊まり、ずっと駅と駅前広場を見ています。“あっ、タクシーが止まった”“あの人、ずっと待っている”とか。

特にお好きな駅は?

 米子は良いですよ。米子の駅前広場は最高です。日本の駅には広場がないじゃないですか? ヨーロッパの駅には広場があるでしょ? ヨーロッパの駅は行き止まりで、入ってきた方向に出て行く作りが多いですが、あれは表と裏を作らせないためです。でも、大部分の日本の駅はあのような作りだから、駅があると必ず表と裏が出来てしまい、街が線路で必ず分断される。だから、日本では駅前広場が少ない。よく判らないですが、パブリックなスペースが好きなんです。スナックが嫌いなんですよ。スナックが好きな人がいますよね? スナックって人の家の居間じゃないですか? “私の家にようこそ”“私のやり方に合わせて下さい”みたいな……。話がずれていますね(笑)。それと対極な場所にいたい。映画館もパブリックじゃないですか? 映画館が好きです。だから、ロビーも好きです。ロビー、広場、映画館とか、良い感じのところがあるじゃないですか? 1日中、そういう場所にいたいですね。自分の家でもない、他人の家でもない……。公園はあまり好きじゃないんです。公園はあまり面白くないですよね。公園が舞台になっている映画は、だいたいつまらないですよ。

最後に『奈緒子』の見どころをお願いします。

 とにかく、若い肉体が躍動している映画です。映画は、何かひとつの快感原則さえあれば見ることができると思います。『リバー・ランズ・スルー・イット』でも、フライフィッシングをするのが気持ちいいじゃないですか? その代わりが『奈緒子』では走ることです。見た後で、少しは走りたくなるんじゃないかな?と思います。そうなっていただけたら、すごくうれしいですね。映画の中の走りは全て本物ですから、ちょっとだけ走りたくなるんじゃないかなと思います。そんな気持ちになるため映画館に観に来てくれたら、すごくうれしいです。

 駅伝という単調なスポーツを題材にしながら、さまざまな想いを心に秘めた登場人物たちが、ラスト・シーンのゴールに向けスクリーンを駆け抜ける。日常生活で忘れていた大切なものを思い出させてくれる、まさに映画ならではの感動が満喫できるこの春必見の傑作だ。

 (取材・文・写真:Kei Hirai)

公開表記

 配給:日活
 2008年2月16日より公開

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