インタビュー

『リミッツ・オブ・コントロール』ジム・ジャームッシュ監督 オフィシャル・インタビュー

©Takuhiro Yoshizawa / Marcom Visual Creation
©2009 PointBlank Films Inc.

“解釈の自由”を示すこのタイトルを気に入っている

 カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを受賞した『ブロークン・フラワーズ』から約4年、ジム・ジャームッシュ監督待望の最新作『リミッツ・オブ・コントロール』が9月19日から日本公開される。公開に先駆け、ニューヨークにてジム・ジャームッシュ監督に緊急インタビューを行った。

ジム・ジャームッシュ

 米オハイオ州アクロンで生まれる。現在はニューヨークに在住。
 代表作には『パーマネント・バケーション』(80)、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』」(84)、『ダウン・バイ・ロー』(86)、『ミステリー・トレイン』(89)、『ナイト・オン・ザ・プラネット』(91)、『デッドマン」』(95)、『イヤー・オブ・ザ・ホース』(97)、『ゴースト・ドッグ』(99)、『コーヒー&シガレッツ』(03)、『ブロークン・フラワーズ』(05)、そして「『10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス』(02)の1エピソードである短編の「女優のブレイクタイム」などがある。

この作品のタイトルはウィリアム・S・バロウズが70年代に書いた同名エッセイからとったと聞きました。『リミッツ・オブ・コントロール』とはどのような意味ですか?

 タイトルは、ウィリアム・S・バロウズが70年代に書いた、言葉(言語、正式には、言葉のコントロール・メカニズム)についての同名エッセイから取ったアイデアなんだ。“解釈の自由”、オープンに理解することができるという意味を示すこのタイトルを気に入っている。意味がよくわからない。でもそれが良いと思ってね。そもそも、映画も視聴者が自由に解釈できるという意味では、同じだと思うんだ。作った自分は意味が分かっている。でも基本的に映画は、人が自由に理解をするものだと思っている。今回のタイトルは、こういった考えがあって気に入ったんだ。自分たちの支配には限界がある。もしくは自分自身の支配……なんだろうな。

初めてクリストファー・ドイルと一緒に仕事をしてみていかがでしたか?

 クリスと僕は昔からの友達で、いつか一緒に作品を作りたいと話していた。数年前に、Jack Whiteというバンドの曲「The Raconteurs」のミュージック・ビデオを作っただけだったのでね。撮影に入る前は、台本、ショット・リストがないので、本当によく話し合った。色、フレーム、照明、カメラの動き、出演者の動き、映像からどんなイメージを出したいか、スタイルなどについてね。最初は一人で撮影予定地に行き、その後にクリスと数回一緒に行った。ロケハンを重ねることは大切で、照明の質やスタイルなど、本当に多くについて相談したよ。これは(映画を作る上で)普通のプロセスだけどね。クリスは、本当にアイデアが豊富なんだ。尽きることがない。これがダメならあれは?とアイデアが次々と出てくる。まるで、川を泳ぐ魚のように。型にはまってないし、エネルギッシュだし、アイデア・マンだよ。僕にとっては素晴らしい撮影監督だった。

今回、この作品の中で登場するキー・パーソンが同じセリフを繰り返し、似たように動作を繰り返し行いますが、これはどのような狙いなのでしょう?

 僕にとって、それは芸術のバリエーションの一つなんだ。例えば、アンディ・ウォーホール、ファッション、ポップ・ミュージック、映画の脚本にもバリエーションがあるよね。僕も多くのバリエーションを使ってきた。『ミステリー・トレイン』では3つのバリエーション、『ナイト・オン・ザ・プラネット』では5つ。『コーヒー&シガレッツ』にもいくつか繰り返すシーンがある。確実に自分が好きな作法なんだが、僕としては、「繰り返す」ということより、バリエーションに焦点をおくことが大事だね。でもバリエーションにおける「繰り返し」も非常に大切なんだ。台詞も何度も繰り返されているけど、前とは違ったバリエーションがあるはずだ。

あなたの作品ではいつも音楽が映画の一部としてとても重要な部分に位置していますが、音楽はどのようにつけていますか?

 映画を考える時、音楽を聴いている。また映画を書く時も音楽を聴く。音楽は、ストーリーにインスピレーションを与えてくれるからね。『リミッツ・オブ・コントロール』では、4組の音楽を使っている。一つは、Borisの「マスター・マインド・イン・ア・ウェイ」。もう一つはサン、そしてブラック・エンジェル。Borisの音楽は既に存在していた音楽で、サイケデリック、インストゥルメンタル……ジャンルはそちらに任せるが、今回のメインの音楽だった。フラメンコの音楽、そしてシューベルトの曲もあったね。自分では、ロック・ミュージックが今回の映画のイメージだと思っていた。あ、アースの曲もあったな !全ての音楽は、ランドスケープ(地形)みたいで、夢みたいというか……想像の世界へと導くようなものだね。僕にとって音楽は、映画製作、脚本の段階からとても重要なんだ。

この作品に使われている日本のバンド、Borisの曲をどのようなきっかけで知ったのでしょうか? Borisについて教えてください。

 Borisは本当に最高に良いバンドだ。嬉しい気持ちにさせてくれる。型にはまらない、クリエイティブな音楽なのでファンなんだ! 何度かBorisの演奏を見たことがあるし、実際に会ったことも数回ある。10年くらい前に、友人からカセット・テープをもらってからファンになり、自分で彼等の音楽を探したりもした。チャンスがあればライブも行ったよ。よく分からないけど、いろいろな物と音楽とが美しく混ざって融合しているんだ。ジャンル分けができないけど、メタル系、ノイズ系、彼らのメロディーが好きだ。全てを受け入れている音楽といった感じ。彼らに影響を与えるもに対し、楽器で返答しているような感覚が伝わってくる。それをライブで見ると素晴らしいよ。彼等は音を聴いて、作って、形だけの音楽じゃない。同じ曲でも、毎回違った演奏をする。その時の気分に合わせて演奏するから、僕はインスピレーションをたくさんもらうんだ。自分で音楽を作曲する感覚で、この映画も作った。

かつてティルダ・スウィントンを変身させるのが好きだったとインタビューで話していますが、今回はどのようなイメージで彼女のキャラクターを作りましたか?

 僕は、ティルダについて話すのが好きなんだ。変わったかつらをかぶせたり、変身させるのが好き。今回ティルダの台詞を考える時、彼女が数年前に書いた「映画とは何か?」というエッセイからいくつかのアイデアをもらったんだ。ある日、彼女の8歳の息子が、「映画ができる前の人々の夢はどんなものだったんだろう?」と彼女に問いかけたんだという。彼女は「それを応えるには時間が必要ね」と言って、エッセイを書いたんだ。「本当に美しい映画とは何か? 映画の可能性とは」についてのエッセイを書いた。そして悪い映画についても書いていた。そこからいくつかのアイデアを得て、彼女のキャラクターをシネマのエンジェルのように仕上げた。よって、非現実的な役柄なんだよね。また、昔自分が書いた別の映画の脚本で、ティルダをキャストにした時の役柄も取り入れた。例えば、カウボーイ・ハットや、ブロンド・ヘアーなどは、昔書いた脚本に出てくるキャラクターで、今回はそれらを一緒にまとめてみたんだ。

©2009 PointBlank Films Inc.
これまで何度かビル・マーレイと仕事をしていますが、今回は彼と役柄についてどのような話をしましたか?

 ビルとは今回で3回目なんだけど、彼は素晴らしいコメディアン・タイプの俳優として知られている。『コーヒー&シガレッツ』の役もそうだったね。『ブロークン・フラワーズ』では、もう少し静かな役。でもまだ明るい男役だった。今回の役柄には前々から案があって、普段彼が出ているアメリカ映画の役柄は、メタファーのように、面白くもなければナイス・ガイでもなかったりする。また、皆からの嫌われ者で、権力を使う男、品のない男として描いた。彼は俳優として演技の幅はとても広い。そんな中、コメディー部分に関してはズバ抜けている。だから僕は、ビルに電話した時に、「こんな役柄なんだけどどうだ?」と聞いたら、「お。それはやってみたいな!」と返事が来た。もちろん、前にも彼はそういう役を演じていたはずだけど……。僕はそういった皆の期待を裏切ることをやりたかった。そういう仕事をしたかった。周りからは想像していたのと違ったと言われたけど、それは全然気にしていない。だってこの映画自体が、皆の期待はずれなことをしているからね。

『ミステリー・トレイン』以来20年ぶりに一緒に仕事をした工藤夕貴との再会はどうでしたか?

 ただ単にすごく嬉しかったよ。彼女の周りというかスピリットに光が差していた感じだった。素敵な人だよ。少女から女性になったし、いろいろな経験もしているので、もう別人になっているのかと思ったら、心も美しさも前と全く変わっていなかった。愉快で、好奇心があって、頭がよくて、オープンで……。仕事するのに最高だよ。普段とは違うことをすることに対してもオープンな人。一つ後悔していると言えば、ゆっくり時間がとれなかったこと。撮影をしていたので夕食もできなかった。少しだけ話す時間があった時には、日々の彼女の生活について話したよ。将来は、もっと長い時間一緒に仕事ができるようなことを考えないと……と思っている。

©2009 PointBlank Films Inc.
工藤夕貴演じる“分子”(モレキュール)はどのようなキャラクターですか?

 彼女の役は、何かに例えた役柄だ。科学の世界で発生する興味とか、想像力などを担う役なんだ。台詞では、「分子が物をどう構造するのか?」について話している。可能性はたくさんあるのに、我々は全ての可能性を捨てている気がする。彼女には冷たさを感じさせないような話し方をして欲しかった。だからあえて、彼女には科学のレクチャーを省いた。夕貴はこのキャラクターにぴったりだったよ。英語でも彼女はこういう話(科学について)ができるし、またイザック役が彼女に興味を示すような役を演出したかった。ミステリアス、フェミニン(女性的)、少しセクシーで、支配的。でも冷たくなくて、押しつけるような性格じゃない。よく映画で出てくる、ミステリアスな変なアジア人の役柄ではなく、夕貴そのものを少し役柄に入れたんだ。

以前、主演のイザック・ド・バンコレが実際にエスプレッソを2杯注文したのに、ウエイターが“ダブル・エスプレッソ”を持って来たエピソードを映画に取り入れたそうですね?

 イザックは84年から知っている友人。ずっと仲が良くて、15年前にカフェに行った時、彼は「エスプレッソ2杯」と注文したら、ダブル・エスプレッソが出て来た。普段は、やさしくて、情が深い人なのに、すごい勢いで怒ったんだ。「俺は確かに2つって言ったよな。温度にこだわりがあるんだよ。なぜエスプレッソが2杯なのかという理由を君に話す必要もないが、とにかく2つのエスプレッソが欲しいんだ」と、エスプレッソに対してすごくこだわるから、僕はびっくりして「イザック、コーヒーにこだわるねぇ」と言うと、「俺はこだわるよ。彼が持って来たものは飲まない」と言っていた。脚本を書く時にそれを思い出して「2つの別々のエスプレッソ」は、一つの良いコードとして使えるな、と思って書いたんだ。友達の関係を表すシーンでもあるよ。

いつもあなたの作品には印象的なシーンにコーヒーとタバコが出てきますが、これはあなたにとって必要不可欠なアイテムですか?

 それらは、日常生活の中で最も頻繁に使用されるドラッグだと思うんだよ。砂糖も同じ。何故だろうね。コーヒーは86年から飲んでないが、紅茶はよく飲む。そこには個人的な考えは含まれていない。タバコやカフェインは、僕にとってドラッグだと思う。良くもなければ悪くもないと思っている。でもドラッグだよね。パワフルだよ。人によっては、喜びだと感じる物でもある。たばこは健康を害する物なのに、頭が良い人までタバコを吸っている。ちなみに僕もタバコを吸う。これについて僕はジャッジはしないけど。

様々な映画、文学、音楽などから受けるインスピレーションが、あなたの映画作りの原動力となっているようですが、年齢やキャリアを重ねる中で、アンテナに引っかかるもの、好きだと思うものは変わってきたりしますか?

 分からない。そんなの考えたこともないな。僕は今を生きるだけだから。過去もなく、将来もない。『ブロークン・フラワーズ』の台詞のようにね。普段から、自分がオープンになって、いろいろな物事を受け容れるようにして、この天体にある文化を知るようにしている。アフリカの映画、インドネシアの音楽、トルコの本、エジプト……。気に入った物は自分の中に残っている。「僕はアメリカ人だから、それが自分の文化だ」なんて思わないし、僕はアメリカ人とも思わない。ただこの天体に生きる一人の人間とういうメンバーの一員、というか生き物のメンバーの一人だと思っている。植物や動物より人間のほうが価値があるとも思っていない。ジャッジメントはしないけど、とにかく良いなと思った物は心に感じて残しておくし、もっと調べたりもする。好奇心は多いほうだ。人生は短いけど、たくさん学び経験することができる。
 自分が好きな映画でさえ、生涯の中で全部見終えることはできないよ。音楽、場所、人……時間が過ぎるのは早いから、来るもの拒まずで受け容れるし、僕に話しかけてくるものを大切にする。

あなたの新作を日本のファンが大きな期待を寄せています。メッセージをお願いします。

 何て言ったら良いか分からないけど……。日本には変わった人が多いということを改めて知った。それは僕にとってとても嬉しいことだ。日本の人々は、それぞれもののとらえ方が違ったり、新しい見方をしたり、感謝の気持ちや表現力も豊かだ。日本にはオープンな人が多く存在するということは素晴らしいと思う。それらの点に僕は敬意を感じている。ちなみに、日本人を日本人と特定するのは好きじゃない。同じ生き物だからね。しかし、日本にはインスピレーションをかき立てる文化がたくさんある。歴史がありながら、新しい方法で将来を見ることができる。もしかしたら、地球上の問題をあなたたちが解決できるかもしれない。素晴らしい想像力をもっているからね。君たちが世界に与えてくれるものに感謝している。映画、音楽、才能がとても豊かだ。発信し続けてほしい。映画を観てくれてありがとう。僕にとって本当に意味のあることなんだ。ありがとう。

公開表記

 配給:ピックス
 2009年9月19日よりシネマライズ、シネカノン有楽町2丁目、新宿バルト9、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー

(オフィシャル素材提供)

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