イベント・舞台挨拶

仏の俊英ラジ・リ監督特集 二本立て試写会『レ・ミゼラブル』+『バティモン5 望まれざる者』

© SRAB FILMS – LYLY FILMS – FRANCE 2 CINÉMA – PANACHE PRODUCTIONS – LA COMPAGNIE CINÉMATOGRAPHIQUE – 2023

 登壇者:ISO(ライター)×奥浜レイラ(映画・音楽パーソナリティ)

 フランスが生んだ新進気鋭監督ラジ・リによる世界待望の最新作がついに日本で公開される。
 ラジ・リの名を一躍世界に轟かせたのは、パリ郊外を舞台に警官と少年たちの衝突を描いた『レ・ミゼラブル』。この作品は、第72回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞ほか各国の映画賞を総なめにし、世界に衝撃を与えた。それから4年。ラジ・リ監督のもとに『レ・ミゼラブル』製作スタッフが再集結して生み出したのが5/24(金)公開となる最新作『バティモン5 望まれざる者』だ。本作で描かれるのは、移民たちの居住団地群の一画=バティモン5の一掃を目論む「行政」とそれに反発する「住人」による、“排除” vs “怒り”の衝突。この度、本作の公開を記念し、特別企画ラジ・リ特集二本立て試写会(『レ・ミゼラブル』+『バティモン5 望まれざる者』)を開催。花の都が抱え続ける社会問題を圧倒的な凄みと臨場感で映し出すラジ・リ監督の魅力について、豊富な映画知識と深い見解で雑誌MOEなどさまざまなメディアで執筆し、X7.4万超のフォロワーを誇る人気ライターISOと、映画・音楽パーソナリティとして活躍の奥浜レイラがトークセッションをした。

 前作『レ・ミゼラブル』と、5月24日に公開される新作『バティモン5』を連続上映! このスペシャルなイベントのために、フランスから到着ほやほや、ラ・ジリ監督自身が自撮りしたスペシャルなメッセージ動画から始まった本イベント。前作『レ・ミゼラブル』に続き『バティモン5』は「郊外の作品の現実を映し出している」「皆さんに気に入ってもらえると嬉しい」とメッセージを送り、「ヨロシク」と日本語のコメントで茶目っけたっぷりに締めくくった。

 続いて、ライターISOと映画・音楽パーソナリティ奥浜レイラのトークセッションがスタート。横浜フランス映画祭参加のために、3月に来日したラジ・リ監督とすでにインタビュアーとして対面済みのISO。ラジ・リ監督は、『レ・ミゼラブル』『バティモン5』と同じくバンリュー(パリ郊外)が舞台であり、自身が製作と脚本として関わったNetflix映画『アテナ』の監督の新作のプロデュースを手掛けていることに加え、無償で映画作りを学べる学校を世界中に設立中であることを彼自身から直接聞いたことを報告。学校について「設立した理由というのが、ラジ・リ監督自身が貧しく、映画学校に行けるような環境じゃなかったと。自分のような若者に映画を学んでほしかった」と自身の経験や思いから生まれたプロジェクトだったことを告げ、同時に、閉鎖的なフランス映画界に対して、お金持ちでエリート階級の人ばかりが活躍するのではなく「若い世代で風穴を開けたかった」「ラジ・リ監督は革命を起こしたかった」と説明。実際、彼が学校を創立したエリアの一つモンフェルメイユではスタジオも設立、結果、この4〜5年でパリからモンフェルメイユに人が流れてくるようになったと、まさに<革命的>な現実を示した。

 トークセッション前に上映されたのは、第92回アカデミー国際長編映画賞にノミネート、2019年のカンヌコンペティション部門では『パラサイト』とパルムドールを争った末に審査員賞に輝いた、ラジ・リ監督の前作『レ・ミゼラブル』。フランス公開時は初日動員数7万人を突破。週末ランキングでは『アナと雪の女王2』に次ぐ、2位という見事な成績を残した。実際に現フランス大統領であるマクロンも鑑賞したという国民的話題作でもあり、実際、『レ・ミゼラブル』を鑑賞したことで「パリの郊外の現実は理解した、早急にアクションを取る」という話をマクロン大統領自身が語ったというラジ・リ監督のインタビューをISO自身が聞いたという。そのため、ラジ・リ監督にその後日談を聞くと「マクロンは『何もしていない』。『むしろ今の状況を見ると確実に悪化している』と言っていました」と呆れ返るような返答を明かし、「日本でもそういうことが時々ありますけど、映画を観て感想を言って、もっともらしいことを言っているぞと思ったら、何もしないみたいなことってね。フランスでも起きているんですよね」と苦笑。そのため「『バティモン5』は、それに対する回答、痛烈なアンサーだと思います」と展開した。

 最初に『レ・ミゼラブル』を観た時の感想を求められたISO。もともと本作はラジ・リ監督の実体験に基づき製作された作品と理解はしていたが、それでも「デフォルメされているんじゃないかな?」と考えていたという。だが「今回改めて観てですね。かなり事実に基づいている作品だなと、改めて思いました」と実感するに至ったことを告げ、その理由として、2023年フランスで起こった暴動について触れ「あの事件も、フランスの郊外の有色人種の若者が警察に射殺されたことをきっかけに暴動が起きました。それに対する暴動で、いろいろ映像を見ていたのですが、それも花火で警察に攻撃したりとか。本当にやっていることが映画のままだったので、本当に実体験そのまま落とし込んでいるんだなと。ちょうど黄色いベスト運動とかも同じ頃だと思うので、デモとか暴動というのは、すごく身近な状況で撮られた作品なんだなと、今見ても思う」と力を込める。そしてラジ・リ監督が、元々はドキュメンタリー作家であったことにも触れ「映像的なリアリティもそうですし、現実とフィクションの曖昧さ」「最初のワールドカップ優勝のシーンとか、あれはもうワールドカップに優勝したときの街の人々の様子を実際に撮っているので、ただの喜んでいる人たちの映像なんですよね。そういうリアリティラインがかなり曖昧なところが、そういう現実感につながっているんじゃないかな、と、個人的にはすごく感じます」と感嘆した。

© SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS

 2作続けて郊外(バンリュー)の団地を舞台にした作品を撮り続けているラジ・リ監督。「3作目があり、3部作のようになるという話もある。住まいは人間の命に直結するものなので、ラジ・リ監督が実際に生まれ育った<団地>で、それを撮っていくということが、作品にとって大きな意味がある」と、団地というキーワードの重要性を伝えた奥浜に対し、ISOも「フランスというと皆さんが持つ華やかなイメージがあるところを、監督は何とか<現実を見せたい>というところが、多分あると思うんですよね。監督自身、そういう現実を団地で描くことによって表現しているのかな、というのをすごく感じる」と分析。

 さらに2006年からフランスで開催されている<郊外(バンリュー)映画祭>についても言及した2人。奥浜は「『レ・ミゼラブル』では、警察署長の役で出演するジャンヌ・バリバールが監督した『モンフェルメイユの驚くべき人たち』という作品が、この映画祭でこの『レ・ミゼラブル』と同じ2019年に上映されていた」と驚き、郊外(バンリュー)映画として有名なマチュー・カソヴィッツ監督による『憎しみ』については、ISOはラジ・リ監督が「あの作品はどうしても『<郊外じゃない人>が撮っている』というところもあって、かなり表層的な映画らしいんですよね。それを崩したかったというのもあって、ラジ・リ監督自身で撮った」と明かしていたことも伝えた。

 <『レ・ミゼラブル』より、『バティモン5』が好き>と断言したISO。「『レ・ミゼラブル』は、人種とか宗教の衝突、暴動、デモとかを描かれていて、フランスの現実ではあるのですが、自分ごととしては、なかなか見ることができなかった作品だった」だが『バティモン5』に関しては「貧困、格差に加えて政治腐敗や、若者の政治参加について描く作品」であり、結果的に<自分ごと>として見られたと告白。「実はラジ・リ監督もそれを狙っているみたいで、今までドキュメンタリーでも劇映画でもモンフェルメイユを舞台にしてきた監督ですが『バティモン5』は架空の街(モンヴィリエ)にすることで、より作品に没入共感させることに成功したはずと見解を述べた。

 <『レ・ミゼラブル』も大好き>だという奥浜。『バティモン5』は「『レ・ミゼラブル』で描かれていた、宗教であるとか人種間の分断であるとか、あとは政治への不信感みたいなところが警察権力への不信から、ちょっと目線が動いて、さらに解像度が上がったな、という印象があります」と言い。「女性の登場人物が以前よりもグッと増えていますよね」とも指摘。ISOも「すごく重要ですよね。『レ・ミゼラブル』では、少年たちに焦点を当てた作品とはいえ、ほぼ女性がいなかったですもんね」と振り返りながら『バティモン5』でなぜ女性が多いのか監督へ質問した際に、政治参加する女性や、声を上げる女性、主張する女性たちなど「そういう女性をなかなかみんな撮らない」「撮るとしても代わりに男性が主張するとかということがあるので、ラジ・リ監督は<そういう人がいるよ>というのを可視化したかった、かつ<リスペクトを込めたかった>という思いがあり、結果、力強く主張する女性をたくさん登場させた、というところがあるらしいです」と想いを伝えた。

公開表記

 配給:STAR CHANNEL MOVIES
 5/24(金) 新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国公開

(オフィシャル素材提供)

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