インタビュー

『ストーン・カウンシル』ギョーム・ニクルー監督 単独インタビュー

©2005 UGC YM – Integral Film – Rai Cinema – TF1 Films Production

普通の女性が子どものために、普通である状態を超越し、強い母親に変貌していく物語だ

 世界的な大ヒットを記録した『クリムゾン・リバー』の原作者ジャン=クリストフ・グランジェの傑作小説を映画化、“イタリアの至宝”モニカ・ベルッチがこれまでの妖艶なイメージを封印し、息子を魔の手から守るシングル・マザーを熱演している『ストーン・カウンシル』。怪奇と幻想が交錯するスリラー大作をものにした新世代フレンチ・スリラーの旗手、ギョーム・ニクルー監督が、2007年フランス映画祭での上映に合わせて来日、一般公開を前にインタビューに応えてくれた。

ギョーム・ニクルー監督

 1966年生まれ。22歳で劇団を結成し、TV映画を制作。劇場長編処女作は『Faut pas rire du Bonheur』(95)。ジャンル映画、特にフィルム・ノワールの世界やジャン=ピエール・メルヴィル作品の熱烈なファンである彼は、『Le Poulpe』(98)やマリオン・コティヤール主演『Une affaire privee』(01)、『Cette femme-la』(03)を発表し、新世代フレンチ・スリラーの旗手となる。今回のモニカ・ベルッチの起用をはじめ、俳優の既存のイメージを覆す大胆なキャスティングも作品の魅力のひとつ。『Une affaire privee』『Cette femme-la』の3部作完結編となる作品『La Cle』を準備中。

今回、ジャン=クリストフ・グランジェの小説を題材にしていますが、どういったところに魅力を感じられたのですか?

 今回のストーリーに関しては、とても明快で強さを感じさせるものだったということがある。超常現象に絡んだ陰謀に巻き込まれ、さらわれてしまった自分の子供を、地の果てまで助けに行く母親の物語だけど、恐怖の要素を具体的に登場させているのではなく、恐怖を暗示するようなスタイルで書かれているんだ。だから映画でも、雰囲気だけで圧迫感のあるスリラーにしたいと思った。

ビッグ・バジェットの映画ですが、あまりそれを感じさせない抑制された演出をされていたのがよかったと思います。グランジェの小説の映画化作品には『クリムゾン・リバー』などがありますが、そうした映画についてはどのように思われますか?

 『クリムゾン・リバー』は良く出来た映画だと思うよ。ただ、今回と違うのは刑事ものだということだ。物語の中で刑事事件が発生するし、刑事が登場するからね。でも、『ストーン・カウンシル』に関しては、普通の女性が普通である状態を超越していくところが物語の根幹となっているので、展開のメカニスム自体が違うんだよね。
 『クリムゾン・リバー』シリーズは映画としてとても効果的に作られた作品だと思うよ。少なくとも利益を得るという意味ではね(笑)。

小説から大きく変えた部分はありますか?

 かなり変えているよ。非常に特徴的なプロセスを経て撮ったということもある。この映画を撮るにあたっては、ヒッチコック的手法を採用したんだ。つまり、原作を1回読んでから本を閉じ、思い出してみるというやり方で、第一印象を大切にした。その第一印象から想像力を働かせて、原作と自分の想像したものをリンクさせていったんだ。

具体的にはどういった部分を主に変えたのですか?

 映画ではより多く現実性をもたせたという点だね。小説では特に後半部分で怪奇的、空想的要素が全編を覆っていたので、そうした部分を映画では最小限に抑えているんだ。前半と後半部分が断絶してしまわないように、一貫性をもたせることに努めた。

つまり、小説の後半部分は超常現象的な要素が多かったということですか?

 そうなんだ。小説の後半では多くの超常現象が描かれている。それは文学では許されることであっても、映画化するにあたっては、より具体的なビジョンを観客に提供する必要がある。文学においては、読者が自ら想像力を働かせ、頭の中で映像を喚起するものだけど、映画ではより信憑性を高める作業が求められてくるからね。

モニカ・ベルッチさんはこれまでに演じたことのないような役柄に挑戦していましたが、この役にどうして彼女だと思われたのですか?

 要は、彼女との出会いがあったからだ。僕は役者本来がもっている個性を見ながらキャスティングをするので、その人がこれまでどういった作品でどのような役柄を演じてきたかということには左右されない。もちろん、モニカの美しさについては十分認知しているけどね(笑)。そもそも美しさというのは主観的ものだと思うよ。彼女が新たな姿に変貌していく様を見るのが何よりも感動的なんだ。この映画の中では、最初彼女は普通のか弱い存在として登場するけど、そうした普通の女性が強い母に変貌していくのを見るのが醍醐味だと思うね。

これまでのモニカ・ベルッチはどちらかというと、自身の“女性”の部分を強調する役柄が多かったと思いますが、今回はむしろ、それを抑え込むような姿で登場していますね。

 セックス・アピールというのは概して男性に向けられているものだけど、その表現の仕方としては必ずしも、全てを見せてしまうことだけが効果を生むわけではないと思うんだよね。むしろ、見せないことによって観客の想像力を刺激するということもある。だから僕が選らんだ表現方法も、直接的に見せるのではなく、暗示させるというやり方だった。それは“恐怖”に関してもそうだし、“愛”についてもそうだ。特に“愛”に関しては、僕の最新作の中で強く暗示させている要素なんだけど、『ストーン・カウンシル』においても、母と子の愛の形で見せているね。母が子供のために世界の果てまで行くという行為に深い愛が表現されている。

ヒロインのキャラクターを作る上で、モニカ・ベルッチに要望されたことはありましたか?

 「僕を信用してほしい」と言ったよ(笑)。

カトリーヌ・ドヌーヴさんも、こういったスリラーへの出演は珍しいですね。

 そうだね、特に悪役はね(笑)。そうした意味でも彼女には挑戦だったと思うよ。

ドヌーヴさんはこの役をすぐに受けられたということですが、脚本に惹かれたのでしょうか。

 脚本もあったと思うけど、これもまた出会いだったと言える。もちろん、彼女の立場になって気持ちを表現することはできないけど、少なくとも一緒に仕事をしたいという気持ちがあって、この企画がタイミング良くオファーされたということはあったと思うね。

今回はドヌーヴさんも来日されていますが、お会いになったんですか?

 会ったよ。でも今回、(フランス映画祭の団長を務めている)彼女はすごく忙しいからね。時々すれ違ってるよ(笑)。

息子のリウ=サン役はオーディションで選ばれたのですか?

 そう。ただ、ほとんど他の選択の余地はなかったくらい、早い段階でニコラ・タウを選んだ。僕の求めていた条件は大変明確で、彼はまさにそれにはまっていたからね。初めて会ったときからニコラにはすごく惹かれるものがあって、“彼だ”と確信したんだ。

ニコラ・タウくんは中国系フランス人なのですか?

 いや、ベトナム系だよ。ただ、モンゴル系のルックスはしているけど、もうちょっと複雑で、中国やロシアの血も混じっているようだ。

フランスの子役はとても自然な演技をすることにいつも驚かされますが、どのように演出されるのですか?

 基本的に、子どもには演技をつけられないと思うね。そもそも子役がいいのは、自然でありシンプルに反応するからなんだ。「こういうシーンを演じて」と言うと、子どもは本能的かつ直感的にそのシーンに入っていく。大人の役者だと演じるプロセスはより複雑で、どうしても頭でいったん消化してからでないと自分のものになっていかないし、心理状態を理解しないと演じられないということがあるけど、子どもはそういうプロセスを一気に省いて、直感的に反応して演じてくれるね。

スリラーというのは難しいジャンルだと思います。先の展開が読めてしまったら面白くありませんし、複雑すぎても入り込めなくなります。監督がスリラーを作る上で気をつけられることは何ですか?

 確かに、スリラーは難しいね。個人的な趣味もあるけど、原作も尊重したいし、また観客の期待に応じたいということもある。観客がスリラーに期待するのはどうしても、次第に募っていく不安、恐怖だったり、サスペンス的要素、ハラハラドキドキするような展開だったりするね。ただ、それだけではなくて、スリラーとジャンル付けされたものの中にも、スリラー以外の側面を求めている観客もいると思うんだ。そういう方たちのためにも、僕がメインのプロットと平行する形でこの映画の中でも設定しているのが、副次的な見方ができる要素だ。つまり、本作でもそうだし、僕の他の映画でもそうなんだけど、こうしたスリラーの中にも神話的要素や恐怖をかきたてるおとぎ話の要素を盛り込んでいるんだ。例えるなら、「白雪姫」「親指姫」「シンデレラ」といったおとぎ話が引用されている。おとぎ話というのはいわば、心理的な累積とも言える一種の普遍的な記憶だ。時代を超越した舞台において、そうしたおとぎ話的な要素を展開させることは、僕の映画にとって非常に重要なことなんだ。

監督ご自身がお好きなスリラー映画は?

 1本を選ぶのは難しいね(笑)。スリラーに限らなくてもいい? 僕はストーリーだけでなく、そこに置かれた人間の状態そのものにとても興味をかきたてられるんだ。例えば、パトリック・ドヴェールが主演しているアラン・コルノー監督の『セリ・ノワール』(79)、エリオット・グールドが主演しているロバート・アルトマン監督の『ロング・グッドバイ』(73)、ドナルド・サザーランド、ジェーン・フォンダが出演しているアラン・J・パクラ監督の『コールガール』(71)なんかが好きだね。ストーリーやその中で描かれる不測の出来事そのものよりも結局、登場人物が僕の興味の対象なんだ。

現在は、3部作の完結編となる作品に取り掛かっていらっしゃるとか?

 そう、編集をしている最中なので、もう明日には日本を発たなくてはいけないんだよ。ただ3部作とは言っても、ストーリー的には全部独立していて、話がつながっているわけではないんだ。助演クラスで出演している俳優たちが、同じ役を演じているということはあるけどね。最新作の主演はギョーム・カネとヴァネッサ・パラディで、二人は初めて登場している。

最後に、これから映画をご覧になる方々に向けてメッセージをお願いいたします。

 『ストーン・カウンシル』を監督したギョーム・ニクルーです。恐怖を体験したいと思われるなら、超常現象から息子を救うため、世界の果てに赴く母の冒険が見たいと思われるなら、ぜひこの映画をご覧ください。

 フランス映画祭開催中、全8本のインタビューの7番目となったのが今回で、ほとんど生ける屍・脳死状態だった私は、トホホなくらい間抜けたことを時々伺ってしまったにも関わらず、男性版モナリザのように神秘的な微笑みを絶やさずにお話しくださったニクルー監督に感謝。監督の作品とはつゆ知らず、『Une affaire privee』をたまたま友人から借りていてまだ見ていなかったのも間抜けた話で、後悔しきりだった。
 あのモニカ・ベルッチがほとんどスッピンで(それなのに美しいのはどういうこと?)体当たり演技を披露している『ストーン・カウンシル』、好きな映画として挙げたタイトルからも分かるようにシネフィルで、とりわけスリラーには一家言ある監督の力作はぜひ劇場で観るべし。

(取材・文・写真:Maori Matsuura)

『ストーン・カウンシル』作品紹介

 ローラは、養子としてモンゴルから連れ帰った息子のリウ=サンと共に、パリで暮らしていた。リウ=サンの7歳の誕生日が近づいた頃、その身体に不思議な形のアザが現れる。そしてそれをきっかけに、母子の周囲で奇妙な現象が起き始めた。幻覚の中でローラを襲う、不気味な蛇や鷲。悪夢に襲われたリウ=サンは、聞いたこともない言語を口走る。そしてある夜、ローラの運転する車が事故を起こし、リウ=サンは昏睡状態に陥ってしまった――。

原題:Le Concile de Pierre、2006年、フランス、上映時間:102分)

キャスト&スタッフ

監督:ギョーム・ニクルー
出演:モニカ・ベルッチ、カトリーヌ・ドヌーヴ、モーリッツ・ブライブトロイ、サミ・ブアジラ、エルザ・ジルベルスタイン、ニコラ・タウほか

公開表記

配給:アルバトロス・フィルム
2007年6月9日(土)より、銀座シネパトスにてロードショー

(オフィシャル素材提供)

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